イスラエルの首相、ベンヤミン・ネタニヤフ氏は、イデオロギーや道徳上の懸念が、彼の権力への飽くなき欲望を弱めることは決してない。メディア操作による政治的ストーリーのコントロールは、彼の持続力の中核をなしてきた。
首相官邸を巻き込んだ最新のスキャンダルは、最高機密文書の外国メディアへの漏洩を巡るものである。現時点では、ネタニヤフ首相自身は容疑者ではないが、それでも、首相が作り出した曖昧な環境が非難の的となっている。首相の側近たちは、首相の政治的生存を確保することが国益よりも優先されるべきだと考えているのだ。
このスキャンダルの発端は、ハマスに拘束されていたイスラエル人人質6人の殺害という悲劇的なニュースが流れた9月にさかのぼる。このニュースを受け、数十万人のイスラエル人が街頭に繰り出し、残りの人質の解放を求める合意を求めた。
この出来事は、ネタニヤフ首相にとって政治的な脅威となった。翌日、ネタニヤフ首相は記者会見を開き、ガザで発見したという文書を提示した。その後、彼に最も近いジャーナリストの一人が、その文書はハマスの指導者であるヤヒヤ・シンワル氏が書いたものに違いないと示唆した。その文書には、ハマス軍が人質となった人々の家族や、内閣におけるネタニヤフ首相の主要なライバルであるヨアブ・ガラント国防大臣に対して「心理的な圧力を強める」よう指示し、「事件の責任はネタニヤフにあるという主張を続ける」よう指示していたことが書かれていたと伝えられている。
ネタニヤフ首相は記者会見で、その文書が「シンワル自身によるものかどうかは確認できないが、ハマスの高官によるものだということは確認できる」と述べた。彼の戦略としては典型的なやり方だが、何かが真実であるという強い印象を与え(この場合はシンワル氏が文書を書いたという印象)、後にそれが誤りであることが分かっても、その主張から距離を置く余地を十分に残している。
その一方で、シンワル氏が人質家族を操っているという印象を多くの支持者に与え、人質解放の取引を要求している人質家族は世間知らずであるか、あるいは、愛する家族の帰還という「利己的な」願望のために、自国の利益を犠牲にする覚悟がある、という望ましい効果を狙っていた。
少なくとも現時点では、ネタニヤフ首相自身が容疑者ではないが、それでも、首相が作り出した曖昧な環境が非難されている。首相の側近たちは、首相の政治的生存を確保することが国益よりも優先されるべきだと考えているのだ。
ヨシ・メケルバーグ
そして、不思議なことに、ハマスとの取引を求める抗議運動が勢いを増す中、ロンドンのユダヤ人新聞『Jewish Chronicle』に、全くの捏造記事が掲載された。 捕獲した文書に基づくというその記事は、シンワル氏が、自身とイスラエルの人質をガザ地区とエジプトの間の狭い地帯である「フィラデルフィア回廊」を通じてガザ地区外に密輸出する計画を立てていると伝えていた。
その翌日には、ドイツのタブロイド紙ビルトが「ぞっとする!これがハマスの指導者が人質に対して計画していることだ」という見出しの記事を掲載した。ガザ地区にある「ハマスの軍事情報部門が作成した、これまで知られていなかった文書」を基に、ハマスは自分たちやガザ地区の人々に悲惨な結果が待ち受けていても、戦争を終わらせるつもりはないとし、イスラエル社会に分裂を生じさせる戦略を追求していると主張した。
この記事は、シンワル氏がこの文書の背後にいるかのような印象を与えたが、後にそれは事実ではないことが証明された。しかし、正直に言えば、戦争中の敵同士が互いの国民に不和の種をまこうとするのは、それほど驚くことではない。イスラエルも同じことをしている。重要なのは、なぜこれらの文書がリークされたのか、そして誰がリークしたのかということだ。
この件に関してネタニヤフ首相を批判するとしても、厳しくないものにするなら、最高機密文書へのアクセスをセキュリティ許可のない人物に許可していたことに対する重大な怠慢を責めるか、あるいは、外国の報道機関にリークされる可能性があることを知らなかったと認めることだろう。
このような機密事項に関する文書の漏洩は、特に戦争中であれば、当然重大な犯罪行為と見なされる。もし、一部で指摘されているように、イスラエル軍の一部の勢力と首相府報道官の共謀によるものだとしたら、関係者が反逆罪を犯したという主張があっても驚くには当たらない。