アメリカでは、1人だけでなく2人もの上級職がその職を退くことは一大イベントである。今週、ジョー・バイデン大統領は11月の大統領選の民主党候補を辞退し、シークレットサービス長官のキンバリー・チートル氏は、共和党候補ドナルド・トランプ氏の暗殺未遂事件を受け辞任した。
注目された2人の辞退・辞任だが、両者には大きな違いがある。
バイデン氏の決断は民主党内で広く称賛され、米国民に奉仕するためにより適した別の候補にバトンタッチすることで、自国を第一に考えたと見なされた。
これとは対照的に、チートル氏は法的な召喚状が出された後に出席した、下院監視説明責任委員会の公聴会で、政治的に対立する与野党から容赦ない追及を受けた後に辞任した。同氏は最終的に、トランプ氏暗殺未遂事件へのシークレットサービスの対応は 「大失敗 」だったと認めた。もちろん、自責の念や後悔から伝統的な侍スタイルの切腹をするとは誰も思っていなかった。例えるならば彼女は自分の剣を捨てた。辞任で十分だと言う人もいるだろう。しかし、他の多くの人々と同様、公聴会での彼女の態度は傲慢で、不遜で、率直に言って、謝罪するつもりがない様に私は感じた。
バイデン大統領の民主党候補者辞退は、政治家としての姿勢や、平和的で文明的な政権移行を印象づけ、海外での米国のイメージが肯定的にとらえられた。
ファイサル・J・アッバス
その結果、多くの疑問が残されたままになっている:例えば、最初の銃声が鳴り響いたとき、シークレットサービスの警官たちはなぜあんなに反応が鈍かったのか?トランプ氏が今日生きているのは、文字通り自分で銃弾をかわしたからであって、シークレットサービスが彼を守ったからではない(どちらかといえば、警官の一人が彼を強く圧迫したため、彼女が彼を早死にさせるかもしれないという懸念があった)。さらに、会場周辺エリアでより注意深く徹底的な警備が行われなかったのは何故か?また、なぜシークレットサービスの職員は、リュックサックと長距離照準器を持った若い男が不審な行動をとり、発砲現場である屋上に登ったという同僚や一般市民からの報告を無視したのだろうか?
アラブニュースの編集者である私が、明らかに米国内の問題であるにもかかわらず、なぜこのようなことを取り上げるのかと思われるかもしれない。
しかし、このコラムが以前にも指摘したように、アメリカで起きたことはアメリカに留まることはなく、アメリカがくしゃみをすれば世界中が風邪をひくのだ。
バイデンの候補者としての辞退は、政治家としての姿勢と平和的で文明的な政権移行を示すことで、海外におけるアメリカのイメージが肯定的にとらえられた。しかし、トランプ氏暗殺未遂事件の大失敗は、シークレットサービスのような重要な機関の能力と資質に疑念を抱かせる結果となった。ハリウッド映画が作り上げたイメージ(シークレットサービスのヒーローが登場する『エンド・オブ・ホワイトハウス』が思い浮かぶ)と、7月13日にペンシルベニア州バトラーで見せつけられたほとんど滑稽なまでの無能さとの間には、大きな隔たりがある。
批評家たちがアメリカの世界的役割の低下を嘲笑し、その能力を疑うことに喜びを感じている今、シークレットサービスのような高く評価されている機関が、このような無能ぶりを見せれば、特に軍事・商業・テクノロジー・外交を問わず、中国のような伝統的なライバルによる大きな成功を背景に、多くの人々が懐疑的になるのは必至だ。中国は昨年、サウジアラビアとイランの和解を仲介しただけでなく、パレスチナの2大派閥、ハマスとファタハに対しても同じことをしたばかりだ。
ハリウッド映画が作り上げたイメージ(シークレットサービスのヒーローが登場する『エンド・オブ・ホワイトハウス』が思い出される)と、7月13日にペンシルベニア州バトラーで見せつけられた、シークレットサービスの滑稽なまでの無能さとの間には、大きな隔たりがある。
ファイサル・J・アッバ
個人的には、合理的で賢明なオブザーバーは、才能とアイデア、そして最も重要なレジリエンスに満ちた強大な国であるアメリカの負けに賭けるべきではないと思う。しかし、そのような偉大な国が、自国の前大統領であり次期大統領候補を守ることができないのであれば、これはまさに 「大失敗 」であると言わざるを得ない。
X:@FaisalJAbbas