
戦争で荒廃したリビアにとって、もしすべてうまくいけば、数日後には石油タンカーデルタ・ヘラス号がハリガの東部ターミナル港から約4,200万ドル相当の100万バレルの石油を積み込み、中国への経由地であるスエズ運河へ向かい出港することになるだろう。
しかし、その見通しには大きな数多くの「もし」がつき、さらに可能性が低いのは、今年初旬以来、初めてリビアから石油を出荷する数多くの石油タンカーの中で、デルタ・ヘラス号が最初の石油タンカーとなることだ。
石油業界戦略家が検討する価値がほとんどない程さらに可能性が低いのは、リビアによる原油輸出再開により、不安定な世界石油市場のバランスを図るためのOPEC +のエネルギー政策立案者による慎重な取り組みが揺るがされることである。
リビアが原油輸出を再開できるという考えは、原油の大部分が生産、輸出されるリビア東部の大半を支配する軍の司令官であるハリファ・ハフタル氏が、トリポリを拠点とする西部のリビア政府の一部と取引を行ったことにより、実現可能となった。
リビア東部にある港は石油輸出を再開するのに十分な安全性と安全性を備えているということに、ハフタル軍司令官は、トリポリのアフメッド・マイティーク副首相と合意している。2人は、合同委員会の監督の下、取引の収益金を分け合うことに合意したと報じられている。
しかし、この計画には様々な欠陥がある。1つは、ハリガとリビア東部にある他の2つの港が、いつでも容易に再び暴力的な無法地帯となりうるということだ。リビアには、特に石油マネーの問題を巡り、何かあれば即衝突する可能性のある重武装した傭兵や、敵対しあう勢力がはびこっている。
もう一つの障害は、リビア国内の石油産業が最近の戦闘激化により大きな損害を受けていることだ。政権が統一されていない中で、昨年のアブカイク(Abqaiq)とクライス(Khurais)の両油田の石油施設が攻撃された後、サウジアラビアが原油生産と輸出を記録的な速さで回復させた取り組みと同様なものを想像することは困難である。
輸出が再開され、再び収益が出始めても、今後どう進めるのかについて合意が得られていない。リビア中央銀行は、同国の国営石油会社からの収益を受け取る権限を持つ唯一の機関であり、ハフタル司令官とマイテグ副首相間の取引の当事者ではない。また、合法的に石油を所有している国営石油会社でもなければ、トリポリ政府にとって不可欠な当事者でもない。
巨大な幸運と優れた統治、どちらもリビアには豊富にあるわけではないが、それらによって原油生産が再開され、それが維持されたとしても世界の原油バランスを大きく変えることにはならないだろう。
ゴールドマン・サックス社のアナリストらは、2021年下半期までに1バレル当たり65ドルという予測を固辞しているものの、すべてうまくいけば、リビアはすぐに日量40万バレル(bpd)の輸出が可能となるかもしれないと見込んでいる。
今年1月以降からの日量10万バレルほどの原油輸出量から大きく回復した数字ではあるものの、OPEC +の全体的な計算から見るとそれほどの量ではない。OPEC+は、年初から月次評価でリビアの原油生産を無視している。現在の問題が発生する以前にリビアが生産していた日量120万バレルを大きく下回る。
リビアの40万バレル以上の産量増加は、年末までにOPEC+のアナリストにより数字を調整する必要があるかもしれないが、3000万バレルを優に超えるOPEC+の総生産量の中では、誤差の範囲内となるだろう。
また、合意された削減体制の順守が現在の歴史的なレベルで継続し、補償的減産が年末までに達成されれば、それ以上の補償を受けることになるだろう。
OPEC+は多くの問題を抱えている。コロナ禍の第二波に直面した際の石油需要回復の不確実性、現行の協定順守の確保、地政学的・世界的な経済的変動にトレーダーが反応することに起因する石油市場の変動の可能性などである。
しかし、リビアが石油業界の勢力として再度台頭するという遠望は、あまり懸念生じさせるものではないだろう。
– フランク・ケインは、ドバイを拠点に活動する受賞歴のあるビジネスジャーナリスト