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安倍晋三首相がいかに後任者に高いハードルを残したか

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30 Aug 2020 09:08:50 GMT9
30 Aug 2020 09:08:50 GMT9

コーネリア・マイヤー

安倍晋三氏が金曜日に、健康上の理由から後任が決まり次第辞任すると発表したとき、彼は自らの大叔父である佐藤栄作氏の内閣総理大臣としての連続在任日数記録を既に4日上回っていた。第2期安倍政権は8年近く続いたのだ。

日本の総理大臣の任期は短く、通常は1年から2年、時には1年に満たないこともあった。しかし、同じく頻繁に首相が入れ替わるように見えるイタリアの制度と比べることはできない。イタリアの政治はイデオロギーを競い合うものであるが、日本の政治は、似通ったイデオロギーを持つなかでの利害を競うグループ同士のバランス調整を図るというものなのだ。1955年以降、合わせて6年に満たない短期間の例外を除き、常に自由民主党(自民党)から総理大臣を出してきた。

自民党は様々な派閥からなる幅広い支持基盤を持つ組織であり、各派閥が交替で首相を指名し、他の大臣職も党内部で割り当てられる。封建制の名残的要素のある政治制度なのだ。自民党の政治家たちは、政策的には真ん中から右寄りであり、財界優先で、有権者の経済的利益を強く保護する立場をとっている。

有権者たちは何十年も同じ家系から国会議員を選出しており、影響力を持つ自民党の高官たちにこれほど二世や三世、時には四世の国会議員が多い理由となっている。安倍氏も例外ではない。彼の大叔父は1960年代から1970年代初めに首相を務め、祖父である岸信介は1950年代後半に努めた。そして父親はあと一歩というところまで行ったが、1990年代初めに末期の膵臓癌により身を引かざるを得なくなった。

このようなシステムにあっては、足跡を残せる首相はほとんどいない。日本の政治というものは、ライバル派閥の間の優先順位を判断する仕事であり、壮大なビジョンを抱く暇はないからだ。しかし安倍氏は残すだろう。彼が2012年に2期目の政権に就いたとき、日本は前年の壊滅的な地震と津波からの復興を始めたばかりであり、リーダーである首相にはかつてないほどの重責が求められていた。

経済低迷で20年が失われた日本では、行動を起こすことが必要であると安倍氏は理解していた。急速に高齢化しつつある国民に活力を注入することが課題であり、彼は拡張的な金融政策と財政政策、そして構造改革とを打ち出した。後者については様々な経済団体の特定利害で動く与党にとっては困難なことであったが、彼はそれなりの成果を上げた。任期中に日経株価指数は2倍以上になり、約10年間主にマイナスであったインフレ率が少なくともプラスに転じた。

彼の外交政策は右寄りであったが、彼の派閥である1962年に福田赳夫氏が結成した清和政策研究会の伝統を考えれば、それも驚くことではない。首相としての福田氏は、台湾国民党党首たちとの友好関係を維持し、東南アジアとは「心と心が触れ合う関係」を支持し、それが地域における日本の経済的影響力の礎となった。安倍氏はその伝統を引き継いだ。

安倍氏の後任者は大きなハードルを引き継ぐことになるが、どのようにそのハードルを越えるかは、コロナ禍、経済、地政学的現実の成り行き次第だ。

コーネリア・マイヤー

彼はまた戦後の平和憲法を改正して、日本の自衛隊が自国防衛のため、特に北朝鮮からの攻撃に備えるために、海外で同盟軍と関与できるようにしたいと望んでいた。2017年選挙で圧勝したにも関わらず、彼はその機会を捉えられなかった。しかし第1期安倍政権時代の2007年に、国会は日本の防衛庁に内閣の完全な地位を与えて防衛省とする法案を通した。

安倍氏最大の功績のひとつは、ドナルド・トランプ氏が大統領就任の日にバラク・オバマ大統領の環太平洋パートナーシップ(TPP)を離脱したときに、カナダのジャスティン・トルドー首相の支持を得て同協定を存続させたことだった。

安倍氏はまた2018年に日本の首相の7年ぶりの訪中として北京を訪れ、日中関係の復活を試みた。この努力は、中国が南シナ海での挑発を活発化して米中関係が悪化したことにより阻害された。

安倍氏の外交面での最大の失敗は、日韓関係の悪化だった。特に北朝鮮が脅しをかけ続けてきており、中国がこれまで以上に主張を強める中にあっては、韓国は日本にとって重要である。

安倍氏はまた、電話通話やゴルフなどでトランプ大統領とも良好な関係を築くことができている。

誰しも完璧ではないが、安倍氏は可能な限りのベストな手を尽くし、日本が最も必要とする時にその安定をもたらした。

彼の後任者はコロナ禍にあって経済を進めていかなければならず、しかも第二次世界大戦以降最大の経済低迷であると思われる中でそれをしなければならない。そして2019年の国債がGDPの237%であるという負債や、急速な高齢化社会が持つ課題にも対処しなければならない。

外交舞台では後任者は、台頭しつつある中国と折り合いをつけ、日韓関係を再調整し、北朝鮮からの脅威に対処しなければならない。また、大統領選後の米国の外国政策の優先事項がどこにあるかを見定め、米中関係を再調整する必要もある。

安倍氏の後任者は大きなハードルを引き継ぐことになるが、そのハードルをどのように越えるかは、コロナ禍、経済、地政学的現実の成り行き次第だ。しかしそれほど大きな変化を期待すべきではないだろう。新たなリーダーは同じ自民党出身者だからだ。つまり、イデオロギー上の野心よりも、内部の力バランスの維持に没頭することになるということだ。

コーネリア・マイヤー氏はビジネスコンサルタントであり、マクロ経済やエネルギー問題の専門家である。

ツイッター:@MeyerResources

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