サウジアラムコの現在の精製能力は、国内外の製油所を合わせて日量約540万バレルである。これは、米国の日量1800万バレル、中国の日量1700万バレル、ロシアの日量670万バレルに次ぐ世界第4位の精製能力であり、日量500万バレルの精製能力を有するインドをしのぐ。
アラムコがポーランドのロトス社のグダニスク製油所の30%の株式を購入するというニュースは、アラムコがロシアの裏庭に足を踏み入れたという指摘もあり、OPECプラス加盟国間の供給競争の火種となる可能性もあった。
なぜアラムコは欧州の精製部門に戻るのか?
今回の取引により、アラムコは、2005年にギリシャの精製会社モーターオイル・ヘラスの株式50%を売却して以来、再び欧州の精製業界に戻ることになる。しかし、バルト海の石油精製品市場は、ロシアや米国からの原油や石油精製品の輸入増加に関わらず、大きな潜在力を秘めている。
ロトス製油所への30%出資は、ポーランド北部でのアラムコの地位を強化するとともに、バルト海地域や中欧への原油供給をリトアニアやチェコ、あるいはさらに広い地域の製油所へと分散させることになる。
市場関係者の中には、東欧の多くの製油所は、ロシアのウラル原油を主に扱う製油所構成になっていると主張する人もいる。ウラル原油は硫黄含有量が約1.5%のサワー原油で、アラビアンライト原油に近いスペックである。
しかし、より重要なのは、ポーランドの製油所では、ロシアのウラル、北海、米国、西アフリカからのスポット供給の原油の処理に加え、アラムコの製油所買収のニュースが流れる以前からアラビアンライト原油の処理が行われていたことである。
アラムコは欧州・バルト海市場での存在感を高め、ポーランドの製油所はエネルギー安全保障のために原油供給を多様化させる、互恵的パートナーシップである。
アラムコからポーランド製油所への原油供給が日量40万バレルに達したとしても、同国の原油需要の半分近くに相当し、残りの半分はロシアを含むスポット市場の供給業者が供給することになる。
したがって、一部のメディアが指摘するような供給競争は問題にならないだろう。5年前にOPECプラスが始まって以来、メディアが競争を助長しようが、世界の石油市場は膨大な供給量を必要としているため、OPECプラス加盟国間の競争は問題にはならないと考えられる。
近年、欧州の精製能力が85の稼働製油所からの日量1450万バレルに減少しているため、欧州への原油供給ではなく、石油精製品の供給で競争が起きる。
ファイサル・ファエク
また、ロシアのエスポ原油がアジア太平洋地域にパイプラインで大量に輸出されるようになった際も競争は激化せず、サウジアラビアは長年にわたってアジアの主要製油所のトップ供給国であり続けている。
近年、欧州の精製能力が85の稼働製油所からの日量1450万バレルに減少しているため、欧州への原油供給ではなく、石油精製品の供給で競争が起きる。
これはEU全体の石油精製品需要の日量約1350万バレルとほぼ一致するが、具体的な需要は石油製品や国、地域によって大きく異なっている。このため、アラムコとその貿易部門アラムコ・トレーディングが効果的に処理できる構造的な貿易フローによって、これらのミスマッチを緩和しなければ、大きな不均衡を生む可能性がある。
欧州の精製部門は、製油所が国際競争と欧州内での環境審査にさらされ、競争に直面している。そのため、石油の流れや、新しいパイプライン網、貯蔵施設、新しいターミナルなどのさらなる石油インフラ投資が妨げられる可能性がある。これが、この地域の精製マージンを圧迫することはまだないだろう。
競合する精製品の輸入が増加することで、製品輸入の割合増加が、欧州の精製部門にどのような広範な影響を与えうるかという疑問が生まれる。
アラムコが韓国のエスオイル製油所や米国最大のテキサス州ポートアーサー製油所で行ったような、大規模かつ成功裏の拡大を見てきた国際的な精製やジョイントベンチャーに、何十年もの下流部門での成功を取り入れるために、欧州精製業界におけるアラムコの存在にとってその下流部門での影響力が必要な時だ。
またこれは、欧州の精製所がこのパートナーシップを利用し、精製部門における現在および今後の課題を克服する上でも役立つだろう。