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13兆円の世界的ジェンダー格差

看護婦のアン-キャサリン・シャルリエ(中央)は、ベルギーのリエージュにあるCHRシタデル病院の新型コロナウイルス感染症集中治療棟で晩ご飯の休憩中に同僚に話しかけている。(写真提供/AP)
看護婦のアン-キャサリン・シャルリエ(中央)は、ベルギーのリエージュにあるCHRシタデル病院の新型コロナウイルス感染症集中治療棟で晩ご飯の休憩中に同僚に話しかけている。(写真提供/AP)
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10 Mar 2021 01:03:38 GMT9
10 Mar 2021 01:03:38 GMT9

人類が新型コロナウイルス感染症によるパンデミックで経験した苦難の大きさは、あらゆるレベルで悲惨で痛ましいものだった。そうした危機的状況の殆どにおいて、女性は職場で存在するジェンダー不平等のために過酷な苦難に遭うこととなった。

国際労働機関により1月に発表されたレポートによると、世界の女性雇用は2020年に5%下落し、6400万人が仕事を失ったのに対し、男性は3.9%の下落だった。またいくつかの国では、女性の失業手当が男性に比べて少なかった。このままでは女性が職場から締め出され、この分野で年月をかけて達成してきた進歩が逆行することになると、多くの専門家たちは警鐘を鳴らしている。

世界的なロックダウン、学校閉鎖、子供のケアサービスの停止、行動制限などにより、数百万人の働く女性は幼い子供の世話、就学年齢の子供のオンライン学習でのサポート、慢性的な病気を患ったり身体障碍のある家族の世話など、生活に必須のケアワークを自分たちでやらなければならなくなった。このフルタイムの労働とケアワークによる重荷は、両方の責任を黙って引き受けなければならない女性たちにとっては特に苦しいため、仕事を辞める決断をするに至るのだ。この状況は、シングルマザーの家庭では一層ひどいものになった。

このパンデミックによって、家族を世話するために女性が諦めてきた時間、努力、犠牲を我々の経済が過小評価してきたことが明らかになった。実際、子供やお年寄りの世話などを含む世界の無給労働の合計のうち、平均75%が女性によって担われている。中東や北アフリカでは、この数字は80~90%にまで上昇する。しかしパンデミックの発生以降、女性たちが有給の仕事と無給の仕事のつり合いを取れるよう手助けする動きはほとんど行われなかった。

稼げたはずの収入や貯蓄、年金など、女性の将来の経済的安定と密接にかかわるもの全てを、女性は日々失っている。女性の雇用において達成された長年の進歩を回復させるには、政治家が緊急に一連の家庭に優しい政策に投資しなければならない。そうしなければ、膨大な経済損失や将来の社会的苦痛を経験するリスクを犯すことになる。マッキンゼー・グローバル・インスティテュートの調査では、このまま働く女性へのパンデミックによる後退的な影響について対策をまったく取らなければ、世界のGDPは2030年までに1兆ドルの損失が発生すると予測されている。反対に、ジェンダー平等を進めるために必要な介入を行うことで、世界経済に13兆ドルを追加することが可能なのだ。

家庭に優しい政策とは、働く親や子供、お年寄りや雇用者、そして地域社会や経済全般に至るまで、関係するすべての人にとってウィンウィンの状況だ。

サラ・アルムラ

家庭に優しい政策とは、働く親や子供、お年寄りや雇用者、そして地域社会や経済全般に至るまで、関係するすべての人にとってウィンウィンの状況だ。つまり、政治家が介入し、家庭が経済的に豊かになって社会的に繁栄できるようにするのが不可欠なのだ。経済的安定の確保、貧困率の低下、生産性の向上、家庭の公助プログラムに関わるコストの軽減、福祉の向上、ストレスレベルの軽減、生産性が高く経験を積んだ女性労働者を労働市場に維持することなど、家庭に優しい政策には得るものが多いことがどんどん明らかになっている。

 家庭に優しい職場環境政策は、様々な形で行い得る。例えば、雇用者は女性がワークライフバランスを実現できるよう、フレキシブルな勤務時間を取ったり、リモートワークやパートタイム雇用などを選びやすくすることができる。興味深いことに、このパンデミックは多くの大企業に刺激を与えており、フェイスブックやツイッター、マイクロソフト、スキルシェア、ユニリーバなどは、長期リモートワークに切り替えた。さらに、多くの従業員らは母親・父親の出産休暇、育児休暇、チャイルドケア休暇、介護休暇など、自分たちの必要に応じて様々な休暇を取ることができるようになるべきだ。多くの企業が健康保険や、従業員と家族のフィットネス&ウェルネスセンターの利用割引など、従業員や家族への豊かな福利厚生も提供している。

また、働く母親とその子供のために普遍的で利用可能な質の高いチャイルドケアや早期教育サービスに投資することで、地域社会に約7%の還元を生み出せる。いくつかの研究では、学習成果の向上、健康状態の向上、学校退学率の低下、成人になってからの収入増加など、普遍的なチャイルドケアサービスを提供することによる子供への恩恵を指摘している。普遍的なチャイルドケアによって、働く女性は仕事上の責任でバランスを取る柔軟性がもてる一方、活動的で身の回りを支える母親でいることもできる。

この家族に優しい政策は、この厳しい時代の中で働いている女性をサポートする社会保護システムを設計することにも応用できる。このサポートは失業手当、低所得家庭への現金送付、住宅助成金、子供手当などの形を取ることが可能だ。これにより、女性の福利も、その世話を受ける人々も放置されたままになってしまうような、働く女性の不安定な状況を改善することができる。さらに、政府は女性の最低賃金レベルを定め、食事、教育、チャイルドケアなど、家族を支えるのに十分な額を得られるようにしなければならない。

g.現代の働く女性は有給労働と無給のケアワークのバランスを取る必要があり、そのことに取り組む家庭に優しい労働政策が重要である。新型コロナウイルス感染症のパンデミックにより、その重要性に光があてられたのだ。家庭に優しい政策に投資することにより、女性は地域社会でより大きな役割を果たし、経済に貢献して全ての人ために多くの利益を上げることができる。各国が働く女性を取り巻く状況を変え、ジェンダーの平等が経済的成功と社会の福利を向上させる強い力になると証明するのは、今からでも手遅れではない。

  • サラ・アルムラはアラブ首長国連邦の公務員で、人間発達政策と児童文学に関心を持っている。アルムラへの連絡は以下へ:www.amorelicious.com.
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