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アジアの安全保障の鍵は「連帯」である

イラスト:ドム・マッケンジー
イラスト:ドム・マッケンジー
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23 Dec 2022 05:12:58 GMT9
23 Dec 2022 05:12:58 GMT9

小池百合子

ロシアのウクライナに対する軍事行動が、インド太平洋地域全体の人々に、隠蔽されてきた、あるいは公然と悪化している問題が、戦争の勃発につながるのではないかとの疑問を抱かせている。

8月に米国のナンシー・ペロシ下院議長が台湾を訪問した際の中国の反応を見れば、その答えはあまりにも明確であるように思える。ヒンドゥークシュ山脈から南シナ海、朝鮮半島の38度線まで、インド太平洋地域では、深い歴史的確執と誤った主権の主張が後を絶たず、これらは何の前触れもなく紛争状態に発展する可能性がある。

インド太平洋地域の指導者が直面している真の問題は、国家の野心と敵対行為が開戦に発展するのを防ぐために、この地域が平和の枠組みを構築できるか否か、ということである。

この地域の民主主義大国であるオーストラリア、インド、インドネシア、日本、韓国、米国が、平和を乱す可能性のある存在が敵対行為を始める前に考え直すのに必要な戦略的信頼を築けるか否かに大きく依存することになるであろう。

この目標を追求する中で、インド太平洋は、2022年の政治的、大きな人道的悲劇の一つ、安倍晋三元総理が単独の武装犯に暗殺されたことで後退してしまったのだ。安倍元総理は、2度の総理大臣在任中の9年間、そして退任後の1年間、アジアのダイナミズムを平和に導くための道標やガードレールとして必要な同盟や条約、制度的な枠組みについて検討していた。安倍元総理は、アジアには欧州ほど多国間組織や同盟が密集していないこと、また、そうした組織が平和と繁栄を維持するための基本であると理解していた。

この洞察に基づき、安倍元総理は、汎インド太平洋の安定した平和の構成要素となることを願う以下の鍵となる2つの構造を構築したのである。クアッド(QUAD)と呼ばれるオーストラリア、インド、日本、米国の4カ国による「四極安全保障対話」、ドナルド・トランプ氏が孤立主義的な大統領就任当初に離脱した環太平洋パートナーシップの後継となる「環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定」であるこの新たな協定により、カナダ、メキシコ、ペルー、チリ、ニュージーランド、オーストラリア、ブルネイ、シンガポール、マレーシア、ベトナム、日本の環太平洋11カ国が、世界最大の貿易圏として集結した。

QUADと環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定(TPP11協定)の始動により、安倍元総理はインド太平洋全体のルールを確立する可能性を秘めた2つの制度の創設に貢献した。

QUADは、4つの中核メンバー間の連携を深めることで安全保障を主導しているが、各メンバーは、米国と韓国、インドとベトナム、オーストラリアと非同盟主義を誇るインドネシアなど、他の戦略的パートナーシップを強化している。このような安全保障上の結びつきの多くが不明確であるにもかかわらず、QUADは地域全体の平和と安全を維持しようとする国々のネットワーク作りに貢献しているのである。また、日本とインドがベトナムと頻繁に実施している合同軍事演習のような結びつきも、決して曖昧なものではない。

安倍元総理は、TPP11協定を主導することで、米国が傍観者となることを選択した場合でも、アジアのリーダーたちは独自に効果的に行動できることを示したのである。安倍元総理とTPP11協定に署名した他のアジアの指導者たちは、中国が独自の貿易協定である地域的な包括的経済連携(RCEP)協定を通じてアジアで圧倒的な経済支配を達成するのを防ぐことができる、と理解していたのだ。今年で4年目を迎えたTPP11協定は、地域のリーダーたちに首尾一貫した集団的なやり方で協力する無数の機会をもたらしている。

このような協力関係をさらに育んでいかなければならない。第二次世界大戦後の時代に恒久的な平和と安全の枠組みを構築する上で、参加国間の連帯が不可欠であることが重要な教訓である。NATOの盤石の結束は、少なくともこれまでのところ、ロシアがウクライナを越えて戦争を拡大することを思いとどまらせている。NATOが加盟国に与える安心感は、長い中立の歴史を持つスウェーデンやフィンランドを納得させ、同盟への加盟を模索させた。

もちろん、経済的な問題や、冷戦のさなかにNATOが設立された際に欧州が直面したような存続に関わる危機があれば、連帯は容易に築けるだろう。米国の承認がなくとも、TPP11協定がこれほど円滑に採択され、実施されたことに驚く人はほとんどいないだろう。

