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各国による国際貿易ルート計画においてイランが黙殺される理由

イランは、インドとヨーロッパを結びつける回廊プロジェクトから、要件を満たさないために除外されている(資料写真 / AFP)
イランは、インドとヨーロッパを結びつける回廊プロジェクトから、要件を満たさないために除外されている(資料写真 / AFP)
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20 Sep 2023 12:09:15 GMT9

近現代において隆盛を誇った諸国の歴史的経緯には、そうした国家が国際的な問題に対して影響力を行使し得る主体へと地位を高めるにあたって、その国家としての強さと能力の変革が不可欠であったことが示されている

変革を為し遂げた国々が、国境を越えた国際的な回廊を確立する事業の中心となり、世界的な物流プロジェクトの地図上で主導的な役割を担うことは、偶発的でも、特定の歴史的瞬間における突発的事象でもない。さらには、そうした国々が、国際的な権力階層において自国の地位を高める最終目標のために自国の一層の増強を目指して、他国に壊滅的打撃を与えたり、資源を浪費したり、住民の強制移動を企図したりすることはない。

こうした国家の隆盛は、むしろ、国際的地位の向上を図り、国際関係や戦略的パートナーの多様化に努め、前向きな外交的均衡の確立を目指しつつ、自国内でグッド・ガバナンスの基準を優先させるという現代的、文明的構想の産物なのである。

サウジアラビアとイランは、地理的に近接している。両国は、利用可能な資源と潜在性を考慮すれば、地域の強国である。それぞれが、自国の立場を強化し地域の主導権の確保のために、独自の取り組みを模索し、独自の様式を構築してきた。サウジアラビアの指導者層は、自国の国家的価値への信念や、自国が利用可能な資源についての認識、そしてそれを活用して自国の地位と役割を強化したいという願望の上に立脚して、国家的で文明的かつ現代的なビジョンを展開するに至った。

イラン政権は、その存続と、聖職者の利益を優先するために、革命的かつ宗派的な理念を基盤としている。

モハメッド・アル・スラミ博士

サウジアラビアは、国内では、包括的な開発を優先してきた。すべての政府機関の完全な近代化を開始し、それらの機関を監督と説明責任の義務化の対象とした。さらには、社会正義の促進と収入源の多様化をも図ってきたのだった。サウジアラビア国民は同国の発展計画の土台であり、サウジアラビアは国民意識の確立に努め、近代国家建設の過程への女性の参画を推進している。サウジアラビア政府は、また、全部門において、大規模な改革を実施し、数々の基準や指標において先進的な位置を獲得するに至っている。

海外においては、サウジアラビアは、紛争の解決やゼロプロブレム外交の導入、地域的・世界的な代替策の多様化、各国の軍隊と領土保全の支援により、平和と安定を促進することを優先してきた。また、治安と安定に対する非国家的行為者の危険性が増加していることを考慮し、国際社会に対してそうした組織やグループへの対応を呼びかけている。

また、サウジアラビア政府は、地域的及び世界的な紛争の解決を目的とした調停の取り組みの調整役であることは言うまでもなく、世界経済の安定に資する重要な責任をも負っている。

イラン政権は、サウジアラビアとは正反対に、40年以上前の政権発足以来、国民の社会経済的福祉に焦点を置いた現代のガバナンス構想とは真逆のビジョンを展開し、むしろ、権力を保持し存続し続けることを選択した。イラン政権は、また、その存続と、聖職者の利益を優先するために、革命的かつ宗派的な理念を基盤としており、この点もサウジアラビア政府とは対照的である。

イランの聖職者政権は、自らの思想信条を社会に押しつけ、通常の国家機関と並行して稼働する革命的国家を樹立した。さらには、イラン政権は、国家予算のかなりの部分を、国家的、内部的なプロジェクトではなく、革命的なプロジェクトのために割いているため、イラン国内では、社会正義や透明性、監督、機会の均等性が不在となるに至っている。

対外的には、イラン政権は、その宗派主義的な構想の実現を優先し、いくつかのアラブ諸国の非国家的行為者に資金と武器を提供し、準軍事組織を設立して、主権国家に覇権を押し付けてきた。このようにして、イラン政権は、イラン国民からその資源を奪い、独自に制度や国家を構築する機会をイラン国民が得られないようにしてきたのだ。そして、その過程において、イラン政権は、他国の主権と領土一体性の尊重による、善隣友好政策と内政不干渉の原則に違反している。

