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イラク人は自国が代理の戦場になるのを止めるべき

2019年12月31日、在イラク米国大使館から受け取った写真からは、首都バグダッドにある大使館の入口にある見張り小屋から煙が立ち上がっているのが分かる。(AFP)
2019年12月31日、在イラク米国大使館から受け取った写真からは、首都バグダッドにある大使館の入口にある見張り小屋から煙が立ち上がっているのが分かる。(AFP)
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01 Jan 2020 06:01:49 GMT9

イラクでは、イランを後ろ盾とする武装組織と米軍の間の武力紛争が高まっている。米国人1人が死亡し、米国人およびイラク人の負傷者が出たキルクークの軍事基地に対するロケット弾攻撃は、米国軍基地やバグダッドの米国大使館周辺を狙った攻撃に続くものだ。これまではけが人や死亡者がいなかったが、直近の攻撃では米国が宣言したレッドラインを越え、自国の人員を直接攻撃に晒すこととなった。

米軍はイラクとシリアにあるカタイブ・ヒズボラの関連施設5か所を狙った「精密な自衛的攻撃」を仕掛け、少なくとも25人の死亡者と51人の負傷者を出した。その結果、イランが支援する人民動員隊(PMF)はイラク人に向かって米国に対抗するよう促し、報復的軍事作戦を実行すると警告した。

1日にはグリーンゾーンにある米国大使館の外で抗議集会が開かれた。大使館の外柵には火がつけられ、デモ隊が敷地内に侵入しようとしたため、イラクの治安部隊が介入。PMFとカタイブ・ヒズボラの最高指導者らもデモに参加した。

なぜこのような展開になったのか。そしてこれらの状況は、どのようにして反政府デモ、政界エリートへの不満そしてイランによるイラクへの介入と関連しているのだろうか。支援する首相の指名を妨げたデモの継続を、イランが非常に懸念していることは明らかだ。

これらのデモは武装組織施設や、外交・領事拠点も破壊した。またイラクへの輸出にも影響が出ており、イランに対する影響力に深刻なダメージを与えている。米軍基地を攻撃することでイランはカードをシャッフルして2つの目的を果たそうとした。1つ目は、イランの敵は米国であり、デモはやめるべきであると国民を説得することで、イラン政府を悩ませているデモを終了させるようイラン支持派の政党に圧力をかけることだ。

2つ目の目的は米軍のイラク撤退に圧力をかけ、バグダッドの大使館を閉鎖させ、イラクの怒りを駆り立てて米国の反応を煽り立てることで、結果的にイラクをイランの軸に戻すというものだ。イランのKayhan紙編集長のホセイン・シャリアトマダリしは10月、イラク人に在バグダッド米国大使館を占領するよう呼びかけた。

この危機的状況がどのような方向に進むかを見極めるには、今後1週間におけるイラクでの動きを注視することが引き続き重要である。

モハメッド・アル=スラミ博士

米国は、イラク内における武力紛争の拡大について想定していたようだが、今回の攻撃、レッドラインを超えたこと、そして権力をないがしろにしたことを無視することは絶対にできない。米国防省のプレスリリースでは、PMFに対する長期的な攻撃が行われる可能性は低く、米軍の対応はPMFの今後の行動次第だということが強調された。そこには、米国の攻撃はヒズボラによるイラク基地への度重なる攻撃に対するものだと書かれており、PMFとの休戦を意味するものとなった。また、イランとイランが支持する武装組織は米国および連合軍への攻撃をやめ、米国からのさらなる自営的攻撃を避けるため、イラクの主権を尊重するべきだとも主張している。

このような理由から、このプロセスの唯一の犠牲者はイラクの市民運動だけとなる。イラク内のイラン支持派勢力は、特に大使館攻撃後にはカードをシャッフルできてしまうからだ。これをもとに、イラクはあらゆる圧力を行使して反イランデモ運動を終了させ、その理由をさらに大きな戦いに見せかけるだろう。

これらの動きはまた、与党の政界エリートやそれに近い選挙区からのPMFに対する同情心を生み出すことも考えられる。

同情キャンペーンはすでにソーシャルメディアで見られており、また、最も重要なのはアーディル・アブドゥル・マフディー元首相が米国の軍事作戦で亡くなった人々のため、3日間にわたり喪に服すことを宣言したことだ。

しかしながら、決定的となるのはナジャフ当局のスタンスだ。政治的レベルで見ると、攻撃は首相指名に関するイランの押し付けからはかけ離れた立場を取るよう政界エリートを促すだろう。もしイランはイラク内で以前のように完全に自由に動けないとイラクのリーダーたちが感じ取った場合、イランに対する彼らのスタンスが変わるからだ。

この危機的状況がどのような方向に進むか、そしてイラク政治界におけるこのような変化が民間運動に与える影響を見極めるには、今後1週間におけるイラクでの動きを注視することが引き続き重要である。また、選挙が中心となっている米国の政治および現政権において、米国が現在の状況にどのような対応をするべきかという計算も、危機の方向性を決める要因の1つとなる。

イラクが、イランと米国の戦いにおける身代わりの戦場にならないためには、賢く、愛国心を持ったイラク人が頼りだ。さらに、もしイラクに対するイランの主導権が前より強くなって戻った場合、イラク人は自分たちに関係のない戦いのせいで、イラン人を苦しませている孤立、迫害、そして国際的制裁措置と同じような状況が待ち構えることになる。

モハメッド・アル=スラミ博士はInternational Institute for Iranian Studies (Rasanah)所長です。ツイッターアカウント: @mohalsulami

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