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ネタニヤフ首相の戦後計画は戦前と同じで、むしろさらに悪化させるもの

イスラエルのネタニヤフ首相。(ロイター)
イスラエルのネタニヤフ首相。(ロイター)
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03 Mar 2024 09:03:26 GMT9
03 Mar 2024 09:03:26 GMT9

壊滅的な戦争が4ヶ月以上続いた後やっと、イスラエルのネタニヤフ首相は、内閣に「ハマス後の日々」と題する文書を提出し、これが戦後のガザの管理計画だと主張している。

実際には、文書は最も明白で、一般的で、心配になるほど一方的な、イスラエル側の要望リストを集めたものにすぎず、戦前の状況に戻すことを意味しつつも、未来志向よりもむしろイスラエルの統制を過度に強めるというものだ。

パレスチナ人との和平と和解を達成するための計画はなく、双方で多くの命を奪った完全な安全保障管理という概念的パラダイムからの教訓も生かされていない。

この戦争を通じて、ネタニヤフ首相と彼の内閣全体は、ハマス撲滅が目的だと主張してきた。これは当初から実行不可能であっただけでなく、たとえハマスが撲滅された場合でさえも、戦後のガザの将来像やパレスチナ人との関係に対する大局観が欠如している。

最近のネタニヤフ首相の言動はすべてそうだが、そもそも自国が陥った深い穴から抜け出そうとする長期的な計画を持った政治家ではなく、縮小の一途をたどる支持層にアピールすることに必死な小物政治屋の振る舞いの匂いがする。

同首相の1ページの原則は、最後の反抗的な行動と見ることもでき、国際社会からも、ハマスに拘束されているイスラエル人人質の解放を望む人々から国内からも高まる圧力を予防しようとする試みだ。圧力のため、同首相は自分の支持基盤や右派の連立政権パートナーが拒否する停戦を受け入れざるを得なくなるかもしれない。

あるいは、計画があると見せかけて本当の狙いは戦争をあと何カ月も長引かせることで、そのための時間稼ぎとも見ることもできる。というのは、ハマスとイスラム聖戦の軍事力と統治基盤を破壊するまで、イスラエルの軍事作戦は継続すると同文書で明確に宣言しており、実際には彼の戦後計画は時間軸も詳細もまったく不透明なものだからだ。

「長期的には」と題された文書の短い一節で、ネタニヤフ首相は10月7日以降に起こった悲惨な出来事から建設的な結論を導き出すことにまったく関心がないことを露呈している。彼が長期計画として示しているのは、イスラエルとパレスチナが戦前と同じ状況に戻るというだけであり、但し、イスラエル側が両国の関係の性質を左右する力をもっと欲しいと要求しているのだ。

これにより、彼は二国家解決にも、地域との関係正常化にも「ノー」と言っているのだ。

ネタニヤフ首相の「無計画」はまた、パレスチナ人がイスラエルの完全な支配下に置かれてほとんど権利を与えられず、もちろん自決権は与えないというのでなければ勝ち得ないというような、イスラエルの安全保障をゼロサムゲームとする考え方に執着していることを露呈している。

これは、なぜ彼が即刻退陣し、政界から完全に身を引くべきなのかを裏付ける証拠の一つにすぎない。パレスチナ国家の不在とイスラエルの占領を筆頭とする紛争の根本原因に対処できないことは、イスラエルの安全保障を妨げ、危険にさらし、彼をお荷物にしている。

同首相の考え方は、イスラエルはパレスチナ人を抑圧し、彼らの権利を奪うことによってのみ、安全保障を達成し、存続することができるという古いままのイスラエルの安全保障パラダイムと同じだ。パレスチナ国家を創設し、パレスチナ人が平等な権利を享受し、生活のあらゆる面で潜在能力を発揮できるようにすることで安全保障を達成し、存続しようとは考えていない。 

紛争の根本原因に対処できないネタニヤフ首相はお荷物になっている。

ヨシ・メケルバーグ

10月7日の虐殺が認め難いほど簡単に実行され、その後何カ月にもわたって戦争がガザ以外にも拡大し、イスラエル経済に打撃を与え、イスラエルが国際的に孤立を深めていることを見れば、考え方も変わるだろうと思うかもしれないが、全くそんなことはない。

ネタニヤフ首相の文書に概説されているように、イスラエル社会には、人質を解放し、ガザのいかなる勢力も二度とイスラエルに脅威にしてはならないという基本的な合意がある。

しかし、イスラエルがガザでの軍事作戦を時間制限なしに自由に継続すべきだという提案は、戦前の封鎖体制を継続し、エジプトとの国境を含め、イスラエルが必要と判断する限りにおいて安全保障上の緩衝地帯を設けることしか意味しない。

さらに、ヨルダン川西岸地区全体の完全な安全管理に固執しているが、これはオスロ合意に対する明らかな違反である。言い換えれば、オスロ合意後の棺桶にもう一つ「最後の」釘を打ち込む余地が残っているとすれば、ネタニヤフ首相が打ち込むつもりなのだ。

首相の戦後「計画」で意図的にあいまいにされているのは、敵対行為が終わった後、誰がどのようにガザを統治するのかということだ。ネタニヤフ首相がパレスチナ自治政府がガザを統治する可能性を排除していないことは、この曖昧さのプラス面だが、少なくともこの文書を書いた人たちの頭の中では、ガザの日常生活を誰が管理するかについての最終決定権はイスラエルに与えらえている。

しかし、現実に戻ろうではないか。イスラエルがパレスチナのより穏健で現実的な勢力との協力や、ヨルダン川西岸とガザの持続可能で統一された統治への移行を促進し資金を提供できる地域的・国際的大国の支援を求めるのであれば、イスラエルは将来の政治的取り決めを主導できるという考えを捨てるべきである。

近東における国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)の解体要求がなければ、ネタニヤフ首相の計画とは言えないことが特徴だ。UNRWAが、イスラエルの破壊を支持するよう何世代にもわたってパレスチナ人を教育することによって攻撃を可能にしたとほのめかすことで、10月7日の虐殺の責任はUNRWAにあると暗に示唆しているようなものだ。

この主張の欠陥はさておき、いかなる組織も、特に状況が変化しているときには、神聖でもかけがえのないものでもあり得ない。とはいえ、UNRWAに取って代わるには、綿密な計画も十分な予算もなく、解体後に生まれるだろう空白を評価することもなく、他の人道支援団体を呼び込むという中途半端なレトリック以上のものが必要だろう。

イスラエルもパレスチナも、戦後のガザについて考え抜かれた計画を打ち出すのに手一杯な状態だ。一方、現段階では、イスラエルとハマスの間で、イスラエルの人質とパレスチナの囚人の交換を含む停戦合意が急務である。しかし、より包括的な長期的解決策の必要性を見失うことなく、これを実現しなければならない。

明確なのは、ユダヤ国家がネタニヤフ首相が独断で決めた計画、特に実行上も精神的にも一方的な計画を打ち出すことは、実行可能でも望ましくもないということだ。イスラエルは以前もこのようなアプローチを試みており、自明ながら、良い結果には至っていない。

• ヨシ・メケルバーグ氏は国際関係論の教授であり、国際問題シンクタンクのチャタムハウスでの中東・北アフリカ・プログラムのアソシエートフェローでもある。
X: @YMekelberg

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