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イスラエルの暴力によるパレスチナ人の犠牲続く 米国社会・メディアはほぼ黙殺

殺害されたサイード・ユスフ・ムハンマド・オデ君 (ツイッター写真)
殺害されたサイード・ユスフ・ムハンマド・オデ君 (ツイッター写真)
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11 May 2021 04:05:02 GMT9
11 May 2021 04:05:02 GMT9

昨年、米国の警察が麻薬事件の証拠を探してケンタッキー州ルイビルのある家を強制捜索した際、26歳の女性を殺害してしまうという事件があった。私服警官たちは犠牲者、ブレオナ・テイラーさんの以前の交際相手を探していたのだが、捜索時に家にいたのはテイラーさんと彼女の新しい交際相手であった。賊に襲われているのだと思いテイラーさんたちは恐怖に駆られた。新しい交際相手の男性は、警察官とは知らずに侵入者に対して発砲、警察は応戦し、テイラーさんは殺害されてしまった。

警察は当初この事件について事実と異なる報告をしていたが、国民から激しい反発を受け、事件は人種の平等の侵害、また度重なる警察による不当な暴力行為の一例だと非難された。

米国では、報道機関、活動家、一般市民がこうした暴力事件を注意してチェックしている。警察が間違っていることもあれば、正しいとされることもある。しかし、国民に事実が知らされているという点は変わらない。それが民主主義の大切な礎だからだ。しかし、やはり民主主義国家を自称はしているイスラエルでは、事情が異なっているようだ。

先週、イスラエル人入植者への銃撃事件の後、イスラエル軍の兵士たちがパレスチナ・ナブルス近くのベイタ村に侵入した。イスラエル警察はすでに、銃撃事件に関連して近くのトゥルムス・アヤ村出身のパレスチナ人を逮捕していた。武装した兵士たちが村に入ってくると、パレスチナ人の村人たちは抗議の意を示したが、兵士たちは16歳の少年、サイード・ユスフ・ムハンマド・オデ君を殺害した。

イスラエル人入植者たちがパレスチナの農場、オリーブ畑その他の財産を燃やして、ヨルダン川西岸に残っているイスラム教徒と少数のキリスト教徒に対する攻撃をエスカレートさせていたため、地域の緊張は事件当時すでに高まっていた。

米国の警察は広く監視の目にさらされており、捜査に関連して問題のある殺害が発生すれば、詳細に調べられることになる。場合によっては、広く知られているジョージ・フロイド殺害事件のように、警官が力を過度に行使して犠牲者を不法に殺害したことを立証することもできる。警察は責任を追求されることもあり、監視の目を光らせるニュースメディアは、真実を明らかにするよう当局に圧力をかけるなど、正義の追求においては容赦のない存在だ。

一方、イスラエルの警察と軍隊はまったく監視されていない。パレスチナ人は日常的に殺害されているが、誰も責任を問われていない。そして米国政府も、民間人を標的にしたイスラエルの暴力を非難する代わりに、大統領が共和党であろうと民主党であろうと、問題がひとりでに消え去ってくれることを願いながら目をそむけ続けている。

メディアはテイラーさんとオデ君の両事件について異なる扱い方をするかもしれないが、これら2つの事件は実際にはまったく同じ性質のものなのだ。ブラック・ライヴズ・マター(BLM)運動の支援に努力したパレスチナ人の活動家たちは、BLM運動が幅を広げてパレスチナ人の命もムーブメントの対象に加えるよう、より強く求めていくべきだ。ブラック・ライヴズ・マター運動の一部の指導者、例えば良心的で責任感あふれる人物、ホーク・ニューサム氏は、イエメンのフーシ派によるエチオピア人の不当な殺害に強い怒りを表明している。しかし、一人の道徳心による勇気だけでは状況は変えられない。

パレスチナ人とアラブ人は、米国での人種の平等に向けた運動を強く支持してきており、米国の警察による不当な暴力事件が起きれば犠牲者たちの側に立って行動している。パレスチナ人とアラブ人には、米国社会が味方してくれるよう求める権利があるはずだ。

アラブ人、特にパレスチナ人に対する不当な行為の数々は、米国の主流ニュースメディアでは軽く扱われてしまうことがあまりに多い。報道自体が、イスラエルの大規模な事実をねじ曲げた広報活動の力で同国寄りになってしまっているためだ。米国のメディアそして一般市民も、アメリカの地で起きた事件を含めて、アラブ人の犠牲者が出ても黙殺することが多すぎるように思う。たとえば、2001年9月11日の米同時多発テロ攻撃の際、12人近くのアラブ人またはアラブ人に似た外見の人々が米国人によって殺害され、犯人たちはアルカイダのテロへの怒りに駆られて犯行に及んだと後に供述した。こうした背景にもかかわらず、殺されたアラブ人被害者たちは9月11日のテロの犠牲者として認知されていない。

正義、法の支配、道徳、平等権および人権の基本原則は、一貫性をもって適用されなければならない

レイ・ハナニア

米国国民の納める税金から巨額の資金提供を得ているイスラエルでは、パレスチナ人たちが毎週、警察官や兵士によって負傷または殺害され続けており、その責任が問われることもない。そうした事件の報告や記録すらほとんどされていないのだ。正義、法の支配、道徳、平等権および人権の基本原則は、一貫性をもって適用されなければならないのに。

オデ君の殺害については、責任の追及が行われるべきだ。しかし、イスラエルの政治的影響力の強さ、また米国のあらゆる党派の政治家たちがこれまで沈黙してきたことを考えれば、今回も何も行われない可能性が高い。こうした事実上の黙認は、パレスチナ人とアラブ人に対する不正義であるのにとどまらず、人種の平等、民主主義と公平さに信を置くすべての人々に対する不正義と言わなければならない。

  • レイ・ハナニアは、多数の受賞歴を持つ元シカゴ市役所担当の政治記者であり、コラムニストでもある。彼の個人ウェブサイト(www.Hanania.com)から連絡可能。ツイッター@RayHanania
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