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「平和から繁栄へ」国際会合の好機を生かそう

パレスチナのマハムード・アッバス大統領。(AP Photo)
パレスチナのマハムード・アッバス大統領。(AP Photo)

パレスチナ当局とすべての党派は、アメリカとバーレーンが支援して6月25日〜26日にマナマで開かれる、経済支援を話し合うための平和会議への出席を拒否している。これは湾岸協力会議(GCC)諸国や他のアラブ諸国もすべて参加する会合だ。

民間レベルで興味を示しているパレスチナの企業家はいるが、パレスチナ解放機構(PLO)は参加表明した者に「敵への内通者」というレッテルを貼り、国際会合を「経済の名を借りた恫喝」だとして切り捨てた。アメリカ大統領上級顧問のジャレッド・クシュナー氏が、これはひとつの先駆的会合に過ぎず、追って政治的解決案も示す予定だと明言しているにもかかわらずだ。

パレスチナのマハムード・アッバス大統領のこうした狭量な姿勢は極めて近視眼的であるし、最悪の場合自国を破滅させかねない。会議に出席して話し合いの内容を聞いたからといって、何かの害になるわけでもない。それを受け入れるか受け入れないかは、最終的にパレスチナに決定権がある。パレスチナはこれまで多かれ少なかれ、他国の支援に頼ってきた部分がある。ところが、今まさにその支援が与えられようとしているのに、指導層が背を向けてしまった。国民のために受け入れようとは考えないのだ。

イスラエルは軍事化が進み、建国の精神に反していると当時の指導者らから非難を浴びている。

イスラエル人が昔から口にしてきた言葉に、「アラブ人は機会を無駄にする機会だけは、決して無駄にしない」というものがある。それが真実ではないとしても、このような態度を取っていてはその通りになってしまう。アラブ側には何かを強制する意図はない。アッバス大統領に、もっと広い視野に立ったらどうかと勧めようとしているだけだ。さらに言えば、アラブ首長国連邦(UAE)、サウジアラビア、バーレーンは、エルサレムを首都とするパレスチナ国家を今一度支持していくと、つい最近態度表明をしたばかりだ。

パレスチナはいま経済浮揚策を切実に必要としている。市民は大変な苦境に陥っている。失業率が上昇している。公務員は給与を半分にカットされた。世界銀行が近ごろ出した報告書には、パレスチナ経済は危機的状況にあり緊急対策が必要であるとはっきりと書かれている。「平和から繁栄へ」と銘打った今回の国際会合はその答えになるかもしれない。支援策を携えた他国政府や利にさとい投資家が舞台の袖で列を成している。中でもサウジアラビアとUAEは先頭に立ち、多量の財政支援を行うと約束している。

誠意ある態度で行う経済協力は紛争解決の第一歩となるかもしれない。それ以前に、両国市民の交流において潤滑油の役割を果たすことは間違いない。経済交流は政治を後押しし、紛争解決への道筋を付けやすくする効果がある。イスラエルとパレスチナの一般市民の間に相互不信が広がっているのは、両者の間に接触がほとんどないからだ。

もしアラブ人とイスラエル人が無人島に流れ着いたら、それまでのあらゆる偏見が剥がれ落ちるだろう。お互いを同じ人類と見て、国籍や宗教にこだわらず、ただ純粋に優れた資質を持つ人物の周りに集まるようになるだろう。新しい和平案を少しでも成功に近づけたいのであれば、アメリカを含むすべての当事国がいったん冷静になる必要がある。指導者は、互いに感情的になるばかりの強い言葉や恫喝的表現を控えねばならない。

パレスチナ自治政府は会合への不参加決定を見直すべきだ。理由としては、パレスチナの経済が強くなればそれだけ自分たちの政治基盤も強くなるというのでかまわない。残念なことに、ハマスとイスラム聖戦機構は強硬政治路線と神権政治のゆがんだ理想主義に囚われすぎており、イランをはじめとする好ましからざる国や組織と関わっていることから、会合への参加は当初から見込めない。

ここでひとつはっきりさせておきたい。筆者はパレスチナの権利についてこれまで長きにわたり支持してきた。過去にはドバイで会議を開き、パレスチナの権利についてさらなる支援と理解を取り付けたこともある。また、主宰する基金からパレスチナの農民や他の支援を必要とする人々に資金も提供している。しかし一方で、筆者は現実主義者だ。夢の国はディズニーランドにこそふさわしい。筆者は今ある現実、そしてこれから起こり得る現実にしか興味がない。

