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レバノンの「放火魔」がアラブ世界に火種をまく

ハッサン・ナスラッラー師の演説は、ガーセム・ソレイマニとアブ・マフディ・アルムハンディスという大物テロリストへの祝賀の言葉から始まった。(AFP)
ハッサン・ナスラッラー師の演説は、ガーセム・ソレイマニとアブ・マフディ・アルムハンディスという大物テロリストへの祝賀の言葉から始まった。(AFP)
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07 Jan 2022 08:01:58 GMT9
バリア・アラマディン
07 Jan 2022 08:01:58 GMT9

もしレバノンが、絶望に満ち、飢えにあえぐ難民たちを詰め込んで大洋を横断する、脆い沈みゆく船だとしたら、ハッサン・ナスラッラー師は、航海の途中で船体に穴を開け、全員を海の底に連れて行こうと狂奔する精神を病んだ斧使い、ということになろう。

過去2年間のレバノンの着実な衰退は、レバノンをアラブ世界の生命維持装置から暴力的に切り離そうとしてきたヒズボラの努力の成果である。レバノンはアラブ諸国の中で最もアラブ的な国である。レバノンの文化なくしてアラブの文化はありえない。レバノンの教育、文学、医療、音楽、金融、科学のイノベーションは、アラブ世界の発展に大きく貢献してきた。しかし同様に、アラブの文脈がそこになければ、レバノンは何者でもない。

彼の最新の演説でも本性は隠しきれていない。ナスラッラー師は自らのスピーチが引き起こす、憤怒の感情について嬉々として言及する。この計算ずくの妨害者は、自分が何をしているのか、そして自分が与えるであろう、甚大な損害を正確に知っているのだ。

彼の演説は、ガーセム・ソレイマニとアブ・マフディ・アルムハンディスという大物テロリストへの祝賀の言葉から始まり、数十万人のシリア人を大量に虐殺した責任はなぜアメリカにあるのか、という苦しい論理を展開した。会場の最前列には、白髪交じりのヒズボラ司令官たちがいた。彼らはこう考えていたに違いない。「おい、俺たちの手柄についても話してくれよ」

そして、彼は汗だくになって怒りをぶちまけた。「あなた方の本当の敵、本当の独裁者……侵略の首謀者、占領の原因、我々の世界の腐敗と抑圧の連鎖を生み出す者、それはアメリカだ。彼らは敵なのだから、敵のように扱うべきだ」

では、アメリカ人をどうすればいいのか?彼は続ける。「彼らを攻撃し、彼らと戦い、あらゆる手段で彼らと闘う」と。これは明らかにテロリズムを求めるものではないだろうか。しかしそうではないようだ。なぜなら、この「サタンの盟約者たち(Hezb Al-Shaitan)」のリーダーは、その後、拳を振りかざして、本当のテロリストは誰かと聴衆に向かって叫び始めたからだ。

ナスラッラー師の演説により、レバノンの通貨価値は直ちに暴落。レバノン市民はそれを聞き、悲しみに暮れた。

バリア・アラマディン

彼は湾岸諸国に向けて、こう叫んだのだ。「テロリストは、レバノンのすべての反体制派と内戦のスポンサーであり、それはあなたたちなのだ」。これには湾岸協力会議(GCC)加盟国も驚いたに違いない。GCCは近年、レバノンの政治的泥沼から積極的に距離を置いていたからだ。

ナスラッラー師がダーイシュとサウジアラビアを結びつけようとする幼稚な試みは、サウジアラビアの国民がどれほどテロリズムに苦しめられてきたかを考えると非常に不愉快である。特に、1996年に起きたアル・コバールでの残忍なテロリストによる爆破事件は、イランとヒズボラが行った数多くのテロ活動の1つである。

しかし、ナスラッラー師の演説の中で最も「火種をまいた」のは、地域全体に存在するスンニ派とシーア派の断層を引き裂こうとする彼の計算された努力であった。それは「我々」対「彼ら」、「レジスタンス」対「紛争、テロ、過激な活動をしていない穏健な国家」、といった論理だ。

ナスラッラー師の演説により、レバノンの通貨価値は直ちに暴落。レバノンのビジネスマン、労働者、農民はそれを聞き、悲しみに暮れた。ヒズボラが麻薬の密輸に利用したとして湾岸諸国がレバノンの輸出をボイコットした後も、彼らは経済的苦痛に耐え続けている。彼らは、取るに足らない元情報大臣がイエメンについて馬鹿げたコメントをした結果を経験したが、それはナスラッラー師の巧みなレトリックを用いた火炎瓶に比べれば1000分の1の攻撃力もない。

