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イランの民兵が中東を全面戦争へと押しやる

コッズの日にイラクのバグダッドを行進するカタイブ・ヒズボラの民兵。(ロイター)
コッズの日にイラクのバグダッドを行進するカタイブ・ヒズボラの民兵。(ロイター)
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30 Mar 2021 07:03:46 GMT9

イランの政権がイラク、シリア、イエメンの体制派武装民兵を交渉材料として利用し、米国との核交渉を有利に進めようとしているというのは、これまでは単なる主張に過ぎなかったが、今やこれ以上の証拠を必要としない事実として認められている。

それどころか、今議論されているのは、イラン政府が代理民兵を地域全体に展開し、壊滅的な攻撃作戦を指示して、最終的に全面戦争に発展させることをどれだけ厭わないかということだ。湾岸諸国は、軍事的にも社会的にも、このような壊滅的な戦争の影響に対抗する準備ができているだろうか? そして、もしもこのようなシナリオが現実のものとなった場合、米国や欧州、さらに幅広い国際社会の役割はどのようなものとなるだろうか? 

1月以降、複数のドローンやミサイルによる攻撃がイエメン北部からサウジアラビアに対して行われており、「Right Promise Brigades(正義の約束旅団)」として知られる民兵組織がリヤドを標的とした攻撃の犯行声明を出した。イラン政権が継続的に新たな民兵組織を複数の名前で作り出し、メインの体制派民兵組織の活動から目を逸らしているにもかかわらず、こうした攻撃はイランの戦略の大きな変化を示している。さらに、イラン政権は長年にわたってイラク領内に蓄えてきた民兵の大規模な予備軍をこの地域に展開し、イラク戦線でのさらなる敵対行為を誘発した。現在、兵士の人数は70,000人にも及ぶと言われている。

このような攻撃を通じて、イランは複数の目的を同時に達成しようとしている。例えば、南側の戦線で敵対行為を継続しているのに加えて、サウジアラビアの北側の国境に新たな戦線を開くことだ。南側の戦線ではフーシ派民兵がサウジアラビアとアラブ連合を脅かし、フーシ派のイエメンにおける正統性の主張に対する支持を強化しようとしている。これは同時にイラクの米軍に圧力をかけてイランが支援する民兵の前ではアメリカは無力であると感じさせるとともに、他の湾岸諸国へ明確だが無言の脅威を与えている。イランはイラク国内から湾岸領域を標的にできる能力を公表し、イエメンの戦地からの距離に関係なく、攻撃を免れるものではないということを明確にした。

上記の要因すべては、特にアラル国境通過の再開と両国間の貿易の開始を受けて、サウジアラビアとイラクの関係改善を妨害することを目的としている。イランは、イラクでの活動を強化することでムスタファ・アルカディミ政権の弱体化を図るとともに、次期イラク議会選挙を妨害する力を持っていることをほのめかしている。

イラクに駐留する体制派民兵組織に上記の目的を達成するよう命令することで、イランはこの地域で民兵式のゲリラ戦を開始する危険性がある。サウジアラビアは彼らとの軍事的衝突には一切関与しておらず、イラクの民兵によるそのような攻撃はいかなる理由をもってしても正当化されるものではない。民兵が関わる紛争には公式な宣戦布告が必要ないことはよく知られており、攻撃行動が繰り返されるだけで、その引き金になる可能性がある。

イランが拒否政策を進める中、地域の国々とその同盟国には以下の3つの選択肢がある。同様のアプローチを採って独自の民兵を組織し、拒否政策を進めること。こうした民兵組織をコントロールしている中心的な存在へ直接対応し、この地域で従来通りの壊滅的な戦争を引き起こすこと。もしくはイランに対し、外交的、経済的な圧力をかけ続けること。

上記3つの選択肢のいずれを選択するかは、サウジアラビア領内の親イラン民兵組織によって仕掛けられた激化がどの程度のものかに大きく左右される。ここで重要なのは、イランの政権は標的を多様化させているということだ。民兵がイルビール空港にロケット弾を撃ったり、バグダッドの軍事施設を狙った攻撃もあった。一方、リヤドにドローンやミサイルによる攻撃も行っていた。さらにイランはマリブで大規模な地上攻撃を行うことをフーシ派に命じているが、民兵組織はそのような攻撃の準備をしていない。

1つの標的や地域に対して繰り返しの攻撃が行われないことが、被害を受けた側が強くは反応しない理由の1つかもしれない。このような攻撃は敵が政治的目的を守るため、あるいは反応を煽るために限定的な軍事的攻撃を行っているに過ぎないと考えているのだ。自制の理由が何であれ、この地域が非対称な武力衝突を経験しているのは疑いの余地のないことである。イランは他国に向けて体制派民兵を利用しているが、そうした国々が自国を防衛するために使用するのは通常兵器である。

イランと国際社会の間での未解決の問題に関する交渉で何らかの調停が得られたとしても、イラン政府の体制派民兵の軍事行動の停止につながるとは完全には断言できない理由がいくつか存在する。イランは他の戦略的目的を達成するために、こうした民兵の利用や配備を続けたいと考えるだろう。また、たとえイランが代理民兵組織の解体を計画したとしても、長年に渡って民兵組織に関わった兵士を社会に再び溶け込ませて復帰させるのは困難だ。

これらの理由に加えて、湾岸地域に地理的に隣接するイラク国内で親イラン民兵の存在が既成事実になっているという要因を考慮すると、湾岸諸国はこうした現実に対応するために軍事的、社会的に準備することが不可欠である。

イランへ批難の矛先を向けることなく未知の勢力によって湾岸地域が標的にされ続けるのは不自然であり容認しかねることである。

モハメッド・アル=スラミ博士

イランへ批難の矛先を向けることなく未知の勢力によって湾岸地域が標的にされ続けるのは不自然であり容認しかねることである。イランは拒否政策の背後に隠れ続けているのだ。

イランが目的達成のためにテロリズムや派閥主義を利用することで、近代史上例のない大規模な民兵式戦争へと中東全体が引きずり込まれようとしている。何がイランを民兵という手段を利用するよう仕向けているかと言えば、それは米国、欧州、さらには幅広い国際社会がイランによる中東全体への代理民兵の設立や配備を、核兵器開発への対処に比較すれば大したものではないと考えていることが要因である。その要因に反し、この問題は中東地域の諸国にとって何よりも重要なことであり、この問題がこれ以上無視されることは受け入れ難いことなのだ。

  • モハメッド・アル=スラミ博士はInternational Institute for Iranian Studies (Rasanah)所長です。ツイッターアカウント: @mohalsulami
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