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この報道合戦の背後にいるのは誰なのか、もしくはその原因は何なのか。

2018年10月23日、イスタンブールのスルタンガージ地区で封鎖線が敷かれた地下の駐車場の隣で待機するメディア関係者やジャーナリストら(資料写真:AFP)
2018年10月23日、イスタンブールのスルタンガージ地区で封鎖線が敷かれた地下の駐車場の隣で待機するメディア関係者やジャーナリストら(資料写真:AFP)

サウジアラビア人ジャーナリストのジャマル・カショギ氏の失踪に関する捜査はまだ終わっていないにも関わらず、各国のメディアは失踪が報じられたその日から検察官、裁判官、陪審員であるかのように振る舞い、サウジアラビア王国を名指しで容疑者扱いしてきた。アナリストやコラムニストと呼ばれる人たちは、トルコの親政府派の新聞各紙によって拡散されている疑いのない「事実」とやらを口実に、サウジアラビアの名誉を毀損する内容の主張を行い、騒ぎ立てているのだ。

メディアで報じられた筋書には、奇怪すぎてハリウッドのスパイスリラー映画からそのまま持ってきたのではないかと思われるほどのものもある。2016年には、トルコの日刊新聞大手の『Yeni Şafak』の編集者は、クーデター計画の黒幕はアメリカだと非難し、アメリカはレジェップ・タイイップ・エルドアン大統領の殺害を計画していたと報じた。このような話をまともに受け取った者は少ない。それなのに、カショギ氏の失踪の真相に関して、この悪質な新聞報道が絶対的に正しいものとして受け取られていることは、妙な話である。

真相はまだ判明していないにも関わらず、報道各社、政府高官、アメリカの議員、および大規模な国際企業が、競って判定を下そうとしており、どうしてこのような状況になるのか筆者は困惑している。米国議会がドナルド・トランプ大統領に対し、中東最大のアメリカの同盟国に制裁を科すよう迫っており、筆者は衝撃を受けている。

アメリカ政府は制裁に関しては慎重であるべきであり、それは単に財政上の理由や、サウジラビアが数百億ドル規模の投資先や武器の調達先をロシアや中国に変更してしまうのではないかという理由だけのことではない。いかなる場合においても、筆者はネガティブなほのめかしや脅迫には感心しない。

今回の失踪はアメリカで起きたものではない。また、トルコメディアからも反体制派のジャーナリストや編集者が追放されているが、それについて報道が過熱しているわけでもない。それなのにアメリカが今回の失踪に強く関心を抱いているのはなぜだろうか。トルコでは、何百人ものジャーナリストや編集者が投獄され、トルコ政府が「公敵一号」と呼んでいる少なくとも2人のトルコ人特殊部隊員はギリシャに逃亡した後、8月に失踪している。連れ去られた可能性もあるのだ。

トルコの首都アンカラのサウジアラビア大使館の二等書記官だったアブドゥル・ガニ・ベダウィ氏は、1988年に暗殺されたが、その際には国際的な抗議の声はほとんど上がらなかった。またアンカラのアメリカ大使館がトルコ人による自爆攻撃を受けた際にも、国際的な抗議の声はほとんど上がらなかった。2016年にロシアのアンドレイ・カルロフ在トルコ大使がトルコ人の単独犯によって暗殺されたことを、まだ覚えている人は少ないのではないだろうか。さらに、中国が汚職容疑で逮捕していたことをやっと認めるまで、孟宏偉元国際刑事警察機構総裁は死亡したと推定されていたことも忘れてはならない。

真相はまだ判明していないにも関わらず、報道各社、政府高官、アメリカの議員、および大規模な国際企業が、競って判定を下そうとしており、どうしてこのような状況になるのか筆者は困惑している。

捜査が終了するまでは、今後多くの異なる展開が考えられる。今年これまでに、ロシア政府に批判的であることで知られていたロシア人ジャーナリストのアルカディー・バブチェンコ氏が殺害されたように見せかける自作自演したことを、ウクライナ政府が認めた。同氏が再び姿を現した際には、それまで同氏はウラジミール・プーチン大統領の指示で暗殺されたことに疑いの余地はないと結論づけていたメディアの解説者らは、顔に生卵を投げつけられたように呆然としていた。しかしウクライナ主導によるフェイクニュース作戦はお咎めなしに終わった。

サウジアラビアのムハンマド・ビン・サルマーン皇太子の名誉が不当に毀損されているのは、けしからぬ事態である。同皇太子は、サウジアラビアの若者や女性の生活の向上を目的に、これまで類を見ない経済的・社会的な変革を勇敢に行なっているのである。

同皇太子にはもう一踏ん張りしてもらうほかない。残念なことに、カショギ氏の事件はまだ捜査が終わっていないにも関わらず、10月23日に予定されているサウジアラビアの投資サミットが成功する望みが脅かされている。ジム・ヨン・キム世界銀行総裁は欠席を発表している。CNN、CNBC、『Financial Times』、『Bloomberg』は、メディアスポンサーの辞退を発表した。

また筆者は、尊敬を集めているビジネスリーダー、例えばヴァージンのリチャード・ブランソン氏やUberのCEOを務めるダラ・コスロシャヒ氏からも、サウジアラビアに批判的な声が上がっていることに、同様に困惑している。両氏は、サウジアラビア政府に疑いの目を向けさせることを目的に拡散された未確認のごちゃ混ぜリーク情報をもとにサウジアラビア政府との連携関係を停止し、大きな利益が見込めるビジネス環境を抛ったのだ。