意欲的な取り組みであるサウジビジョン2030はグッド・ガバナンスと行政運営のための閃きに溢れたモデルを提示しており、また、称賛すべき開発モデルでもある。サウジアラビアは、そのビジョンとリーダーシップにより、数々の地域的、国際的レベルの主導的機関や第一線に立つ当事者たちからの信頼を獲得し、世界経済に貢献し影響を及ぼし得る発言力を持つに至っている。サウジアラビアは、また、好ましい中立的な仲裁者、世界経済の安定化に資する貢献者、さらには国際的な政治問題に対処する重要な当事者へと変身を遂げたのだ。

世界各地のいくつもの国々、特に大国とみなされる国々は、現在、サウジアラビアを賞賛に溢れた眼差しで見ている。そうした国々は、サウジアラビアを世界情勢における重要かつ影響力を持った能動的、主体的な国家とみなしており、それ故に、同国は中央アジア諸国が提案した回廊といった数々の世界貿易や物流プロジェクトの中心的存在となっている。この回廊とは、湾岸諸国と中央アジアをパキスタンとアフガニスタンを経由して結び付ける陸海回廊である。これは、先週のニューデリーでのG20サミットで提案された、インドと中東、ヨーロッパを結ぶ最新の構想へのさらなる追加となるものである。

意欲的な取り組みであるサウジビジョン2030はグッド・ガバナンスと行政運営のための閃きに溢れたモデルを提示している。

モハメッド・アル・スラミ博士

他方、イランの宗派主義的革命モデルによる行政と統治は、国内情勢を危機状態に陥らせ、対外的には禁輸の影響に苦しむ孤立国家を生み出すに至った。これは、イラン政権の核・弾道兵器の保有能力の開発・獲得を目指す方針と、他の主権国家を犠牲にしてでもイラン政権の地域的影響力の拡大を企図する方針が原因である。

イランは、内部的には、経済危機と生活危機で身動きの取れない国家となってしまっている。それは、社会正義や機会の均等性の欠如は言うまでもなく、自国通貨の暴落や暴走するインフレ、急増する犯罪、宗派間の暴力、移民の結果である。この状況により、イラン政権の政策に対する国民の支持はほぼ消滅し、「正当性の危機」が生じるに至っている。イラン市民たちは、何度か抗議活動を行っており、不安的な国内情勢が露となっている。

対外的には、イランは制裁を課されており、隣接する諸国との不和はもちろんのこと、地域支配の拡大や核武装、弾道ミサイルの開発の野望を背景に孤立を深めている。それに加えて、経済的、物流的な回廊や経由地としてのイランの競争力は、インフラの貧弱さや財政能力の弱さ、政権の不適切な政策や状況の悪化により投資機会が活かされないことなどから、下落している。そのため、イランは、その地理的位置や港湾施設、膨大な資源、有望であるはずの投資機会にも関わらず、上述の回廊プロジェクトの提案や立案に携わっている世界的大国から高い評価を得ていない。

イランのメディアがインド – 中東 – ヨーロッパの貿易回廊について語っている内容を精査すると、コラムニストたちが、近接するサウジアラビアが世界経済と結びつく能力を有しているのにも関わらず、自国のイランが政治的信用と世界回廊の中心に立つ資格を共に欠いていることを繰り返し述べていることが確認できる。

例えば、世界でも最重要な経済プロジェクトである南北輸送回廊は、イラン国内のインフラ整備の不足と交通規制措置のために凍結されたままになっている。さらに悪いことに、イランが一帯一路構想に参加する可能性は低下しつつある。イランは、また、中国とトルコの両国が取り組んでいるアゼルバイジャン – アルメニア – ザンゲズル回廊プロジェクトにも関与していない。さらには、イランは、インドとヨーロッパを結びつける回廊プロジェクトから、要件を満たさないために除外されており、そのためイラン内外からの投資機会が失われてしまっている。しかし、もしこの回廊プロジェクトに参加さえ出来れば、イラン経済は悪化の一途を辿り続ける代わりに、世界の最先進国の1つにまで押し上げられ得るのである。

結論は、イランのコラムニストたちが述べるように、その可能性と資源がいかに大規模であったとしても、機会が待っていてくれる国は無いということなのである。イランがこうした機会の利点を活用し損ねたとしたら、真剣な計画と断固とした決意に基づく回廊プロジェクトは、いつの日にか逸失した機会を脅威へと変質させるかもしれない。そして、恐らく、これは、イランにとって、自国の立場を改善させて、自国の経済を世界経済と結びつける方向で、国内政策と対外政策を再検討する良い機会なのである。イランは、現在の内外の状勢を考慮した上で、この件について、遅かれ早かれ決定を下す必要に迫られることになるだろう。

  • モハメッド・アル・スラミ博士は国際イラン研究所 (Rasanah) の所長。Twitter: @mohalsulami
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