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宗教の保護を装ったテロリズム

22 Nov 2018 12:11:36 GMT9

欧米の数カ国はアーシア・ビビに亡命の機会を与えることを考えている。彼女は5人の子を持つパキスタン人のキリスト教徒で、冒涜罪に問われた後に無罪となったが、パキスタンの過激派集団から殺害の脅迫を受け続けている。キリスト教徒が大半を占める国々の中でも、カナダ、イギリス、フランス、イタリア、アメリカがビビとその家族に亡命先として名乗りを上げてきた。イスラム教徒が大半を占める国では、少数派のキリスト教徒の人々を保護することができそうになく、彼女の命が危険に曝されるからである。

しかしながら、それらの国々はすべて、自国での揉め事を恐れ、パキスタンにいる大使や自国民の安全のために、今やその申し出を取り下げようとしているようだ。私が思うに、精力的な少数派キリスト教徒のコミュニティのある別のイスラム教徒主流派の国がビビに安全な避難場所を提供すべきだ。それは、これまで何世紀もそうだったように、キリスト教徒がイスラム教国で信仰の自由とともに安全に生活することができるという強力なメッセージを送ることになるだろう。

53歳のビビは、冒涜罪で死刑判決を受けた後に、10月31日にパキスタンの最高裁判所から無罪を言い渡されて釈放された。彼女はパキスタンで女性として初めて死刑宣告を受け、8年間を独房で過ごした。無罪判決は、国内全域で過激派集団の抗議を巻き起こした。彼らはイスラマバードやカラチなどの主要な街で高速道路を封鎖し、タイヤを燃やし、警察に投石した。怒った暴徒は3人の裁判官に対し、ビビの死刑宣告を支持しなければ、彼らを殺害すると脅迫した。

官僚がビビの側に加勢したり、冒涜法の改正を呼びかけたりすることで殺害されるのは初めてのことではない。2011年1月に、パンジャブ州のサルマン・タシール知事が自分の警護官の1人であったムムタツ・カドリに銃殺された。彼は後の裁判の際に、「イスラム教を守った」という理由で過激派集団から英雄として讃えられたが、それでもその犯罪が故に処刑された。 2ヶ月後、キリスト教徒であるシャバズ・バッティ少数民族相が、パキスタンの冒涜法の改正を後押ししていたことで、タリバンの銃撃犯に殺害された。

抜粋見出し---- 犯罪や何らかの違法行為を行ったとして誰かを不当に責めることは、宗教および法に反する行為である。

パキスタンは、イギリスから独立した時に、宗教に対する攻撃に関する法律をそのまま引き継いだ。1980年代に、冒涜法は拡大され、懲役3年から終身刑または死刑にいたるまで、条項が追加された。

ビビに関する議論の全体が、アーサー・ミラーの『るつぼ』さながらに、魔女狩りのようである。女性の集団と水について口論になった時に、預言者ムハンマド(彼に平安あれ)を侮辱したとして彼女らはビビを非難し、地元のイマームや村の老人らによって村は煽り立てられ、狂乱状態になった。多くの批評家は、パキスタンの他のすべての冒涜事件と同様に、この件は冒涜に関するものではなく、単なる身分制度による偏見、土地と資源にまつわる紛争、個人的怨恨への仕返しに関わるものだと信じている。冒涜法の被害者の多くが、彼ら自身、イスラム教徒だからである。

裁判官は、大抵は、単に事件を立件する証拠がないことを確認するが、有罪が取り消されたとしても、被告人は安心して自宅 に帰ることがない。パンジャブ州で侮辱で処刑された例はないが、調査およびセキュリティ研究センターによれば、1990年以降、常に目を光らせている暴徒によって少なくとも65人が殺害されている。

当局は、ビビを刑務所から出し、秘密の場所で保護拘置下におくと同時に、できる限り早急かつ秘密裡に出国させることを模索した。過激派集団は、これまで、ビビの出国が許されれば、抗議活動を激化させると脅迫してきた。国の状況を麻痺させた3日間の抗議活動の後の重圧の下、政府は、彼女に出国制限をかけることを明言し、裁判所の判決を見直すための請願書の提出に同意した。

このような形の宗教の利用・乱用は、いくら控えめに言っても許しがたい。犯罪や何らかの違法行為を行ったとして誰かを不当に責めることは、宗教および法に反する行為である。さらに重要なことに、コーランまたは預言者ムハンマドの本来の教えにおいて、イスラムには冒涜で人を罰するという理屈は全くない。実際、イスラムは忍耐と許しがすべてなのだ。

私たちはずっと西洋におけるイスラム恐怖症について不満を言い続け、宗教に対する誹謗中傷に抗議し続けているが、これらの「冒涜」に関わる行動と反応は、イスラムにとっては、侮辱的な漫画コンテストよりも悪影響だ。そのような下劣で執拗な集会はイスラム教徒に対する恐怖心を正当化するだけだ。さらに、少数派の過激な集団の要求が満たされないからと言って、国全体の幸福を脅かすことや他国に不安を与えることは、私の辞書ではテロリズムを意味する。

そのような過激な宗教集団に対して、暴力的な行動をやめるように助言し、宗教文献の本当の意味を解釈するように導くことが、立派なイスラム教学者やパキスタンおよびイスラム教世界の組織の義務である。権力や政治的利益のために宗教を利用することは破壊的行為だ。

宗教と政治が交われば、どんな場合も、その結果が大抵は宗教を劣化させ、政治を蝕む。宗教がいかに政治的利益の追求のために非常に有害な方法で利用されてきたかを示すあからさまな事例が、ムスリム同胞団やヒズボラなどの例である。そしてその結果は悲惨だ。

西洋におけるイスラムおよびイスラム教徒に対する否定的なイメージの回復について話し始めることができるようになる前に、イスラム教国の、特に地方におけるイスラムの宗教文献に関する多くの誤解、考え違い、解釈の間違いを正すためにやらなければいけないことが数多くあるのだ。

  • マハ・アキールはサウジアラビアのライターである。ジッダを拠点とする。

Twitter: @MahaAkeel1

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