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天然ガス市場に渦巻く競争と協力の葛藤

ロシア・ヤラクタ油田の坑口装置および掘削リグ(ロイター)
ロシア・ヤラクタ油田の坑口装置および掘削リグ(ロイター)
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06 Oct 2020 09:10:46 GMT9

カタール・ロシア・イランは、解くに解けぬ難解な方程式を天然ガス市場に作り出してしまった。目下の情勢では、数々の危機的状況に直面している中東は相互利益と競合利益とがせめぎ合う場となっている。中東には石油や天然ガスといった天の恵みはあるものの、これははたして禍福いずれであるのか、誰もしかと言明できる者はいない。

サウジアラビアのムハンマド・ビン・サルマーン皇太子がサウジ・ビジョン2030を説くなかで「石油依存症」からの脱却に真摯に取り組むと語ったのも、上のようなことを思慮してのことだ。

中東の天然ガス市場にはいま、不気味な影を落としつつある問題がある。天然ガスの増産に前向きな姿勢を見せるカタールは、ロシアやイランなどの利益を脅かす存在となっているのだ。ロシアなどはこれを受け、世界最大級の天然ガス生産国としての地位の維持を図っているところだ。

カタール政府とトルコ政府は政治と経済の両面で結び付きがある。これを考え合わせると、カタールのガスがトルコに渡る場合、それはすなわちカタールが欧州への販路を得るとともに新たな輸出市場を見出した、ということを意味する。トルコのレジェップ・タイイップ・エルドアン大統領はカタールからのガス輸入に熱心だ。イランからの絶え間ない圧力から解放されるからにほかならない。

2019年、トルコはロシアおよびイランからのガス輸入量をほぼ半減させている。トルコはイランに対しては、値は高いのに質は低いガスを輸出していると批判。エルドアン氏は、政権としてトルコをエネルギー自給自足可能な国とし、いずれは中東の主要ガス輸出国に伍する存在としたいとする決意を語るまでにいたっている。今年に入ってトルコは黒海で巨大ガス田を発見したと発表、2023年には採掘できる運びだという。
ガス採掘の段になればトルコがガス田発見を輸入ガスの値下げへの有利な交渉材料として使うであろうことは、むろんまずまちがいない。要するに、トルコはガスを輸入に頼るのはやめにしたい。ゆっくりとではあれ、ゆくゆくはイラン産ガスの輸入も停止したい。そうしたもくろみだ。

他方でもしも、カタールが自国のガスをトルコに輸出したいと思えば、トルコまでパイプラインを通すにはアラビア湾(ペルシャ湾)やイラク、イランなりが経路となるしかない。イランは自国の領土内をパイプラインが通ることなど決して認めはしないはずだ。まして自国の水域や国際水域にも通させはしないだろう。そんなことをすればトルコ市場でのシェアを減らしてしまうことになるからだ。

天然ガスの輸出先としてイランが目下注視するのはどちらかといえばアジア市場、特にインドとアフガニスタンだ。しかし、パキスタンまで伸びる予定のパイプラインの建造は難航し、いまだ完成していない。2,000億ドル規模のイラン=パキスタン=インド共同天然ガスパイプライン計画についても未完成だ。パキスタンを通過することにインド側が安全保障上の懸念を示しているからだ。

米国はイラン核合意から離脱、イラン政府に対する圧力を強めている。これを受けインドはイラン・チャーバハール港関連のさまざまなプロジェクトについて投資を差し控えるともに活動を鈍化させている。イランと米国の間に緊張が走るとインドはイランへの投資をストップさせる。これは繰り返されてきた歴史だ。

イランにはロシアに次ぐ世界第2の天然ガス埋蔵量がある。が、産出するガスの過半は自国で消費している。2018年にはイランは2,396億5,000万立方メートルのガス生産をおこなっているが、うち2,256億立方メートルは国内消費に回した(全体の92.2%)。この10年イランの国内消費量は増えつづけており、このペースが続くようなら輸出などできた話ではなくなる。そればかりか、特に北部地域の消費に回すため大量のガスをアゼルバイジャンやトルクメニスタンから輸入せざるをえなくなるはずだ。