一方、QUADにおいては、ロシアのウクライナ侵攻作戦に対するインドの対応に見られるように、真の意味での連帯感が欠如している。1947年の独立以来、長い間インドは非同盟と自国の二国間努力によって安全保障を確保できると考えてきた。ヒマラヤ山脈での中国との国境紛争や、安倍元総理とナレンドラ・モディ首相の強い結びつきによって、インドはもはや常に単独行動では安全を確保できないと確信した。しかし、他の多くの同胞と同様に、モディ首相も古い習慣を断ち切ることは困難であることを認知していた。

さらに、インドの国家安全保障戦略上、軍事装備や訓練においてロシアに大きく依存していることが以前から大きな要因であった。米国が地域の運命をパキスタンと結びつけていた時代の遺産であり、この依存関係はインドにとって長い間、道理にかなったものであった。ソ連は、1971年のバングラデシュ独立戦争でインドを支援し、最新の戦闘機を供給し、1962年の中印国境紛争では毛沢東氏の中国に外交的圧力をかけることに意欲的だったのである。

恒久的な平和と安全保障の枠組みを構築する上で、参加国間の連帯が不可欠であることが重要な教訓である。

小池百合子

インドは冷戦の両陣営に足を踏み入れたフリーエージェントとして、安全保障面では最良の状況にあると考えていた。しかし時代が変わり、昔のままロシアに依存しているインドは、今、歴史の間違った方向に引っ張られ、脆弱性を増している。

私たち日本は、インド洋と太平洋を包含する平和と安全の枠組みを構築する上で、インドが重要な役割を果たすことが可能であり、また果たすべきであると、長い間考えてきた。日本の防衛大臣として、私は2007年にインドを訪問し、両国における初の海軍の合同軍事演習を実施した。その後、この関係は軍事・情報面での協力関係として、これまで以上に力強い形に発展している。

QUADがアジアの安全保障上の主要な組織として定着していく中で、QUADのパートナーであるロシアとの間に等距離を保つことはもはや有効な政策ではない、ということをインドが認識することを願う。インドと中国が対立した場合、中国政府がロシアに軍用装備品、エネルギー、その他の重要な輸入品の供給を停止するよう働きかけても、インド国民は驚くべきではないだろう。インド政府は今後、このような耐え難いリスクに対して進んで責任を負うべきではないだろう。

マハトマ・ガンジー氏、ジャワハルラル・ネルー氏、ビムラオ・ラムジ・アンベードカル氏など、近代インドの立役者たちは、国家の独立を政治的なものとしてだけでなく、道徳や文化の勝利とみなしていたのである。現在では、あらゆる場所で領土保全の原則を主張することが、インドが自国の国境を常に尊重してもらえるようにする唯一の方法となっている。その原則が今、ウクライナで試されている。もし安倍元総理が生きていたら、モディ首相に対して、インドが危機的状況を認識し、QUADのパートナーを全面的に受け入れるよう静かに説得していたに違いない。

また、古い習慣によって、朝鮮半島の安全保障が脅かされている。太平洋戦争の終結から80年近くが経過したが、北朝鮮の金正恩氏が核兵器開発に絶え間なく取り組んでいるにもかかわらず、その歴史を巡る争いが、韓国と日本の政府間の実際的な安全保障協力の妨げになることが依然として多いのだ。

米国は何十年にもわたって、この分断を埋めようと何度となく試みてきた。しかし、最終的にそれができるのは、韓国と日本だけである。両国の違いは、両者が直面している安全保障上の非常に現実的な脅威とは比べものにならないことを認識する必要がある。現在、両国がウクライナ支援に大きく関与し、武器の提供やリアルタイムの情報分析を行っていることは心強いことである。この戦争を通じて、両国の政治指導者が無益な歴史論争をやめ、共同の国家安全保障構想に集中するようになることを期待したい。

大国・新興国は地政学的な孤立を嫌う。プーチン氏は、NATOやEUの外で孤立したウクライナを、まさにそのような孤立地帯とみなして利用したのである。アジアでも同様の動きがある。

幸いなことに、連帯と安全保障を求める今日、大国も小国も同様に安全保障を強化するべく、この地域の制度的空白を埋め始めているのである。このような地域の結束の進展は、アジアの地図を一方的に変えようとするいかなる勢力も強固で統一された反対勢力に遭遇することが確実である、ということを意味している。

  • 小池百合子氏は東京都知事で、元防衛大臣、元国家安全保障会議議長、元国会議員である。

©Project Syndicate

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