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イスラエル・リビア極秘会談の大失敗は、米国のアプローチの誤りを露呈

(AP)
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10 Sep 2023 03:09:34 GMT9
10 Sep 2023 03:09:34 GMT9

リビアとイスラエルのナジュラ・アル・マンクーシュ外相とエリ・コーエン外相の極秘会談で、パンドラの箱が開かれ、米国の中東政策が複雑に錯綜した迷路であることが改めて明らかになった。ローマで開催されたこの極秘会談は、アラブ・イスラエル間の正常化という依然として荒れ狂う水域で、事態を静かに進めていくためのものだった。歴史的な敵対関係を払拭し、リビアとイスラエルが正式に関与する合図を目的としていたものが、その後、リビア国内のデモを煽り、その不安定なパワーバランスを揺るがす壮大な規模の恥ずべき外交的失策として現れたのだ。

リビアのアブドル・ハミド・ドベイバ暫定首相の弱体化と民兵組織、特にザウィヤ市の武装勢力の台頭は、国内の緊張を一層強めている。それは北アフリカの国リビアで政治的な大炎上に火をつける可能性があり、同時にイスラエルにさらに厳しいスポットライトを浴びせ、この地域への米国の戦略面での野心に深刻な打撃を与えるだろう。

この大失敗は、イスラエルを中東・北アフリカへの修正アプローチの要として据えるという米国の壮大なビジョンに内在するリスクと複雑さを明確に示している。また、特にリビアのように政治的に分断され、不安定な国においては、この戦略を支える前提に欠陥があることも露呈している。

漏洩した会談の影響は、既に不安定であったリビアのパワー・ダイナミクスを揺るがしてしまっただけでない。この不注意による失敗と、その後に起こった避けがたい危機は、対立する武装勢力や同盟関係の変化、パワーバランスの不安定さが渦巻く状況で発生した。結果として、国際社会が10年以上にわたって対処することができなかった長年の泥沼を悪化させることになるだろう。

この大失敗により、外交術には外交官以上の資質が求められることを思い知らされる結果となった。

ハフェド・アル・グウェル

またこれは、リビアを悩ませている無数の厄介な課題に対処する上でも、米国の役割を危うくしている。その範囲は、政治陣営の反目、統治問題、安全保障上の脅威から、より広範な地域的・地政学的ダイナミクスにまで及ぶ。さらに、リビアが絶えず不安定であることで、マグレブ統合、国境を越えた協力、気候変動、移民、安全保障、貿易といった重要な問題での協力の進展も妨げられている。

さらに事態を複雑にしているのが、傭兵集団ワグネル・グループという歓迎されない存在だ。外国人戦闘員の集団であるワグネル・グループは、目まぐるしく変化する外部の利益を支持しており、リビアの民主化、安定化、統一を妨害しようとする複雑な思惑を持ち異なる要素が掛け合わされたアクターの出現も支援している。

明らかに、この外交上の失態の余波はリビアの国境を大きく越えて広がり、この地域における米国の優先事項を損なう恐れがあると同時に、より広いアラブ地域に対する米国のアプローチがいかに見当違いであるかを露呈している。この寄せ集めの状態が一段落するにつれ、この出来事が意味する大きな問題について、緊急に内省することが求められる。奇妙な登場人物たちが、秘密裏に行われた会談が公のものとなってしまった結果にどう対処すべきか、まだ練っている最中であるにもかかわらず、である。

リビアのかつてのユダヤ人コミュニティの遺産を保護することや、人道問題に対するイスラエルの潜在的な支援について話し合われたと伝えられているこの失敗した会談は、極秘の外交プロセスであったはずのものを、恥ずべき事態として明らかにするものだった。この大失敗は、外交術には単なる外交官以上の資質が求められることを痛感させるものだ。地域の複雑性に対する繊細な理解、国民感情への敏感さ、そして自己中心的な外交政策目標よりも関係諸国の繁栄を優先させるというコミットメントが必要なのだ。

