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ネタニヤフ氏の政治生命は刻一刻と過ぎ去ろうとしている

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14 Nov 2021 09:11:49 GMT9
14 Nov 2021 09:11:49 GMT9

イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ前首相の政治生命は今頃はもう歴史に封印されているはずだった。しかし必死に、痛ましいほどに、それでいてどこか気持ちを込めていない様子で、ネタニヤフ氏は12年以上続けていた職に復帰するという淡い希望に依然としてすがりついている。

先週可決した2年度分の予算案が、その僅かな希望へのさらなる打撃となり、有望な役職に復帰できる見込みさえも遠い彼方の可能性でしかなくなった。ただし、だからと言って、ネタニヤフ氏が悲鳴を上げながら政界から追い出されて、もはやイスラエルの民主制や社会にダメージを与えられなくなったということにはならない。

クネセト(イスラエル国会)で国家予算案が可決されたのは2018年以降ではこれが初めてのことだ。3日間のマラソンと780票という驚異的な投票総数を経てのことだった。イスラエルの政治は複雑で、予算審議は通常、野党が質問をするチャンスとなっている。問われるのは政府の思想的な方向性だけではなく、持久力や耐久力も問われることとなる。ナフタリ・ベネット首相が率いる現在の政権は8つの政党が連立を組むという異例の形になっており、61〜59議席というごく僅かの過半数しか確保しておらず、思想的な共通性や統一性はほとんど、あるいは全くない。

従って政権の存在は小さな、あるいは小さいとさえ言えない奇跡に他ならないと考えなければならない。それには理由がある。言うなればネタニヤフ氏こそが理由である。現在の政権が発足した日、ネタニヤフ氏は復帰を約束した。何が政権をまとめる力になっているかと言えば、野党を率いる前首相が何らかの形でその約束を果たしてしまうのではないかという深い懸念である。その約束によって、ネタニヤフ氏は現在の政権をまとめる接着剤になっているのだ。

ネタニヤフ氏にとっても他の多くの人々にとっても意外なことに、現在の政権は予想以上にうまく機能しており、イスラエルの政治舞台の至るところに散りばめられている地雷を避ける方法を見出している。ネタニヤフ氏が周辺にいる限り、この連立政権のメンバーは自分たち同士の違いを乗り越えようという意欲を持つことができる。意見の不一致を解決しないまま取り繕う必要性を常に抱えているのではあるが。イスラエルでは予算審議が政府に対する信任投票の性質を持っており、連立内の全派閥を満足させるには政治的駆け引きの名人芸が求められる。それが先週可決したということは政権の弾力性を示すものであり、少なくとも今のところは、イスラエルが真にポスト・ネタニヤフ時代に入ったことの兆候である。

ネタニヤフ氏は政治キャリアの黄昏時にいる。同時に、汚職裁判で有罪判決を受けて投獄される可能性から逃れようと足掻いている。

ヨシ・メケルバーグ

その日の終わり、ネタニヤフ氏は予算の件にはほとんど興味を持っていなかった。予算は良い統治には不可欠の道具なのだが、氏は政権を不安定にすることの方に関心を寄せていた。ネタニヤフ氏の世界では何もかも自分を中心に回っており、現在の連立政権はベネット氏がネタニヤフ氏の支持者を騙して結成されたことになっている。詐欺、収賄、背任という3件の裁判の被告となっている本人によれば、支持者らは現在の首相であるベネット氏がネタニヤフ氏と共に連立を組むだろうと信じてベネット氏に投票したのだと言う。

現実はこうである。ネタニヤフ氏は予算案の可決を避けることで長年に渡って自分の地位を乱用していたのだ。それにより支配力を得て、連立パートナーが自分に依存するよう仕向けていたのである。ネタニヤフ氏は自分の権勢を長引かせるために政治システムを操作することにかけては膨大な経験があり、権力から、特に予算の担当から外されれば自分の立場が弱まることを、おそらく誰よりも理解していることだろう。そしてイスラエルの運転席から遠ざけられている期間が長引けば長引くほど、こうした情勢が正常化していくということを。

