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アラブ世界の気候変動対策 最重要課題は水の確保

2022年5月20日、イラクのディヤラ州にある、水の枯れたハムリン湖に沿って歩く羊飼いの少年と羊の群れ。(AFP)
2022年5月20日、イラクのディヤラ州にある、水の枯れたハムリン湖に沿って歩く羊飼いの少年と羊の群れ。(AFP)
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22 May 2022 11:05:43 GMT9
22 May 2022 11:05:43 GMT9

中東・北アフリカ(MENA)地域は、今年のシャルム・エル・シェイク(エジプト)、2023年のアブダビ(UAE)と、連続して次期気候サミットの開催地となる予定である。このことは、アラブ地域が、これまで地球が共有してきた最大の脅威である気候変動に立ち向かう上で、極めて重要な役割を担っていることを示している。

一連の活動や世界的な努力により、現在、および将来の公約を超えた、より大胆で包括的な気候変動対策を求める声が高まっている。結局のところ、気候科学者は今後数十年の間に世界の気温は産業革命以前と比べて3度上昇すると警告している。これは、各国が共有する理想を、有意義で持続可能な気候変動対策に転換することに常に失敗している、威勢のよいサミットに対する鋭い反撃となっている。

2年連続の気候サミット開催自体は、アラブ地域が直面する気候変動関連の重大なリスクを強調する貴重な機会であり、歓迎すべきことである。特に深刻問題は、水不足が長期化することであり、これはほとんど避けられない。

アラブ世界の専門家や指導者の大多数が、水の不安はおそらくMENA地域にとって最大の脅威であり、これは若者の失業や政情不安よりも深刻であるという認識で一致している。

この地域における人口の3分の2近くが水不足の深刻な地域に住んでいる。そして、MENAの国内総生産(GDP)の4分の3近くがこの地域で生み出されているのだ。世界的に見ても、これは驚くべき統計となる。地域人口の3分の1強が水ストレスの高い、あるいは非常に高い地域に住んでおり、これらの地域が生み出すGDPは22%に上る。

さらに、地球が温暖化すると、この地域特有の水・食料・エネルギーの結びつきが新たな複雑性をもたらす。地域は、干ばつや洪水の激化、水質の悪化、紛争、脆弱性、越境的な水管理といったリスクに、すでにさらされている。

気候科学者や政策立案者、政府にとってより大きな関心事は、気候に関連した影響がすでに固定化され、それゆえ避けることができないものであることだ。それは特に、この地域の乾燥地帯で食糧と水の安全保障に密接に関連する問題である。

アラブ諸国の政府は、少なくとも水の安全保障を強化するための重要な第一歩を踏み出すのに遅すぎるということはないだろう。

ハフェド・アル・グウェル

この地域では、水はこれまでも、そしてこれからも、同地域が抱える膨大な炭化水素資源と同じくらいに、リスクとチャンスの源泉であり続ける。何世紀もの間、希少な水資源を比較的効果的に管理することは、この地域の成長、発展、洗練化に指数関数的に貢献してきた。またこの地域は、環境、政治、社会、経済が絶えず変化する中で水不足にどのように対処すべきかの原理原則を、国レベルに限定されるとはいえ、その歴史の中で作り上げている。

しかし、今日のアラブ世界は大きく様変わりしている。急速に拡大する都市や郊外のコミュニティは、年率約2%で増加する人口に追いつくのに必死である。今世紀半ばには、都市部の人口だけでも4億人を超えるとも言われている。これは、ただでさえ少ない水資源に莫大な負担を強いることになる。

現在、消費量の大幅な増加と、このような貴重な資源を管理するための脆弱で効果のない――あるいは存在しない――枠組みが相まって、地域の数少ない水源の急激かつ前例のない枯渇を招いている。現在、アラブ地域の一部における水危機は、居住地域間での衝突を生み、あるいは悪化させ、場合によっては、減少しつつある越境水源へのアクセスを最大化しようとする国家間の、国境を越えた緊張を激化させている。

事態は悪化の一途をたどるだろう。地球上の河川流域は表面積の急速な減少に直面しており、地下水源は降水量による補充を上回る速度で枯渇している。すでに水不足に陥っている地域では、気温上昇と人口増加、天然資源への過度な依存が相まって、脆弱性が拡大し、人々が難民化するという悪循環が急速に進行している。

MENA地域は間違いなく、温暖化する地球がいかに早く危機を増幅・拡大させ、安定、平和、安全保障に重大な影響を与えるかをすでに示している。さらに悪いことに、気候変動に対する世界的な不作為がある。これは、気候変動の悪化に対処しなければならない将来の世代に負担を先送りするだけであり、彼らが問題に対処するために利用できる資源は、その時にははるかに少なくなっているのだ。

幸いなことに、一部の専門家によれば、行動を起こしてこれらの暗い未来像を逆転させ、アラブ世界の食糧と水の安全保障の不足を解消する好循環を生み出すのには、遅すぎるということはないという。過去の教訓と世界中に存在する革新的な技術は、評価と配分のメカニズムを改善するための最善の方法に関する豊富な知識を提供し、希少な水資源をより生産的に利用することにつながる。水不足の制約を克服することは、気候変動に関する打撃に対する地域の耐性を高め、その他の長期的な危機により、有害な波及効果を緩和することに貢献するのだ。

その他の介入策としては、気候変動への適応分野に対する投資レベルを高めることがある。この地域が避けられない事態を乗り切ることを助けるだけでなく、有害排出物のレベルを下げるための、切望される移行措置のコストを削減することがその効果として挙げられる。自然に基づく解決策への投資は、水資源を保護するだけでなく、経済的な損失を補い、雇用を創出するだろう。

例として、国連は、森林地帯やマングローブの回復や保護に1ドル費やすごとに、7〜30ドルの利益がもたらされ、同時に、2050年までには世界中で年間5000億ドルの気候変動関連の損失を防ぐと推定している。さらに、このような自然ベースのソリューションの実施に1000万ドルから4000万ドルを投資するごとに、化石燃料への投資と比較して10倍以上の雇用創出率が得られるという。

残念ながら、この深刻な水不足の時代にあって、持続可能で効率的かつ公平な資源管理の利点は明らかであるにもかかわらず、アラブ諸国の政府にとって、水へのアクセスと水質の改善は優先順位が低いままである。徹底的な調査に裏打ちされた批判的な警告や、無策がもたらす目に見える結果は、指導者や政策立案者から、意味のある反応を引き出すには至っていない。

典型的な例として、現代のアラブ社会の意思決定と政策決定層は、危機が発生したときにのみ反応するようにできている。これは、潜在的に転移し、有害な影響をさらに増幅する可能性のある周知のリスクを先取りするために行動を起こすのとは対照的である。

今のところ、アラブ諸国の政府は、干ばつや洪水などの水関連リスクをほとんど軽減できない断片的な介入によって欠乏に対処するだけである。しかし、少なくとも水の安全保障を強化するための重要な第一歩を踏み出すのに遅すぎるということはないだろう。

今後、「新しい」解決策には、水の管理、保全、配分の変革を促す明確なインセンティブが必要である。さらに、市民社会と若者との関わりを強化し、長期的な水の安全保障の強化を目指した、前向きな取り組みへの支持を呼び起こすことが必要となるだろう。

このような先見性と決意がなければ、この地域は水不足という課題とともに、市民の福利、政治的安定、経済の回復力への悪影響が増幅されるという危険性を抱えることになる。

ハフェド・アル・グウェル氏は、ジョンズホプキンス大学高等国際関係大学院の外交政策研究所のシニアフェローである。Twitter: @HafedAlGhwell

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