リビア問題の主要なアクターである米国は、リビアの近い将来の安定に対する関与が限定的で断続的なものであることにより、米国自体が苦境に立たされている。しかし、この偏狭なアプローチは、各国がリビアの苦境を利用して短期的な利益を得ようとする、より大きな世界的傾向を反映している。米国がアラブ世界全体で外交的な影響力を強めようとしている今、リビアから吹いている風は冷ややかな反抗と明らかな警鐘を鳴らしている。

結局のところ、米国は戦略的利害以上にリビアへのコミットメントを示さなければならない。

ハフェド・アル・グウェル

この展開は米国のリビア政策を弱体化させるものであり、宮殿のような会議室で行われる外交と民衆の根深い感情との間の断絶を劇的に明らかにするものである。米国の役割は、信頼と信用りにあにおける難攻不落の隔たりという恐怖に直面しており、それがリビアにおける米国の影響力がいかなるものであれ、その存続可能性に疑問を呈している。

しかし、運命論的なナラティブに反して、この失敗は米国にとって対リビア関係を大きく見直すきっかけになるかもしれない。リビアの人々の信頼を取り戻すには、米国をはじめとする世界の利害関係者が、この有害なダイナミズムを覆し、リビアの安定を回復し、信頼を再構築し、草の根のエンパワーメントを促進することを目的とした協力的な取り組みを優先させるようなパラダイムシフトが必要だ。リビアとイスラエルの外交上の失敗は、効果的な外交には単なる「善意」以上のものが必要であることを思い起こさせる、時宜を得て警鐘を鳴らす物語となった。効果的な外交には、真の関与へのコミットメントと、関係諸国の長期的な安定を重視することが求められるのだ。また、この外交上の失敗は、イスラエルと他のアラブ諸国との過去の国交正常化協定は、依然としてこうした国の国民ではなく政府との協定に過ぎないことも浮き彫りにしている。

信頼関係の欠如を解消するに当たっては、リビア国民との直接対話を優先させ、彼らの歴史的視点や現在の複雑な状況について理解を深めることが、相互理解を育むことにつながるかもしれない。さらに、パレスチナの大義を人道的に認識した上でアブラハム合意の諸条件を再検討することは、少なくとも反対意見の根源の一部に対処しようとする真剣な試みのきっかけとなるだろう。さらに、文化外交、教育、貿易、インフラ投資といった分野まで、地政学にとどまらない関与の幅を広げることも、米国とリビアの関係を再燃させる可能性がある。

結局のところ、リビアでの信頼を回復し、マグレブという極めて重要な小地域での役割を活性化させたいのであれば、米国はリビアへのコミットメントが戦略上の権益以上に大きなものであることを示さなければならない。このことは、リビアに限らず、安定を回復し、信頼を回復し、現地のエンパワーメントを促進するという目的のために、集団的努力に対するコミットメントを体現しなければならない他の主要なアクターにも当てはまる。同じように政治エリートが無関心なアラブの脆弱な国々は、米国か国連のどちらかで決められたラインに従う限り、外交資本を育成するために国交正常化や他の同様の野心的な試みにしがみつくかもしれない。

従って、リビアとイスラエルの外交上の失敗は、国際社会に大きな警告を投げかけるものでもある。今こそ、脆弱な国家を利用するのをやめ、情勢を正直に評価すること、つまり下心を排した内省に集中すべき時なのだ。このような課題に何よりも必要なのは、現状の軌道を変え、新たな道を切り開くことだ。絶望よりも希望を、つかの間の同盟よりも長期的な安定を約束する道を切り開くのだ。

  • ハフェド・アル・グウェル氏は、ワシントンD.C. のジョンズホプキンス大学高等国際関係大学院の外交政策研究所北アフリカイニシアチブのシニアフェロー兼エグゼクティブディレクターであり、世界銀行グループ理事会議長の元顧問である。Twitter: @ HafedAlGhwell
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