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パキスタンの動向についてイラン政権はどう捉えているのか

2019年4月21日、テヘランでイランのハサン・ロウハーニー大統領と会談するパキスタンのイムラン・カーン首相。(ツイッター・写真)
2019年4月21日、テヘランでイランのハサン・ロウハーニー大統領と会談するパキスタンのイムラン・カーン首相。(ツイッター・写真)
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19 Apr 2022 06:04:29 GMT9

この数週間、パキスタンをめぐる情勢は、イムラン・カーン首相が大統領に議会の解散を申請し、同氏の不信任決議案を提出しようとするライバルの試みを防いだことを皮切りに、加速度的に大きく動いている。その後、最高裁は議会の解散を違憲と判断、解散は無効となった。結果、国会は大荒れとなり、カーン政権の信任撤回が多数決で決定、イムラン・カーン氏は同国の歴史上初めて、不信任決議によって退陣を余儀なくされた首相となった。先週月曜日、国会はカーン氏の後任としてムスリム同盟党首のシャバズ・シャリフ氏を首相に選出した。

イランとパキスタンの関係は、カーン政権下において、特に政治・安全保障面で顕著な改善が見られ、経済・商業面でも両国は関係強化に努めてきた。イランは東方への転換、ロシアや中国との関係強化、イランの敵対国や地域のライバルとの距離を置くことに重点を置いたカーン氏のアプローチを歓迎した。しかし、今回の政治危機が始まって以来、イラン政権は激しい発言を避け、東の隣国の動向には慎重な立場をとっている。

イラン外務省のサイード・ハティブザデ報道官は当初、パキスタンでの出来事を注視していると発表、パキスタンの議会制度の下、同国は完全に正常であると主張した。同報道官は、事件の背後にいる外国組織を非難するというイランの慣例的な反応は避けた。イランはパキスタンの法律に規定された民主的・法的メカニズムを尊重し、「パキスタンの国会議員の選択を信頼し、尊重する」と続けた。

また、イラン政府高官は、イランとパキスタンの関係はいかなる政治的変化にもかかわらず継続するとの確信を示した。この宣言は、カーン氏よりも欧米やイランの敵に近い人物がパキスタンの政権に就いたにもかかわらず、パキスタンの対イラン外交政策に大きな変化はないというイラン指導部の認識を表している。両国の関係は、イムラン・カーン政権時代ほどには良好ではないが、懸念が発生するレベルまで悪化することはなく、最低のレベルに達することもないとイランは考えている。パキスタンのすべての政党が、政治、安全保障、地政学的なレベルにおけるパキスタンの利益は、イランとのバランスのとれた関係を維持することで保持されると認識していると捉えているからだ。彼らは、これらの関係が最悪のレベルにまで悪化することを許さないだろう。また、新首相が国内で直面する課題によって、自国の対イラン関係を根本的に変えることができなくなる可能性もある。イランの指導者はまた、パキスタン社会にかなりのシーア派少数派が存在することが、パキスタン政府がテヘランに対して敵対的な立場をとることを思いとどまらせる有力な要因になると考えている。

しかし、こうした点にもかかわらず、パキスタンの最近の動向についてイランに不安がないわけではない。実際、イランのメディアや一部の政治アナリストは懸念を表明しているが、政権は彼らの見通しを受け入れるには至っていない。その懸念の中心は次のような点である。第一に、タリバンに関する懸念である。イランは、タリバンをアフガニスタン近隣諸国の脅威としようとした米国の企てを、カーン氏が中国やイランと協力することで頓挫させたと考えている。イランに近い政治アナリストは、カーン氏失脚の背後には米国がいると主張し、シャリフ氏は米国の地域に対する計画を実行するために連れてこられたと主張している。これらのアナリストは、イランにおけるアフガン難民に対する残忍な弾圧への抗議としてカブールのイラン大使館とヘラートのイラン領事館が最近襲撃されたことについて、次のように指摘している。「これは、イランとアフガンの人々の間に不和をもたらすためにワシントンが支援した試みである。この動きは特に、以前アフガニスタンで働いていたイラン在住のシーア派聖職者3人が、パキスタン経由でイランに入ってきたというアフガニスタンの若者によって刺された後に顕著になった」。また、これらの事件が新首相の就任時期と重なることから、単なる恣意的な攻撃ではないとも主張している。

第二に、人民連帯党、通称ヘマートの元秘書長アフマド・ナバビ氏の主張である。同氏はタリバンをイランにとって最も深刻な潜在的脅威とし、同組織は承認を得る見返りに、イランに対する西側の陰謀に加担する準備ができている可能性があるとしている。彼は、パキスタンで起きたことは半民主的なクーデターであり、新首相はワシントンによる操り人形であると述べた。

第三に、イランとパキスタンの国境における治安の混乱の懸念だ。イラン議会のある議員は、議会の外交政策や国家安全保障委員会がこれまで安全保障問題でイランと協力してきたカーン氏を賞賛してきたことに照らして、この可能性を懸念している。同氏によれば、カーン政権下で過激派グループの活動は大幅に制限され、パキスタン国境地帯に検問所が設置されたことで、イランの前哨基地や国境地点への攻撃は大幅に減少したという。実際、イランはパキスタンの指導者の交代により、同国との安全保障上の連携が低下し、過激派による国境前哨基地への攻撃が誘発されることを懸念している。

イランは、サウジアラビアとパキスタンの関係が新首相の下で進展することを懸念している。

モハメド・アル・スラミ博士

そして最後は、イスラエルに対する懸念である。新首相とアラビア湾岸諸国との密接な関係により、パキスタンとイスラエルの和解と両国の関係正常化が進み、それによって中東に隣接する別の国にイスラエルの足場ができるのではないかという懸念がイランにはある。カーン氏は2021年11月13日、一部の国がパキスタンに対し、イスラエルを公式に承認するよう圧力をかけてきたと主張した。イランはまた、サウジアラビアとパキスタンの関係が新首相の下で進展することを懸念している。カーン氏が首相だった時代、両国は多くの点で意見の相違があり、関係は緊張を伴っていた。

イランのメディアは外交的な論調を維持している。しかし、パキスタンの新首相が議会での就任演説で、イランを含むさまざまな国との関係強化に努めるとのコメントを発表したことは歓迎している。また、シャリフ氏は、新政権がイランとの商業協力の拡大など、兄弟関係の拡大を支持すると述べた。それでも国営イラン通信(IRNA)は、パキスタンの次の選挙でカーン氏が勝利することへの期待をほのめかしている。

イランとパキスタンは隣国であり、いくつかの共通点がある。しかし両国の関係レベルは、パキスタン指導部の方向性と、イランとバランスのとれた関係を築きながらも、地域および国際的なすべての同盟国の利益を考慮しなければならないという同国の政治・経済の複雑な計算によって決まるといえるだろう。

  • モハメド・アル・スラミ博士は、国際イラン研究所(Rasanah)所長。ツイッター:@mohalsulami
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