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フランシスコ教皇はキリスト教徒だけでなく全てのアラブ人を救うことができる

2017年12月24日、イラクのテレスコフにある聖ジョージ教会で行われたミサに参列するイラク人のキリスト教徒の子供たち。(ロイター)
2017年12月24日、イラクのテレスコフにある聖ジョージ教会で行われたミサに参列するイラク人のキリスト教徒の子供たち。(ロイター)
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05 Mar 2021 10:03:05 GMT9

かつてダーイシュが支配し、恐怖に陥れていたキリスト教徒の町での、イラク国内のイランの民兵による暴力、強盗、人口動態の変化は非常に拡大し、深刻なものとなっている。そのため、フランシスコ教皇はイラクへの旅を計画した。教皇がこのような旅をするのは、2千年以上前にキリスト教が興って以来初めてだ。

かつてはイラク全土で150万人が生活し、繁栄していた、イラクのキリスト教徒のコミュニティは、北西部ニナワ県に閉じこもっている。ニナワ県は歴史的にこの地域で最も多様性に富む地区の一つであり、アラム語話者などの、太古からのコミュニティがいくつかある。歴史家の多くは、イエスがアラム語を話していたと信じている。

2014年から2017年にかけて、ダーイシュはイラク北西部の全住民、特にイスラム教徒でない者に対し、多くのテロ行為を行った。このテロ集団はキリスト教徒の家に Nazarene(キリスト教徒)を表す「N」の文字を書き、イスラム教に改宗するか人頭税を支払うかの二者択一を迫った。そのようなキリスト教徒はまだ運が良かった。ヤジーディーのように「啓典の民」と見なされなかった他の少数派は、女性たちが奴隷にされるなど、さらにひどい扱いを受けた。

米主導の世界連合はダーイシュを壊滅させたが、ダーイシュの後を継いだ勢力である「人民動員隊」と総称される親イランシーア派民兵も、キリスト教徒やその他の少数派を不当に扱っているため、彼らは今もなお故郷に戻ることを恐れている。いくつかの町では、暴行を受けなくするためにキリスト教徒が独自の民兵組織を結成した。しかし、キリスト教徒は自分たちの全ての町や地域に人を配置するための資金が不足しているため、彼らの多くは故郷を追われたままでいる。そして、キリスト教徒がいない間にシーア派民兵は、証書を偽造したり、非常に安く売るようキリスト教徒を脅したりすることで、彼らの財産を盗んできた。その結果、現在15万人いると推定されるイラクのキリスト教徒は大勢イラクを去っている。

こうしたキリスト教徒に力を与え、歴史ある祖国にとどまるのを助けるため、フランシスコ教皇はイラクを訪問し、北西部最大のキリスト教徒の都市カラコシュや、クルド人自治区の首都アルビルなどを訪問する予定だ。教皇はナジャフにも行き、イスラム教シーア派の同国最高権威アリ・シスタニ師と会談する予定だ。二人の最高権威は、教皇が2019年にUAEを訪れた際にスンニ派の同国最高権威アフマド・アル・タイーブ師とともに署名したものと同じような、平和を求める文書に署名する予定だ。

だがフランシスコ教皇の中東訪問は、平和と共存を促すためのもので、単に象徴的なものではない。アリ・シスタニ師と会うことで、フランシスコ教皇は形の上ではシスタニ師をシーア派の最高権威と認めることになるだろう。この認知は、イランのアリ・シスタニ師のライバル、特にアリ・ハメネイ師を動揺させる。ハメネイ師は、神政国家イランを支配しているにもかかわらず、ナジャフの上級聖職者をねじ伏せるのに必要な宗教的血統を欠いている。おそらくハメネイ師は、シーア派民兵と彼らの暴力を使って、宗教者として名声がないのを補っているのだろう。

イランの民兵はイラクだけでなく、マロン派教会がローマと同じカトリックに属し、ベカラ・ブートロス・ライ総大司教に枢機卿の地位を与え、カトリック教会が教皇を選ぶ時には必ず投票できるようにしたレバノンでもフランシスコ教皇を心配させている。レバノン国内のイランの武装組織ヒズボラが国への支配力を強め、無法状態となり、経済が急激に悪化する中、レバノンのキリスト教徒の数もイラクと同様、減少している。それゆえに教皇は、ヒズボラの解体と、1949年に結んだイスラエルとの休戦協定の復活を含む、レバノンに関する国連決議の実施を要求する必要があることをライ氏に分からせてきた。

ライ氏の立場はヒズボラに注目されていない。ヒズボラのスポークスマンはライ氏を、名前を挙げずに「レバノン史上最悪の宗教指導者」の一人と表現した。ヒズボラのリーダーであるハッサン・ナスララ師も、ライ氏を名前を挙げずに反論し、ライ氏の要求は「受け入れられない」と述べた。皮肉なことに、レバノンのヒズボラによる恐怖政治は、キリスト教徒を保護し、彼らの権利を守るという虚構の上に成り立っている。親イラン民兵のおかげで務めを果たし、ヒズボラの方針に最大限従っているマロン派教徒、ミシェル・アウン大統領が広めたうそだ。

フランシスコ教皇は、イランのイスラム教の政府とその民兵がイラン、イラク、シリア、レバノン、イエメンに押し付けた政府モデルが、これらの国で生まれたキリスト教徒を脅かし、父祖伝来の土地から遠ざけていることを理解しているようだ。

したがって、レバントのキリスト教徒が繁栄・成功するためには、彼らの国は終わりなき戦争と革命のレトリックを終わらせなければならない。これが問題の核心だ。イランは、責任を負わない最高指導者とその民兵が、弱い大統領と役立たずな国よりも優位に立つモデルを、イラク、シリア、レバノン、イエメンに押し付けようとしている。そのモデルがイランで失敗した結果、イランは孤立し、資本と投資が損失した。経済が減速すると、政府は大衆迎合主義的な革命のレトリックを強め、暴力の水準は急上昇した。

フランシスコ教皇の中東訪問は、平和と共存を促すためのもので、単に象徴的なものではない。

フセイン・アブドゥル=フセイン

そしてレバノン、シリア、イラクのキリスト教徒が繁栄・成功するためには、民兵を解体し、国とその機関(特に司法)が法と正義を遵守させなければならない。世界が再び国を信頼すれば、資本が再び流入し、経済が成長し始め、キリスト教徒を含む全市民は歴史ある祖国にとどまり、移住計画を延期するだろう。

フランシスコ教皇はそれを分かっている。教皇は、レバントのキリスト教徒が生き残るには、イラン政府とその民兵を撃退し、各国を正常な状態に戻す必要があることを理解しているようだ。教皇は、アリ・シスタニ師のような宗教指導者に接触する際、イランのイスラムの宗教指導者に対抗して同じ方向に進むために、結集できる人なら誰でも結集しようとしているようだ。これが実現すれば、キリスト教徒が教皇に感謝するだけでなく、招かれざるイランの介入に苦しんでいるアラブ諸国の全市民も感謝するだろう。

  • フセイン・アブドゥル=フセインはクウェート紙アルライのワシントン支局長で、ロンドンの王立国際問題研究所の元客員研究員。
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