湾岸協力会議のサウジアラビアの同盟国およびエジプトとヨルダンは、サウジアラビア政府と緊密に連携し、これらの企業に対して国境内で事業を行うことを歓迎しない旨のメッセージを伝えなければならない。これらの企業をボイコットすべきである。私たちは、悪質ないじめには屈さないとの態度を共同で示さなければならない。そうでなければ、サウジアラビアを足蹴りして満足すれば、次の標的は私たちになることを警告しておこう。私たちの間の相互の忠誠心と透明性を証明する時が来たのだ。

カショギ氏はどこにいるのだろうか。どのニュースチャンネルでも、カショギ氏の行方が刻下の問題として取り上げられている。筆者は、健康に生存している同氏が発見されることを心から願っているが、トルコとサウジアラビアによる共同捜査によって確たる答えが得られるまでは、誰も結論を急ぐべきではない。

カショギ氏の顔が世界に知れ渡り、一夜にして超有名になったのも頷けることである。同氏は大手メディアによって、英雄的な人権活動家として紹介され、民主主義の庇護者であり真実を追い求めるジャーナリストとして評価されているからだ。文句のつけようもなく、温厚な人物だったと、同じくジャーナリズムを生業にする彼らは言う。

しかし頷けないこともある。多くのメディアは、同氏のツイートにはシリアのテロ行為に賛同する内容が含まれること、また同氏が政治的イスラム思想の強化を目指して活動していたこと、オサマ・ビン・ラディン氏と接点があったこと、そしてムスリム同胞団に所属していることには、無視を決め込んでいるのだ。

同氏がこうした筋と接点を持っていたことは、カショギ氏の元同僚で親友であるヨルダン人のサラメ・ナタール氏によって指摘された。ローレンス・ライト氏は著作『The Looming Tower』の中で、カショギ氏がムスリム同胞団を次のように語っていたと引用している。「私たちは、どこでもイスラム教に基づいた国家を樹立することを望んでいました。1つさえ樹立できれば次の1つにつながってドミノのように増やしていくことができ、そうなれば人類の歴史を巻き戻すことができたでしょう」。『ワシントン・ポスト』に掲載された同氏の最近のコラムの1つには、「アメリカはムスリム同胞団を誤解している…」との見出しが使われている。

さらに、カショギ氏のトルコ人の婚約者のハティヂェ・ヂェンギズ女史のツイッターのアカウントを見れば、同女史は反サウジアラビア、親カタール、親ムスリム同胞団の立場に立っていることがわかる。ちなみにカショギ氏の家族は同女史については何も知らないとしている。

そのため筆者はアメリカ政府に対し、同女史を早まってホワイトハウスに招待するべきではないと伝えたい。カショギ氏の事件の謎が解決されるまでは、同女史には一切信頼を置けないのである。しかし同女史にはアメリカの新聞にコラムを寄稿する機会が与えられ、同女史は失踪について「光を当てて」欲しいとトランプ大統領に懇願している。

この奇妙な動き、特にアメリカやアメリカの欧米の同盟国からのサウジアラビアへの批判には、政治的策略が張り巡らされている。サウジアラビアに批判的であることがわかっている国々にとって、アメリカ政府の機嫌をとりながら、一面的な事実や嘘を拡散してサウジアラビアの名誉を毀損する機会が生じたわけなのだ。

では舞台裏では何が起こっていたのだろうか。私は陰謀論者ではないが、これはサウジアラビアとその湾岸地域の同盟国を弱体化し、そこに影響力を行使しようという目的の策略なのだろうか。

私たちの経済を破壊し、私たちを属国にしようとする長期的な策略が練られており、それが今実行に移されている可能性はあるだろうか。本来私たちの湾岸地域の同胞であるべきカタールが、その本来の姿に戻るのを阻止しているのはどの勢力なのだろうか。もしも、私たちを進歩のはしごから転落させようと汚い手を使っている勢力があるのであれば、それに気づいて自己防衛するのは早ければ早いほうがいい。

先週の時点では、サウジアラビアはアメリカと友好関係にあった。それなのに1個人が失踪しただけで、サウジアラビア政府には、アメリカの政治家、金融関係者、そしてビジネス関係者から警告や脅迫が届いている。捜査がまだ終了していないことに鑑み、もしこれが目に余る過剰反応でないとすれば、一体何なのだろうか。

解決策は1つのみだ。欧米と握手しても、すぐにその手で平手打ちを食らうのであれば、そのような握手をもはや信頼することはできない。自己防衛には自分たちで責任を持つ必要があり、それには強く緊密な連携関係を構築しなければならない。その第一歩は、サウジアラビア、アラブ首長国連邦、およびその他の湾岸協力会議の国々で政治経済問題執行委員会の立ち上げることで、私たちの利益を海外でも促進し、敵対国を監視するだけではなく、一部の友好国の背後でどの勢力が影響力を行使しているのかも監視する仕組みを作ることだ。

  • ハラーフ・アフマド・アル=ハブトゥールはアラブ首長国連邦有数の実業家で著名人。ツイッター:@KhalafAlHabtoor
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