必要とするガスを確保するためには、イランとしてはアラビア湾(ペルシャ湾)の共同ガス田で割り当てられた量の開発のためカタールから技術を輸入する必要がある。

ロシアは欧州へ最も天然ガスを輸出している国であるだけに、イランが欧州へガスを輸出すれば市場での自国の優位が損なわれかねないため、イラン側のもくろみには不満を示している。カタールも欧州市場への参入を試みているが、ロシアはやはり自国の利得を脅かすこうしたカタールの試みを容認しそうにない。

しかし、ガス市場には最近新たな徴候が見られ、カタールの欧州ガス輸出計画は足踏み状態だ。ひとつの動きとしては、欧州に地理的に近い、エジプトなどといった国々が相当な規模の埋蔵天然ガスを発見した、という一件がある。また、エジプトや欧州と近いいくつかの国々が姿勢を変えてきたといった件もある。たとえばサウジアラビアは、「ビジョン2030」と連動する形で天然ガス輸出市場への参入に目を向けているところだ。

サウジアラビアは、かつては石油輸出のみに頼り天然ガスの輸出は手控えていた。それがいまでは、世界のガス市場で確かな足がかりを作りながら全力で市場への参入を目指すという姿勢に一変した。こうした取り組みの一例として、サウジは天然ガス生産を47%増大させているといった徴候も示す。また、2030年までに世界第3の天然ガス輸出国となる意向も示している。

ところでサウジアラビアとしては、天然ガスの輸送にエジプトとスエズ運河を経路に使うという算段はあるだろうか。中東圏の政治紛争においては重要なアクターであるエジプトは、2013年に地中海できわめて広大な埋蔵天然ガスを発見している。このズフル・ガス田は現在採掘が開始されている。ということで、エジプトは近くガス自給自足体制となり、輸出国に転じる。このエジプトとサウジが協同する場合、かねて議題に上るガスパイプラインについても建造される見込みはさらに高まる。それはつまり、この両国が大量の天然ガスを欧州へ輸出できるかもしれない、ということだ。1977年以来、サウジおよびその他湾岸諸国の石油はエジプト経由で欧州へ輸出される際にスエズ・地中海パイプライン(SUMEDパイプライン)を利用してきた。ガスのパイプラインが作られた場合どうなるか。エネルギー供給にまつわる中東の政治ゲームにおいて、その均衡に影響をおよぼし変化をもたらしうる重要な切り札をエジプトおよびサウジアラビアは手にするということだ。

カタールも欧州市場への参入を目指す。自国の利益を脅かすこうした試みをロシアは許しはしないだろう。

ムハンマド・アッ=スラミー博士

アラビア湾(ペルシャ湾)と欧州を結ぶパイプライン建造のプラン自体は目新しいものではない。2011年にはイランが、南パールス・ガス田の天然ガスを欧州へ輸送する目的で、イラク・シリアを経由してレバノンの地中海沿岸までを結ぶパイプラインを作る計画を発表している。2年前にはカタールが同様の案をシリアのバッシャール・アサド大統領に示している。カタール政府によるその計画は以下のようなものだ。イラン=カタール共同の北パールス・ガス田を始点にイラク領内およびシリアのアレッポを経由してトルコまでパイプラインを渡し、そこから欧州へガスを輸送する、というものだ。ところがアサド氏は、イラン・ロシアへの依存を深めることからこのカタールの提案を蹴っている。

縷々述べてきたが、要はこういうことと言える。相互利益がありたがいに協力しあう国同士――あるいは友邦同士といってもよい――が一方で、ある。他方で、競合する利益がありたがいに衝突する国同士もある。これらは同じ国々だ。中東諸国やその友邦が経済を発展させる上で石油や天然ガスに代わるものを近々見出せそうな趨勢ではなさそうだ。となるとこうした複雑な情勢はこの先も続くということだ。

湾岸危機が起こり、トルコ・カタール・イランはその意向、その立場がぐっと近寄ったのは確かだ。が、それは戦術としてそのように移行したということで、戦略なのではない。その間、ロシアという名の熊は世界市場での自国の利益やシェアを守るため情勢の監視を怠ってはいない。

  • ムハンマド・アッ=スラミー博士は、国際イラン学研究所(ラサーナ、Rasanah)所長。Twitter: @mohalsulami
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