レバノンの経済的破綻は、ヒズボラとその同盟国が国家に対する支配力を放棄せず、援助者や技術者が救済に乗り出すことを拒んでいるため、100倍も悪化している。湾岸諸国で働く何十万人ものレバノン人労働者は、これらの国家関係が崩壊した場合の影響を恐れている。ナスラッラー師は、彼ら国外の労働者が湾岸諸国の「人質」になっていると表現しているが、レバノンがテヘランの敵対的なアジェンダの人質になっているという痛烈な皮肉を無視しているとしか思えない。

国外で働く彼らは、内戦後の数年間、数十億ドルの送金によってレバノンの復興を促進したプロフェッショナル達である。また、ヒズボラのリーダーが「テロリスト」と繰り返し非難した湾岸諸国もまた、レバノンに対し数え切れない何十億ドルもの無償の寄付を行ってきた。

ナスラッラー師は関係の修復の呼びかけとは程遠い、ここ数年で最も排他的で暴力的な演説を行った。おそらく、10月にベイルートで起きた派閥争いに続いて行われた演説と同じくらい無謀な演説である。その時彼は、10万人のヒズボラ戦士を派遣してライバルと対決すると脅した。

ナスラッラー師がレバノンを破壊し、この地域を戦争に巻き込みたいのであれば、このような演説はまさにそのために必要なものである。長年の盟友であるナジーブ・ミカティ首相も、ナスラッラー師の「セクト主義的」「無用な極論」を糾弾する声明を即座に発表した。また、他の国のあらゆる著名人からも非難の声が上がった。演説は1時間に渡り、嘘そして嘘、さらに怒りに満ちた悪質な嘘の嵐だった。

ナスラッラー師は、ヒズボラとその同盟国が決定的に票を失うことになる、民主的な選挙を恐れている。それゆえ、彼の取り巻きであるミシェル・アウン大統領とジブラーン·バシール氏は、すでに投票を5月まで延期することに成功している。選挙が完全に廃止されるのを見るまで、彼らは休むことはないだろう。ナスラッラー師の演説は、ヒズボラがこの計画の継続に貢献したものである。選挙が不可能になるほどレバノンを混乱に陥れようとしているのだ。

ナスラッラー師の準軍事的な同盟者がイラクで達成しようとしたように、ヒズボラは湾岸諸国との対立の雰囲気を作り出し、投資、関与、貿易のすべての見通しを絶ち、レバノン、シリア、イラクがテヘランの衛星として徹底的に食い尽くされるようにしようとしている。

ナスラッラー師の、サウジアラビアの君主に対する恥知らずな個人攻撃が最も顕著な例である。湾岸諸国、アラブ諸国、イスラム諸国は、このような邪悪な攻撃に直面した場合、サウジアラビアとその指導者の周りに情熱的に結集することを知っているからだ。

おそらくナスラッラー師は、彼の組織がイスラエルに無人航空機を突入させ大火事を引き起こしかねなかったこと、あるいは、ヒズボラに訓練されたフーシ派組織が、医療機器を積んだGCCの船をハイジャックしたことを知り、動揺もあったのだろう。米国がシリアのヒズボラ関連のロケット拠点に空爆を行い、イラン核合意の復活に向けた協議が茶番劇になりかけている中、地域全体が危機に瀕している。一歩間違えれば、大惨事になるだろう。これらの臆病者はアメリカを直接攻撃することを恐れているため、ナスラッラー師とイランの最高指導者アリ・ハメネイは、無防備なレバノンを徹底的に拷問することでイラン革命防衛隊のソレイマニ司令官暗殺の復讐をしているのだ。

神の使いとされる人物によるこの爆弾投下に等しい演説は、単に無謀なだけではなく、平和的な選挙、経済的な再生、近隣諸国との健全な関係を、自らの派閥的な利益に反するものと見なし、それゆえに紛争と混沌を熱狂的に受け入れる人物が生み出したものであった。もしレバノンに機能的な国家があれば、ナスラッラー師は当然、この非国民的な反逆行為とレバノンの主権、そして安全、平和的共存、繁栄に対する市民の権利に対する理不尽な妨害行為に対して裁判を受けることになるだろう。

この計算された、サイコパス的な演説が行われた今、国家と地域を奈落の底に突き落される前に、この男とその一派、そしてイランの雇い主を牽制し、拒絶することは、愛国心のあるレバノン市民の国民的義務である。

・バリア・アラムディン氏は受賞歴のあるジャーナリストで、中東および英国のニュースキャスターである。彼女は『メディア・サービス・シンジケート』の編集者であり、多くの国家元首のインタビューを行ってきた。

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