
サウジアラビア、UAE、バーレーン、エジプトが、アルウラで開かれた第41回湾岸協力会議(GCC)首脳会議でカタールとの関係を回復することを決めたことで、アラビア湾地域を3年以上分断してきた争いに終止符が打たれた。既に世界の多くの地域で2021年のスタートが波乱に満ちたものだった中、良い知らせだった。この決定は中東地域に利益をもたらすだけでなく、米国がこの地域に関与する新たな機会をもたらすだろう。
米国にとっては、中東地域は分断されるのではなく、団結することが重要だ。アラビア湾には安全保障上の課題が山積している。さらに、コロナ後の時代における地域経済の回復は、少なくとも部分的には、緊密に協力する当該地域の全ての国次第だろう。
しかし湾岸諸国間の不和が終わった今、米国が本当に指導的役割を果たせる分野が一つあり、それは中東戦略同盟(MESA)の創設を必要とする。米国と湾岸諸国の間で新たな盟約を結ぶというアイデアは、ドナルド・トランプ米大統領が2017年にリヤド・サミットのためにサウジアラビアを訪れていたときに公の場で出された。
トランプ政権は、イランの中東地域での覇権主義的な野心に関する同地域の懸念を共有し、ダーイシュなどの過激派の脅威に対する戦略的協力を強化することもできる多国間安全保障体制のコンセプトを受け入れた。しかし2017年にカタールとその近隣諸国との間で激しい対立が起き、MESAの計画は保留となった。
湾岸諸国の争いが解決された今、ジョー・バイデン次期政権はトランプ政権が中断した所から再開し、MESAもしくは同じような種類の組織の創設を推進すべきだ。
おそらくバイデンは、それを何か別のものにしたいと思っているだろう。きっとそれに自分のブランドを付けたいと思っているだろう。だが、トランプ政権時代に出たアイデアだからといって、バイデンはその計画に頭から反対すべきだということにはならない。米国と湾岸諸国の関係を改善する努力は崇高なものであり、推進されるべきでだ。
しかし、湾岸諸国の争いは終結したものの、バイデン政権は、安全保障、エネルギー、経済問題といった重要な問題に関してGCC諸国に同じことを言わせる上で、3つの主要な障害に直面している。例えば、トランプ政権が最初にMESAを提案したとき、その使命に関して、アラブ諸国の明確な意見の一致はなかった。安全保障に焦点を当てたい国もあれば、貿易と経済に焦点を当てたい国もあった。これらの問題は相互排他的ではなく、多方面にわたるMESAは、安全保障、経済、貿易、エネルギーに焦点を当てるべきだ。バイデン政権は、これら全ての問題に取り組む必要があることをはっきりと示すべきだ。
次に、湾岸諸国の争いは解決したが、一部の国は数十年前から後遺症的に信頼を失っている。例えば、湾岸諸国は伝統的に米国との二国間関係を維持することを好み、アラブ諸国間の信頼の欠如のため、ほとんどの場合、多国間提携を避けてきた。
最後に、中東地域に対する主要な脅威に関する合意がない。一方の側では、バーレーン、サウジアラビア、UAEは、イランの脅威について厳しい見方をしている。オマーンとカタールに関して言えば、前者は地域における中立な立場を誇りに思い、後者は天然ガス田をイランと共有しており、イランと友好関係を維持している。クウェートは中間辺りになる傾向がある。こうした事情により、MESAのような同盟を形成する能力は複雑になる。
では、バイデン次期政権は何ができるのだろうか。将来的に中東戦略同盟を築くことができる強固な土台を作るべきだ。そうするには、米国側の明晰さとリーダーシップが必要だろう。
湾岸諸国の当局者からの、近年の米国のアプローチに関する主な批判の一つは、トランプ政権でさえ、MESAに本当に求めていることを知らなかったということだった。バイデン政権は、提案されている同盟の使命、役割分担、長期目標について幅広い合意を築くことから始める必要がある。その後、真剣な話し合いが行われる可能性がある。
バイデン次期政権は、将来的に中東戦略同盟を築くことができる強固な土台を作るべきだ。
ルーク・コフィー
安全保障問題に関してGCC内で合意を形成するのを助けるため、米国は特定の脅威よりも軍事力の強化に焦点を当てるべきだ。中東地域の中にはイランを最大の脅威と見る国もあるが、そうでない国もある。
米国は、中東地域におけるロシアと中国の役割が増大していることも懸念しているが、湾岸諸国の懸念はそれほど大きくないと見られている。
米国は、湾岸諸国の合意を得られない特定の脅威や国に焦点を当てるのではなく、全ての国が一緒に取り組むことができる重要な軍事・安全保障・機密情報収集能力のギャップを特定すべきだ。そうすることで、MESAは中東地域に対するあらゆる安全保障上の脅威に備えることができる。
全ての湾岸諸国はバイデン次期政権に注目するだろう。中東地域の多くの国は、バラク・オバマ前米大統領がイランとの関係改善に失敗したことで裏切られたと感じている。もちろん、当時のジョー・バイデン副大統領はイラン核合意を強く支持しており、米国を合意に復帰させるための運動を行った。
しかし世界は2016年から変わっている。バイデン氏はこのことを認識する必要がある。湾岸諸国にとって、バイデン政権による幸先の良い第一歩は、中東地域の国々に働き掛け、米国との関係を改善することだろう。トランプ政権がMESAを提案したのは良い出発点だろう。
ルーク・コフィーはヘリテージ財団ダグラス&サラ・アリソン外交政策センターの所長。Twitter: @LukeDCoffey