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入植者のパレスチナ人に対するテロ行為は時限爆弾だ

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27 Jan 2022 08:01:50 GMT9
27 Jan 2022 08:01:50 GMT9

入植者たちは「人間のクズ」や「テロリスト」呼ばわりされ、その行為は「テロ組織」と変わらないと評されている。非難を浴びているのは占領下のヨルダン川西岸地区に住む過激派ユダヤ人入植者たちで、レッテル貼りをしたのはパレスチナ人ではなく、元陸軍将校を含むイスラエルの大物たちだ。

先週、入植者たちがパレスチナのブリン村付近を攻撃し、イスラエルの人権活動家7名が負傷した。人権活動家たちが現地にいたのは、以前ユダヤ人入植者から果樹園を破壊されたパレスチナ人農民に対する連帯を示すためだった。イスラエルの報道によると、覆面をした襲撃犯約15名は付近にある違法開拓地「ギヴァト・ロネン」から現れたという。襲撃犯たちは人権活動家に襲い掛かり、投石し、車両の1台に火を付けた。犯人たちはイスラエル軍の到着前に現場から逃走した。

襲撃の様子を撮影した動画はネット上で拡散されたが、この事件は決して珍しい出来事ではない。年を追うごとに、過激派入植者たちの不運なパレスチナ人村民に対する攻撃は激しさと挑発の度合いを増してきている。オリーブの木を引き抜き、車に火を放ち、パレスチナ人の子供たちに襲い掛かり、家に放火し、つい最近では落ち度のない歩行者を車ではね飛ばした。

こういった襲撃事件がパレスチナ人村民にとって日常と化したため、国際社会は見て見ぬふりをするようになった。一方でイスラエル側の有力者が、入植者の行為により国家のイメージが毀損され、イスラエル社会そのものが危険に晒されているとの警告を発する事例が、ここ最近増える傾向にある。卑劣な攻撃により、ヨルダン川西岸地区が「時限爆弾」と化しつつあり、事態が緊迫していると警告する声もある。

かつて軍の副司令官を務めていた退役将校のヤイール・ゴラン氏は、パレスチナ人を卑劣に襲撃する入植者たちを「人間のクズ」と表現した。現在はメレツ党の議員を務めるゴラン氏は、先週AP通信にこう語った。「政治家の言うことに有権者が耳を貸さなければ、自由で民主的な国家など存在しません」ゴラン氏は以前、イスラエルの雰囲気がナチス統治時代のドイツの雰囲気に近いと発言し、世論の反発を浴びたことがある。ゴラン氏は「現代のイスラエルには、ナチスドイツに類似したファシズム的傾向がみられる」と批判し、軍隊を辞めるに至った。

入植者が人権活動家を襲撃したことをゴラン氏が非難した際、イスラエルのオメル・バーレフ公安相も賛意を表した。バーレフ公安相は事件の様子を「テロ組織のやり口」と表現した。公安相はさらにこう述べた。「本件は明らかに組織的犯罪で、私から言わせればテロ組織の所業だ」公安相が入植者の行動を非難するのは今回が初めてではない。彼は最近、アラブ人ではなくイスラエル人から殺害予告を受けていると述べた。バーレフ公安相はイスラエルの右派から攻撃された。イスラエルを訪問したアメリカ政府高官にバーレフ公安相が「自分が問題解決に向け動いている。パレスチナ人に対する暴力事件は間違いなく現実のものだ」と語ったのを受け、アイェレット・シャクド内相はバーレフ公安相を「頭が回っていない」と評した。

ゴラン氏と同じく退役将校で、かつてイスラエル国防軍の参謀総長を務めていたガディ・エイゼンコット氏も今週警告を発した。ヨルダン川西岸地区ではハマスに対する共感と支援の声が高まっており、再び暴動が発生する可能性があるという。「暴動が起きるか否かではなく、そのタイミングと規模が問題なのです。間違いなく暴動は起きます。起こらない可能性はゼロです」とエイゼンコット氏はヘブライ語日刊紙「マアリヴ」の取材で語り「イスラエルにとり最悪な場所とタイミングで」暴動が起きると付け加えた。

こうした警告をすべて無視しているのが、右翼のナフタリ・ベネット首相だ。首相は先月、ヨルダン川西岸地区での入植者による暴力行為は「些細な出来事」と述べた。ベネット首相をはじめとしたイスラエルの極右政治家たちは、選挙のたびに過激派ユダヤ人入植者の票に対する依存度を強めている。こうした依存関係の始まりは、ベンヤミン・ネタニヤフ前首相だった。ネタニヤフ前首相は、入植者たちにヨルダン川西岸地区で好き放題やらせると公約したが、結局はベネット首相などの極右勢力との政争に敗れた。

しかし、パレスチナ人に対する暴力事件は著しく増加しており、アラブ人を狙った誘拐・実弾使用・ひき逃げ事件も増えている。イスラエルの人権団体「ベツェレム」によると、2021年には入植者による暴力事件が前年比で28.6%増加したという。こうした暴力事件の記録を取っている別な人権団体「イェシュ・ディン」には、2018年から2021年にかけて入植者による襲撃事件の報告が540件寄せられた。イスラエル紙「ハアレツ」によると、パレスチナ人はこうした襲撃事件のうち238件を警察に通報したが、起訴に至ったのはわずか12〜15%にとどまったという。

いずれかの時点で、暴動は必ず起きる。危機発生によりイスラエルは国内・中東全体・国際社会から圧力を受けることとなる。

オサマ・アル・シャリフ

襲撃拠点のほとんどは、イスラエルで無許可または違法開拓地と呼ばれる、政府の認可を受けていない入植地だ。入植者たちはほぼ毎日、パレスチナ人住民に対する脅迫作戦を実行している。パレスチナ人の牛を殺し、窓に銃弾を浴びせ、オリーブの木を引き抜いているのだ。

こうした行為が続くと、ヨルダン川西岸地区内部で怒りの声が高まっていく。1つでも大事件が起きると、占領地全体で火の手が上がるだろう。一方でイスラエル政府は、国際法を無視した違法住宅の建築許可件数を増やし続けている。

ユダヤ人入植者によるこうしたテロ行為により、右傾化が進むイスラエル社会では引き続き分断が進み、パレスチナ人との平和的共存を支持する動きは弱まっていくとみられる。いずれかの時点で、暴動は必ず起きる。危機発生によりイスラエルは国内・中東全体・国際社会から圧力を受けることとなる。ベネット首相は、ヨルダン川西岸地区で作動中の時限爆弾を警戒せねばならない。

  • オサマ・アル・シャリフ氏は、アンマンを拠点に活動するジャーナリスト兼政治評論家。Twitter: @plato010
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