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中東全土でロシアが元の米国同盟国を受け入れ

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17 Nov 2019 04:11:55 GMT9
17 Nov 2019 04:11:55 GMT9

ダウド・クータブ

トランプ政権がNATOの同盟国であるトルコにゴーサインを出したことに続いて、いみじくも中東地域の再編に多くの注目が集まっているが、これはクレムリンが軍事的に勝利するよりもはるかに大きなことだ。米国が大体的にシリアおよびイラクから撤退しているため、モスクワが主要な役割を担い、この地域の権力配置図は今や全く違うものになる可能性が非常に高い。米国の二つの主な同盟国、レバノンとヨルダンは、徐々にロシアの権力圏に入ろうとしており、その動きは加速している。トランプ政権がこの地域を放棄したことが大きな理由だ。

米国が地上部隊の基幹人員を撤退させ、また、さらに重要なことに、シリア北部から威力のある空の覇権を放棄した時に、その後に残された権力不在の状態をすばやく埋めたのはロシアだ。トルコやイラン、アサド政権とともに、アラブの「マシュリク」は同盟関係を徐々に変えている。レバノン軍のための予算だった資金をワシントンが突然凍結することを決定したことで、ヒズボラなどの非政府組織がさらに有利になり、最終的には中東でのロシアの新たな主導権が優勢となるだろう。

トランプ政権のホワイトハウスが、国防総省や国務省に知らせることすらなく、レバノンに対する安全保障援助の「無期限の実行保留」を決めた時に、これがロシア人にとってのさらなる好機になったのである。レバノン軍への1億500万ドルの支援金をはじめとする支援の凍結は、レバノンの大統領および政府の権力を抑制するには程遠いものであり、また、間違いなくこの地域でのロシアの影響力を強めることになるだろう。

ロシアが地中海沿岸に大きく注目して動きを見せる中、海底ガスの採掘権に関する意見の不一致もこの地域の覇権争いの一部となっている。フランスのTOTALやイタリアのENIに加えて、今やロシアのNovatekが東地中海で採油している。この地域における米国の唯一の主要な同盟国であるイスラエルは、同じ海域での採掘権を主張しているが、うまくいっていない。米国国務長官のマイク・ポンペオが3月にレバノンを訪問した際、ガス採掘権に関してイスラエル側につき、レバノン国民に対して採掘作業を考え直すことを要求したことさえあった。これに対し、ヒズボラのハサン・ナスルッラーフとレバノン大統領ミシェル・アウンが米国の提案に反対した。

レバノンとロシアの二国間貿易の総額は、現在、年間5億ドルを超えている。レバノンがロシアから9億ドル相当の石油および炭化水素を輸入していることは周知の事実であり、ロシア国民は米国民とは違い、大統領や総理大臣に対してヒズボラの権力や影響力を抑制してくれとは要求しないのだ。

レバノンにおける米国の影響力が徐々に衰えてきている中、ワシントンは、力強く、安定し、頼もしい同盟国として、常にヨルダンをあてにしてきた。しかし、この協力関係も試練を迎えており、ヨルダンの節度ある君主は、米国が自分をも見放すことを恐れて、密かにこの地域の別の協力相手を探している。

ドナルド・トランプ大統領は、9月にニューヨークで開催された国連総会に合わせて首脳との会談を設定したが、それはアブドゥッラー国王の講演と全く同じ時間に行われた。そのタイミングは偶然だったかもしれないが、アブドゥッラー国王の直近の2度のニューヨーク訪問でトランプが国王を敬遠したという事実は残る。ヨルダンとトランプ政権は、イスラエルの米大使館のヨルダンへの引っ越しおよび二国構想の重要性に関して意見が異なっている。

ロシアは親米キャンプからの撤退のため、密かにヨルダンと協力してきた。ヨルダンとロシアは、国を追われてヨルダン国境付近のルクバーン難民キャンプに避難しているシリア人を、政府が領有する地区に戻すべきだとして合意した。

ダウド・クータブ

ロシアは親米キャンプからの撤退のため、密かにヨルダンと協力してきた。ヨルダンとロシアは、国を追われてヨルダン国境付近のルクバーン難民キャンプに避難しているシリア人を、政府が領有する地区に戻すべきだとして合意した。ルクバーン難民キャンプに避難していたシリア人は、かつては4万1,000人だったが、現在ではわずか2,000人になっている。このキャンプは、アルダンフの米軍基地の敷地内にあり、そのため、米国の管理圏にあるとみなしている人は多い。2018年11月、ヨルダンは、キャンプとその住人の行く末に関して、公式にロシアとシリア政権の動向に足並みを揃えた。この立ち位置は、4月にモスクワで開催された第5回ロシア・アラブ協力フォーラムで確固たるものとなった。

ロシアからヨルダンへの観光客は急増した。ヨルダン観光局が自国を訪れるロシア人観光客に、一人当たり60ドル相当の助成金を出したのも理由の一部だ。記録によれば、ヨルダンを訪れたロシア人観光客は、2016年に4万9,384人だったのに対し、2017年には7万627人となり、それ以降も増加し続けている。2018年には毎週、1,000人のロシア人がアカバを訪れた。ヨルダン当局は国家経済の12%が観光に充てられていると見積もっている。

しかし、分析家がいみじくも軍事の領域と経済の領域の変化に注目してきた一方、モスクワはこの地域に関してはるかに大きな企てをしているように見える。例えば、メディアの領域で何をしているかを見てみよう。ロシア政府運営のメディア大手、スプートニックがアラビア語で衛星放送を制作しているだけでなく、そのラジオ番組は今や現地で聞くことができる。レバノンの現地ラジオ放送局との提携契約のおかげだ。このラジオ放送局は、レバノン、シリア、ヨルダン北部のすべてにしっかりと放送されている。ロシア国家が新たに発見した軍事的利益を確固たるものにしようと懸命に取り組んでいるため、ヨルダンとイラクのラジオ放送局のさらなる調整が進行中だ。 米国の放送サービスがアルフーラTVとサワ・ラジオにかけた費用と比較すれば、ロシア人はわずかな費用で地元メディアの助けを借りて自分たちが狙った聴取者を取り込んだのだ。

トランプ政権のシリア北部からの突然の撤退は、当時は些細なことに見えたかもしれないが、この動きによって長期的に現れる影響は、すなわち、劇的な転換である。ロシアの中東地域全体への影響力を大きく増大させることになるだろう。

  • ダウド・クータブは、受賞歴のあるアラブ人記者。元プリンストン大学のジャーナリズムのフェリスプロフェッサーで、ヨルダンのアンマンでコミュニティ・メディア・ネットワークを運営している。Twitter: @daoudkuttab
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