アラブ首長国連邦とサウジアラビア王国、そしてバーレーンがこれまでの定位置から一歩を踏み出し、新たな道を切り拓くために今回の国際会合で主導的役割を果たしている。その勇気を称賛したい。この3か国は、かつてないほど不安定化している湾岸地域の現実を見据え、現実主義的な外交政策を取り入れた。この3か国の支援なしでは会合自体が開けなかった。次はアメリカのドナルド・トランプ大統領とイスラエルのベンジャミン・ネタニヤフ首相が善意をもって応える番だ。両国は公正と正義とを保障しなければならない。

もちろん、トランプ大統領がエルサレムをイスラエルの首都として認める決定を下したこと、またネタニヤフ首相が選挙前の公約としてヨルダン川西岸のユダヤ人入植地をイスラエルに併合すると述べたことについて、パレスチナの指導者らが腹を立てた心情は理解できる。筆者も同じ気持ちだ。

それは認めた上で、しかし、我々は今後も同じ枠組みの上に立ち続けるべきなのだろうか。この枠組みは70年以上にもわたり何の成果ももたらさなかったばかりか、人々の心に憎しみを植え付けた。その枠組みを今後も受け入れ、レンガの壁に頭を打ち付けて、平和が実現する日がやってきますようにと永遠に願い続けるべきなのだろうか。パレスチナもイスラエルも、これでは両方とも敗者になってしまう。

パレスチナ人はかけがえのない人や家、土地を多く失った。イスラエルは軍事化が進み、建国の精神に反していると当時の指導者らから非難を浴びている。このまま敵意を向け合っていては誰の利益にもならないどころか、皆が愚か者に堕してしまう。現実を見よう。イスラエル人もパレスチナ人も問題の土地からいなくなることは決してないのだから、両者が平和的なパートナーとして一緒に暮らしていけるように環境を整えることが、今や為政者の責務となっている。

アラブ諸国、特に湾岸諸国が外交と貿易で、エジプトとヨルダンが成功させたように、イスラエルと関係正常化を果たす日が来ることを願ってやまない。これら当事国のほぼすべてに、ある共通の敵がある。イランとその影響下にある破壊的組織の存在は、イスラエルにとってもホルムズ海峡近くに位置する湾岸諸国にとっても実存的な脅威となっている。しかし関係正常化が実現するためには、パレスチナとイスラエルの紛争が両者が納得する形で解決するか、せめて緊張緩和へと至る必要がある。ひとたびそれが達成されれば、イランの好戦的な冒険主義に歯止めを掛ける好機が到来するだろう。

その日が遠からずやってくることを筆者は信じている。イスラエルと湾岸アラブ諸国の当局者間で裏ルートの話し合いも行われている。こうした動きに反対する声があることも承知しているが、国民の大部分は、はじめは歓迎しないにせよ最終的には受け入れるだろう。あくまでも反対するような人物は何にでも反対する。SNSに定期的に現れ、すべての解決策に対して気が狂ったように噛み付き、では代案をと促すと罵倒するか嘘八百を並べるかしかできない。

最後にもう一度、アッバス大統領に翻意を促したい。パレスチナはあなたを必要としている。国民があなたを必要としているのだ。ネルソン・マンデラ氏は数十年の弾圧を耐え抜き、28年間もの長きにわたり収監されながら、真実、正義、和解の上に立つ新しい南アフリカを作り上げた。一念をもってすれば、成し遂げられないことなどない。

またアメリカとイスラエルに対しては、小細工に走らないように警告したい。巧言を弄したところで我々はそれにすぐ気付くし、そうなればあっという間に振り出しに逆戻りだ。パレスチナ人は公正かつ敬意をもって扱われることを望んでいる。パレスチナ人を軽く見積もってはならない。

ハラフ・アーマド・アル・ハブトゥールはUAEの著名な実業家であり、社会に名が浸透している。国際政治に詳しいことで定評があり、慈善活動や平和促進活動でもよく知られている。海外におけるUAEの非公式な代弁者として長年活躍してきた。Twitter:@KhalafAlHabtoor

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