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パレスチナ人へのワクチン接種はイスラエルの義務であり、政治的に理にかなっている

大晦日にイスラエルのテルアビブのラビン広場でワクチン接種を受ける男性(ロイター通信)
大晦日にイスラエルのテルアビブのラビン広場でワクチン接種を受ける男性(ロイター通信)
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03 Feb 2021 09:02:12 GMT9
03 Feb 2021 09:02:12 GMT9

イスラエル政府の状況や動機がどうであれ、そして特に政府を率いる人物が誰であれ、これまでの全体的なパンデミック対応のされ方が褒められたものではないとしても、迅速なワクチン接種作業は賞賛に値する。人口の3分の1以上が既に1回目の接種を受けており、そのうちの半数が2回目の接種も受けている。これは、コロナウイルス感染症(COVID-19)のワクチン接種プログラムの展開としては、世界のどこよりも圧倒的に早い。

イスラエルは必要以上のワクチンを調達しており、それらは既に国内にある、ないし輸送中と報じられてきた。これは誰の目から見ても非常に印象的なことだ。それでは、ベンジャミン・ネタニヤフ首相自身は言うまでもなく、閣僚の誰一人として、この成功を西岸とガザのパレスチナ人と共有することによる保健上の利点や、あるいは政治的な知恵を理解できるだけの、ほんの少しの人間性も持ち合わせていないのは、どういうことだろうか?

占領地のイスラエル軍当局からの毅然とした要求を受けて、腰が重いイスラエル政府は先週、パレスチナ人の医療スタッフに5000回分のワクチンを提供することに同意したが、それだけだ。イスラエルがパレスチナ自治政府(PA)や国際的な人道支援団体と緊密に協力して、占領下で生活する450万人のパレスチナ人のためのワクチン接種プログラムを展開しないことの理由は、利己的な理由を含め、1つどころか半分も思いつかない。

これは、結局のところ、倫理的に正しい、取るべき行動指針なのだ。これは国際法で求められるイスラエルの義務を満たすことになり、このように小さい領土の中でパンデミックの広がりと、そのイスラエルへの影響を阻止する戦いにおいて、完全に理にかなっている。それに加えて、イスラエルの国際的な評判を向上させるかなりの宣伝行為になることは言うまでもなく、有益な信頼構築手段としても役立つだろう。これは、イスラエルとパレスチナの関係が複雑化している中で、ウィン・ウィンの状況が現れた数少ない瞬間の一つである。このチャンスを、現在のイスラエル政府は明確な理由もなく、捨て去ろうとしているのだ。

ジュネーブ諸条約第4条約第55条と第56条の下では、占領国は被占領地の人々の健康に配慮する義務がある。この条約では、占領国は住民のために医療品を確保する義務を負い、より具体的には「伝染病及び流行病のまん延を防止する」義務があると明確に述べられている。これ以上明確な表現などない。

しかしイスラエルは、西岸とガザの扱いにおいて、単なるご都合主義に基づく「柔軟な」法的アプローチを取っている。その安全保障、土地の押収、入植地の建設に関しては、あたかもその場所を完全に支配する法的権利を有しているかのように扱っている。しかし、義務となると、イスラエル政府はすぐに、西岸のパレスチナ人の健康を保証するのはパレスチナ自治政府の責任であり、ガザ地区ではハマスの責任であるという主張を盾に取る。このアプローチの偽善性は少しどころではない。結局のところ、イスラエルは、その治安部隊を通じて、イスラエル人が物理的に存在しているかどうかにかかわらず、パレスチナのこれら両方の部分をほぼ完全に掌握している。

世界保健機関(WHO)によると、占領地では17万6000人以上がCOVID-19に陽性反応を示し、1900人以上がウイルスに感染して死亡している。

ワクチン接種は生死に関わる問題であり、国連は先月、イスラエルに次のように釘を刺した:「道徳的にも法的にも、今世紀最悪の世界的保健危機の真っ只中で、必要な医療に対するこのような差別的アクセスは受け入れられません」。

先月のBBCとのインタビューで、イスラエルのユーリ・エデルスタイン保健大臣は、政府のワクチン接種プログラムについて、いくつかの正当性を挙げて自慢する一方で、パレスチナ人を対象とした同様のプログラムの展開については、いかなる法的義務も否定した。大臣は、これはパレスチナの保健大臣の責任であると譲らず、ふざけ口調で次のように尋ねた:「地中海のイルカの世話をするパレスチナの保健大臣の責任とは正確にはどのようなものですか?」実のところ、イスラエルの占領とその移動制限により、西岸に住むほとんどのパレスチナ人は、イルカの世話はおろか、ビーチで1日を過ごすことさえできない。一方で、ワクチン接種でのイスラエルの積極的な支援は、多くのパレスチナ人の命を救えるかもしれないのだ。

イスラエルでは2ヶ月以内に総選挙が行われる予定で、ネタニヤフは、特にCOVID-19の犠牲者の増加、壊滅的な経済、社会、精神衛生の壊滅的結果、そして3度のロックダウンを経て危機に瀕する国家を考慮して、支持者に一定の成功を示そうと躍起になっている。ワクチン接種の迅速な展開は紛れもない成果であり、西岸とガザのパレスチナ人はイスラエルの選挙で投票せず、また、彼の地盤は彼らの窮状に対して同情などは全く抱いていないので、首相には、彼らのためのワクチン接種プログラムに時間、エネルギー、お金を投資する政治的インセンティブが全くないのだ。パレスチナの公衆衛生に対する彼の政府のアプローチは最低であり、政治的に動機づけられた冷笑主義であり、犯罪的怠慢に等しい。

言うまでもなく、パレスチナ自治政府とハマスには国民を守る責任がある。とはいえ、彼らは主権国家でもなければ、その運営のほとんどの面で独立しているわけでもない。さらに言えば、占領と封鎖、そして不十分で権威主義的なパレスチナの統治は、パレスチナの両地域を深刻な財政危機へと陥れ、効果的な全国的ワクチン接種プログラムを作れる立場にあるとは言い難い。占領者と自国の指導者に彼ら根本的な問題があるからといって、我々は何百万人もの人々に背を向けることができるだろうか?

これは、イスラエルとパレスチナの関係が複雑化している中で、ウィン・ウィンの状況が現れた数少ない瞬間の一つである。

ヨッシ・メケルベルグ

イスラエルはCOVID-19の感染拡大を阻止する集団予防接種に道筋をつけているが、イスラエル政府がパレスチナ人を敵とする狭い見方から離れ、代わりに彼らを、何よりもまず、人間として扱い、その健康にある一定の責任を持つのは、新鮮ではないだろうか?今こそ、次のように述べた200人のラビによる最近の呼び掛けにイスラエル政府が従う時だ:「ユダヤ教は、隣人が苦しんでいるときに無関心を示すのではなく、むしろ必要なときに結集して手を差し伸べることが道徳的義務であると教えています」。今こそ、ユダヤ教のこのような1つの考え方に注意を払うべき時かもしれない。これは感動的な変化をもたらすだろうし、最も重要なことは、何千人もの命を救うということだ。

  • ヨッシ・メケルベルグは、リージェント大学ロンドン校の国際関係論の教授で、国際関係論と社会科学プログラムの責任者を務める。また、王立国際問題研究所MENAプログラムのアソシエイト・フェローでもある。国際的な紙媒体・電子メディアに定期的に寄稿している。ツイッター:@YMekelberg
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