イランの現体制とイスラエルとの間では目下、いくつか相互に絡み合った衝突が起きつつある。ひとつは、シリアなどで起きている代理戦争の高まりだ。この地域でイランはその軍事的プレゼンスを拡大しようと試みており、他方でイスラエルはイラン政府が国外に設けた戦略拠点への攻撃を激化させている。イランによる核開発計画がらみの問題は、いまひとつの重大な衝突だ。最新の事態が示唆するところでは、イスラエルがイランの核施設へいくつかの看過できない理由から軍事攻撃をしかける可能性が濃厚だ。
まず、イランと主要6か国(P5+1、国連常任理事国5か国とドイツ)の間でおこなわれている核協議は、1年以上もなんら前向きの結果を得ることもないまま引き伸ばされている。バイデン政権は成立直後から2015年の核合意の復活を楽観視していたが、イラン政府のほうは、無理筋の要求を突きつけたりさらに抜本的な譲歩を求めたり、合意をはばむハードルをいくつも作りつづけている。
イラン政府が新たに突きつけた要求では、たとえば核開発に関わる行動とは関連しない制裁については撤廃せよ、というものがある。米国務省はイランのイスラム革命防衛隊を海外テロ組織に指定しリストに入れているが、イラン政府はこれを除外せよというのだ。革命防衛隊は、中東一円でおこなってきた一連のテロ活動や民兵組織・テログループへの資金援助や供与を理由に2019年にリスト入りしている。
イスラエルはイランの核施設を標的にするだろうと考えるに足るもうひとつの問題。それは、イランの神権政治体制が挑発的なまでにその核開発計画を進めていることだ。主要6か国との協議をおこなっているその裏で、ウラン濃縮度を高め1,000台以上の遠心分離機の差配をおこなっているのだ。自国による核開発計画の抑制が主たる目的である国際的な交渉のテーブルにつきながら、一方では急ピッチでこうした動きを前へ進めているイラン政府。矛盾以外の何物でもない。つまるところ、イランは単に核開発を進めるための時間かせぎをしているにすぎないということではないか。
イランはもはや核兵器の実用段階にほぼいたっているものとみられる、という指摘は重要だ。もう数週間あれば核兵器に必要とされる物資を入手するものと考えられている。イスラエルのベニー・ガンツ国防相が今月発した警告は次のようなものだ。「先進的な遠心分離機の開発、研究、製造、そして稼動について、イランは刻一刻と不可逆的な知見と経験を積み増しているところだ。いま、イランが地域レベル、世界レベルでおこなっている挑発行為と渡り合うコストは一年前よりもつり上がっている。この一年でさらにつり上がる」
新たな核合意が成立したとしても、「神の国」イランを支配する宗教指導者の勝利ということになりそうだ。
マジード・ラフィーザーデ博士
米紙ニューヨークタイムズも昨年、イランはあと数週間で核武装にいたると認めている。昨年9月の記事にこうある。「イランはすでに核兵器1基ぶんに十分足りるだけの燃料を1カ月以内に調達できるところまで来ている。米国とその同盟国は2015年の核合意を復活させるうえで想定される取引条件を有利に引き上げたい考えだが、イランのほうが一歩先んじたためさらなる困難にまみえかねない」
イスラエルが懸念する第3の問題。それは、たとえ新たな核合意が成立したとしても、イランの支配層である宗教指導者の勝利ということになりそうだ、という点だ。合意によりイランに核兵器などは獲得させない、などということはありそうもないからだ。それにはこうしたわけがある。どうやら目下の協定案ではイラン政府はほぼ核兵器を入手できそうなあんばいだ。その理由は、協定の調印後たった2年でイランによる核開発計画についての規制は取り払われることになるからだ。またこの案では過去の核開発に関わる行動についてもイラン指導層に開示の義務を課さない。軍事的様相を帯びたものでありながら。
4番目。イランの核開発計画はそもそも平和的な目的を志向したものでは一切なかった、と認めるイランの指導階層が増えていること。たとえばアリー・モタハリー元首相が先月次のように述べている。「核開発をめぐって動き出した当初からわれわれの目標は核爆弾の製造と抑止力の強化であった。ところがこれについて機密を保持できなかった。偽善者の一団が秘密の報告書を開示したのだ」。
イラン政府が核開発計画を進める挑発行為を継続するなか、イスラエル側はもはや他者の手に委ねてはおられず、みずからイランの核施設を攻撃しイランの核兵器確保を未然に防ぐ挙に出る公算はますます大きくなっている。