Since 1975
日本語で読むアラビアのニュース
  • facebook
  • twitter

人道セクターはサイバー攻撃の脅威に備えるべき

フランスのリールで開催された第10回国際サイバーセキュリティ・フォーラムで、コンピューターに向かって作業する人。(AFPファイル写真)
フランスのリールで開催された第10回国際サイバーセキュリティ・フォーラムで、コンピューターに向かって作業する人。(AFPファイル写真)
Short Url:
22 Jan 2024 08:01:33 GMT9
22 Jan 2024 08:01:33 GMT9

サイバー戦争が高度化するにつれ、近年、目立ったエスカレーションが生じている。単にデジタルシステムを混乱させるだけといったものではなくなり、サイバー攻撃は今や、壊滅的な結果をもたらす実害を生じさせる可能性を持っている。これは現代の紛争におけるパラダイムシフトかもしれない。さまざまなセクターのデジタルテクノロジーへの依存が拡大し続ける中、サイバー脅威やサイバー攻撃の可能性も高まっているのだ。

先月、「Gonjeshke Darande」(Predatory Sparrow=肉食スズメ)として知られるハッカー集団が、イラン全土の大半のガソリンスタンドを麻痺させ、長蛇の列を発生させたサイバー攻撃の犯行声明を出した。イラン国営テレビによると、国内のガソリンスタンドのほぼ70%のサービスが中断したという。この混乱は「ソフトウェアの問題」によるもので、まだ稼働しているスタンドに殺到しないよう、国民に勧告が出された。

今年に入ってから、世界はすでに15件以上の大規模サイバー攻撃による傷を負っており、それらは多様な分野に及び、多くの国に影響を与えている。これらの事件は、相互接続された世界におけるサイバー脅威の浸透性と発展性を浮き彫りにしている。重要インフラから金融機関、政府機関から民間企業まで標的は多岐にわたり、デジタル世界の悪意ある行為者たちの無差別な攻撃対象が際立っている。

国家、非国家主体、そして個人までもが、経済的、政治的、戦略的な目的の達成に、高度なサイバー能力を用いるようになっている。

残念ながら、サイバー攻撃に起因する人道上の課題は差し迫った懸念となっている。病院、電力供給網、金融機関、重要インフラはもはや、こうした敵の攻撃対象の例外ではないのだ。世界が、生活必須サービス、コミュニケーション、商業活動においてテクノロジーへの依存を深める中、悪意あるサイバー活動によって露呈する脆弱性は、人類の幸福への深刻な脅威をもたらす。

そういうわけで、個人、地域社会、グローバル組織への影響や、この課題に取り組む方法を掘り下げて、サイバー攻撃に関連した人道上の課題の入り組んだ網の目を見てゆくことが重要となる。

まず第一に、社会機能に不可欠なインフラがますますサイバー脅威の標的となり、その影響を受けやすくなっているという点を指摘することが重要だ。エネルギー、給水、輸送、医療を制御するシステムが相互に接続していることが、これらのセクターを悪意あるサイバー活動に対して脆弱にならせている。

これらの分野での混乱は連鎖的な影響を及ぼし、重要なサービスの供給を脅かし、危機に対応しようとする人道支援組織に重大な困難をもたらしかねない。

人道支援組織は膨大な量の機密データを収集・保存しているため、データ侵害のリスクは非常に大きい。

マジッド・ラフィザデ博士

より根本的な問題として、人道的な取り組みの中核であるヘルスケア・セクターが、以前にもましてサイバー攻撃の主要な標的になってきている。病院に対するランサムウェア攻撃は、治療の中断、機密性の高い医療記録の漏洩、さらには命の危険にさえつながりかねない。残念ながら、このような場合の人道的結果は悲惨である。医療サービスの完全性が損なわれると、弱い立場の人々が必要な時に重要な医療を受けられなくなるからだ。

サイバー攻撃はまた、緊急対応システムへの信頼を損なう可能性がある。攻撃によって通信手段が混乱し、物流が阻害され、救援活動の効率が低下するかもしれない。こうして、人命が危険にさらされるだけでなく、すでに災害の余波と闘っているコミュニティが直面する問題を悪化させる。自然災害によってであれ、紛争によってであれ、人道危機が生じたなら、迅速で即時の、協調的な緊急対応が求められる。また、社会的弱者や社会から疎外されたコミュニティに焦点を当てることも重要である。サイバー攻撃はこれらのコミュニティに不均衡に影響を与え、すでに存在する不平等を悪化させるからだ。社会から疎外された人々にとって、生活必須サービス、金融システム、通信プラットフォームへのアクセスは極めて重要だ。これらの分野で障害が発生すると、彼らはさらに疎外され、孤立してしまう。

さらに、人道支援組織は効率的な支援活動のために膨大な量の機密データを収集・保存しているため、データ侵害のリスクは非常に大きい。人道支援活動の完全性を維持するには、個人情報の機密性を確保することが最重要であることは明らかである。だが問題は、被災者のプライバシーを損なうサイバー攻撃があると、信頼が失われ、被災者が援助を求めるのを躊躇しかねないことだ。

サイバー攻撃への取り組みにおける重要課題のひとつは、説明責任の問題に関連している。多くの場合、サイバー攻撃の加害者をはっきりと特定するのは困難であり、この不明瞭さのゆえに、責任を負うべき主体にその行動の説明責任を果たさせようとする取り組みが妨げられる可能性がある。この曖昧さは、人道上の影響を及ぼすサイバー脅威に対処するための法的手段や国際協力の可能性をも損なうものだ。

人道支援組織がサイバーセキュリティ能力とレジリエンスを強化することが不可欠なのはこのためだ。能力構築のイニシアチブは、職員の訓練、強固なサイバーセキュリティ対策の実施、サイバー攻撃に効果的に対応するための危機管理計画の策定に集中すべきである。

先を見越してサイバーセキュリティ・インフラへ投資することも、人道的活動に対するサイバー脅威の影響を軽減する上で極めて重要である。

さらに、サイバー攻撃による人道上の課題に効率良く対処するには、協力的なアプローチが必要である。サイバーセキュリティにおける国際協力を強化し、規範や規制を確立するための外交の促進が欠かせない。明確なガイドラインと枠組みの確立は、より安全なサイバースペースに貢献し、悪意あるサイバー活動によって引き起こされる人道危機の可能性を減らすことができる。

ひと言でいえば、サイバー戦争の人道上の課題は、人々の幸福に対するその影響を際立たせている。サイバー脅威の進化する性質は、重要インフラ、医療、緊急対応システム、疎外されたコミュニティに多面的なリスクをもたらす。このことは、セキュリティやレジリエンスの強化を含む、国際協力が緊急に必要であることを強調するものだ。

サイバーセキュリティ対策を強化し、サイバー脅威の人道的影響に対する世界的な理解を促進する協調的な取り組みによってのみ、デジタル時代の複雑な世界を踏み進みつつ、同時に世界中の個人およびとコミュニティを保護し、その幸福を確保することができるのだ。

・マジッド・ラフィザデ博士は、ハーバード大学で学んだイラン系アメリカ人の政治学者である。 X: @Dr_Rafizadeh

特に人気
オススメ

return to top