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サウジアラビアの現実主義がウクライナに不可欠であることがジェッダで証明された

サウジアラビアは週末、ロシア・ウクライナ紛争の平和的解決を目指した会談を開催した。(SPA)
サウジアラビアは週末、ロシア・ウクライナ紛争の平和的解決を目指した会談を開催した。(SPA)
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07 Aug 2023 12:08:55 GMT9
07 Aug 2023 12:08:55 GMT9

サイモン・アンホルト教授(1990年代後半に「国家ブランディング」という言葉を生み出した英国の学者)は、「良い国」の定義のひとつは「世界中の人々がその国の存在に感謝しながら目覚めること」だと述べている。

では想像してほしい。最近ジェッダで閉幕したウクライナ和平協議に象徴されるサウジアラビアの努力が、確かな和平提案となり、2022年2月に始まった紛争を終結させる出発点になったとしたら、我々はどんな気分で目覚めるだろう。

ウクライナでの戦争は、人命喪失から燃料高騰、食糧不足から核災害の脅威といった全てに影響を及ぼした。国連によれば、「この戦争は商品や燃料価格が不安定になり、高騰した一因であり、世界の多くの地域で食糧不足が悪化し、インフレが進んだ。燃料や穀物の価格は2022年半ばのピークに比べると落ち着いたが、再燃リスクは残っているほか、欧州は依然としてエネルギー安全保障上の課題に直面している」という。

この1年半以上、怒りに満ちたレトリックばかりが各方面から聞こえてきたが、緊張緩和には役立たず、緊張は更に高まるばかりだった。ロシアの侵略行為は報われるべきでないが、軍事力がこの紛争を解決しないことは早期段階から明らかだった。しかし関係者は全員、プライドが高すぎるのか、多くの投資をしすぎたせいか、この明白な事実を認めようとしない。アメリカ外交の黒幕であるヘンリー・キッシンジャー氏が以前から西側諸国にロシアとの対話を進言していたにも関わらずだ。同氏は12月に、「すでに達成された戦略的変化に基づき、交渉による平和実現という新構造に統合すべき時期が近づいている」と書いている。

ロシアのトップ外交官であるアンドレイ・バクラノフ氏が先週アラブニュースに示唆した「ウクライナ政府は消滅しなければならない」といった非外交的手段は解決策にならない。「キーウのファシストと呼ばれている現政権と我々の間には、いかなる停戦の機会もないと考えている」と同氏は語った。「率直に言って、唯一の選択肢はウクライナ現政権を消滅させ、ウクライナを正常な状態に戻すことだけだと強く確信している」。

ウラジーミル・プーチン大統領が権力の座にいる限り、現ウクライナ政府がロシア政府との対話を拒否することも解決策にはならない。プーチンがどこにも行かないのは明らかだからだ。そしてこれは言うまでもないことだが、明確な勝者がいない限り、ロシア政府は西側の敵にひどい苦痛を与え続けられることを示してきた。

だからこそ、ジェッダで行われたウクライナ和平協議は、単に和平案を見出すという以上の意味を持っていた。個人的には、この協議は、新生サウジアラビアの賢明で忍耐強い現実主義的見解が、残念ながら今の西側民主主義国家の大半を悩ませているポピュリズム(大衆迎合主義)や、時には非合理的なイデオロギー論に基づく意思決定に対する勝利の象徴だと考えている。

デンマークとは異なり、サウジアラビアは中立の立場にあり、ロシア政府の話を聞く耳を持ち、中国を会議に参加させることに成功した。

ファイサル・J・アッバス|編集長

紛争が始まった当初、サウジアラビアは国連でウクライナへの侵略に反対票を投じた。それにも関わらず、ロシア側についたと非難された。サウジアラビアは2022年3月2日の総会決議を支持し、ロシアに侵略の即時停止と全軍の無条件撤退を要求している。

サウジアラビアは両国の外相と会うことで、独自の立場、影響力、権力を行使して調停を行いたいという明確なメッセージを送っている。また昨年夏には、ジョー・バイデン米大統領の訪問を受け、原油価格が下落した。しかし、サウジアラビアはOPECプラスを通じてロシアを支援していると非難された。実際には、正にこの取引によってエネルギー市場が安定し、ロシア政府との間に信頼関係が築かれ、必要な場合に行使できる影響力が生まれたのだ。

他の例を挙げると、サウジアラビアが仲介した昨年の囚人交換は、米国、英国、スウェーデンなどの市民解放につながった。米国の現政権は政治的な駆け引きを続け、サウジアラビアはロシアに味方していると非難しているが、その一方でウォロディミル・ゼレンスキー大統領自身はサウジアラビアの4億ドル以上の援助を含む支援と努力に感謝の意を表明している。

ジェッダでの協議が終わった今、新たな機会が生まれている。コペンハーゲンでの前任者による協議と、なぜこれほど違うのか疑問に思う人もいるだろう。もちろんそこには明確な違いがある。第一に、サウジアラビアはデンマークとは異なり、この戦争で中立の立場をとっている。第二に、前述のようにサウジアラビアはロシア政府の話を聞く耳を持っており、相互利益を通じて影響力を行使することが出来る。第三に、サウジアラビアには「デンマークでの交渉に参加しなかった中国を含む全当事者と対話できる」という更なる利点がある。

この協議は実を結ぶだろうか?その多くはロシアの反応にかかっている。しかし、セルゲイ・リャブコフ外務副大臣は日曜、「ロシア政府はサミットの結果について、参加したBRICS諸国のパートナーと話し合う」と確約した。私の推測では、先日終了した協議の成果は議論の出発点となるものであり、結論となるものではない。しかし、この交渉がゴールポストを消滅の危機から救い、議論の余地が出てきたことを意味するなら、これは人類にとって既に大きな勝利だといえるだろう。

では、なぜサウジアラビアはこのような努力をするのか。こう考えてはどうだろう。「ビジョン2030」によってもたらされた改革と野望が、新たな超大国となったサウジアラビアに吹き込まれたなら、その哲学は(天才漫画家である故スタン・リーの言葉を借りれば)「大国には大いなる責任が伴う」というものになるに違いない。

サウジアラビアが自国民だけでなく他国民をスーダンから避難させる手助けをした時、我々はこの哲学を目の当たりにした。サウジアラビアが強い意志をもってスーダンやイエメンの問題を解決し、グリーンイニシアチブを導入し、パレスチナ人のために公正な解決策を見つけようとするのもこのためだ。

  • ファイサル・J・アッバス:アラブニュース編集長。ツイッター@FaisalJAbbas
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