ネタニヤフ氏は政治キャリアの黄昏時にいる。同時に、汚職裁判で有罪判決を受けて投獄される可能性から逃れようと足掻いている。ネタニヤフ氏のわざとらしい言動は哀れなものとなっているが、イスラエルの脆弱で不安定な土台そのものを弱体化させようとし続けてきた人物に同情するのは難しい。ネタニヤフ氏は引き続き首相と呼ばれることを求めているが、米国とは違って、イスラエルでは前首相やその他の高官経験者は辞任すれば肩書きを失うことになっている。ネタニヤフ氏は民主的に選ばれてクネセトの支持を得ている政府を悪質に煽動し、その正統性に異議を唱え続けている。これは、その後暗殺されたイツハク・ラビン首相を攻撃した手法と類似している。イツハク・ラビン氏の唯一の「罪」はパレスチナとの和平の道に乗り出したことである。

それだけではない。ネタニヤフ氏の活動に関する警察の捜査は5年間に渡る緻密なものであり、起訴に至る前に検察庁によって丹念に検証されたにもかかわらず、ネタニヤフ氏とその政治グループはイスラエルの法執行機関をしつこく追い回している。彼の政治グループの者たちはネタニヤフ氏がいなければ自分たちの政治的未来がないことを分かっているからだ。彼らは法律制度を脅し、司法を確実に遂行するという役割から遠ざけ、出来ればネタニヤフ氏の裁判も一緒に放棄させようとしているのである。

イスラエル政界の不思議な方法で、ネタニヤフ氏は連立政権の最高の財産となっている。ネタニヤフ氏がリクードの党首を長く続けるほど、首相の役割をナフタリ・ベネット氏からヤイール・ラピード氏へ任期の途中で交代しつつ、政府が任期を満了できる可能性が高くなる。前回の選挙後、政治思想やリクードの将来的な政権復帰に関して純粋な想いを持って退陣したのであれば、ネタニヤフ氏は直ちに政界を去り、別の人物に指導者の座を譲っていた筈である。しかしそれはネタニヤフ氏の性格には合わない。ネタニヤフ氏は自分以外の誰も自分の能力に見合う者はおらず、後任に相応しくないと考えているのだ。しかし、既に党内に対抗馬が1人いる。前クネセト議長ユーリ・エーデルシュタイン氏である。エーデルシュタイン氏がリクードにおけるネタニヤフ氏の指導力に異議を唱えているのだ。党内に次のような懸念がある。自分たちのリーダーに異議を唱えるのを遅らせれば遅らせるほど、リクードはもはや国家を運営できないという事が常識になっていくのではないか、その結果、野党の立場に長く閉じ込められることになるのではないか。こうした懸念が、組織の内部でネタニヤフ氏の反対派を促進することになるだろう。

予算案の可決が、こうした軌道の第一歩となった。これがネタニヤフ氏の凋落となる可能性がある。ネタニヤフ氏が自分自身の中に品位と高潔さの痕跡を見出すことがなければ(おそらく見出すことはないだろうが)、氏を辞めさせたがっている人々が彼を追い出すだろう。もしくはネタニヤフ氏は徐々に影の薄い存在になっていくことだろう。しかもリクードの多くの党員が、裁判で有罪になる前にネタニヤフ氏に辞めてもらいたがっている。党の評判にこれ以上傷をつけたくないのである。ネタニヤフ氏がこれを認めているか否かにかかわらず、氏が政界から立ち去る時を告げる時計の針の音は、ますます大きく早くなっている。

  • ヨシ・メケルバーグ氏は国際関係学の教授であり、チャタムハウスの中東・北アフリカプログラムのアソシエイトフェローである。国際的な紙媒体や電子メディアに定期的に寄稿している。ツイッター:@YMekelberg
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