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重大な試練に直面する米国の民主主義

「信仰と自由、多数派への道」と題した共和党主催のイベントで発言するドナルド・トランプ氏。2022年6月17日、ナッシュビル。(ロイター)
「信仰と自由、多数派への道」と題した共和党主催のイベントで発言するドナルド・トランプ氏。2022年6月17日、ナッシュビル。(ロイター)
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20 Jun 2022 07:06:10 GMT9
20 Jun 2022 07:06:10 GMT9

ドナルド・トランプ前米大統領とその支持者は、2020年の大統領選挙で最初の投票が行われるずっと前から2年近くにわたり、選挙が民主党によって不正操作されるだろうと主張していたが、ジョー・バイデン氏に敗れると完全にタガが外れた。

今後、米国で民主主義が生き残るためには、2020年の大統領選挙の健全性が疑いなく確立され、それによって2021年1月6日の暴動を起こした群衆を積極的に扇動した者の責任が立証されることが必要不可欠だ。

つまり、あの運命の日の出来事に対して(また、トランプと支持者が流布させている、不正な選挙プロセスに負けたという物語に対して)下院特別委員会が現在行っている調査は、米国の民主主義にとっておそらくウォーターゲート事件以来最も重大な危機の中で、米国の未来にとって極めて重要だということだ。

国会議事堂への暴力的で極端な襲撃につながった出来事についての真実の解明は、決して人々を分裂させる問題ではなく、民主主義システムの健全性と存続を望む全ての議員が本能的かつ即座に要求すべきことであったはずである。

大半の共和党議員が調査に反対したという事実そのものが示唆しているのは、民主主義制度に対する米国史上最悪の攻撃とトランプ氏の行動との間の関係について隠し事があるか、あるいは、トランプ氏にかけられた魔法が解けるのを共和党とその議員たちが非常に恐れているか、そのどちらかだ。

しかし、先週の公聴会の初日に提示された内容は、米国民だけでなく、まだ米国を自由世界のリーダーとして見ている(あるいはリーダーとしての役割を取り戻して欲しいと思っている)人々も懸念すべきものだ。

トランプ氏に最も近い側近や補佐官からの証言に次ぐ証言が示したのは、トランプ氏の周辺の人々が二つの陣営に分かれているという事実だ。一つの陣営は、常識と健全性を持ち、選挙の夜に、その時点では結果は全く明確でないし、また何らかの傾向が現れているとすればそれはバイデン氏の勝利を示すものだという明白な理由で、早期に勝利宣言しないようトランプ氏に助言する勇気があった人々だ。

ルドルフ・ジュリアーニ氏が率いるもう一方の陣営は、バイデン氏に勝ったと宣言するようトランプ氏に促した。その主張が、良くて時期尚早、最悪の場合は意図的な虚偽であること、またそれが、バイデン氏を勝たせるために「大規模な不正」が行われたという捏造を強化することを知っていながらだ。

調査委員会の任務は、トランプ氏が何度も繰り返すこの全くの嘘と、それに異議を唱える人を標的とした絶え間ない扇動が、国会議事堂襲撃という冒涜行為の引き金となったかどうかを調べることだ。

西海岸と東海岸に住む進歩的でリベラル志向の国民が大切にしている価値観と、主に中央部に住む保守的な勢力が推進する価値観との間に、長年にわたって大きな断絶が生じている。

保守派は、社会経済的に置き去りにされていると感じており、自分たちの生活様式が脅威に晒されていると思っている。また同じくらい重要なのは、全ての権力の中枢を支配していると彼らが見ている経済的・知的エリートによって見下されていると感じていることだ。このことが、トランプ流ポピュリズムの大きな温床を作り出し、イデオロギー的実質を欠いたそれが、特に世界的に不透明な時代において、何百万人もの人々の不安と感情を操作することに成功している。

トランプ氏の側近らの証言を放送するという、議事堂襲撃事件調査委員会の決定は、賢明で必要な措置だった。

ヨシ・メケルバーグ

しかし、トランプ氏は依然として共和党内と支持者の間で大きな力を持っており、今年行われる中間選挙の候補者の選出に対して大きな影響力を持つのみならず、同氏自身が2024年の大統領選挙に出馬する意向である可能性が高いため、1月6日の暴動に関する今回の調査で同氏の真意が明らかにされなければならない。

トランプ氏の側近らによる証言を放送し、国民にそれを聞きその是非を自分で判断する機会を与えるという特別委員会の決定は、賢明で必要な措置だった。バイデン氏の当選の合法性を疑う虚偽の主張がどのようにしてなされることになったのかを国民は聞く必要がある。

不正選挙という神話を破壊すれば、米国史上の暗黒の章を終わらせることができるかもしれない。より重要なのは、常に目指してきた「丘の上の町」として尊敬されたいのであれば、米国は今回のようなことを全て過去のものとして、空想ではなく現実に基づいた言説に、真の実質を伴った文明的かつ建設的な国民的議論に立ち戻らなければならないということだ。

  • ヨシ・メケルバーグ氏は国際関係学の教授であり、チャタムハウスの中東・北アフリカプログラムのアソシエイトフェローである。国際的な紙媒体や電子メディアに定期的に寄稿している。ツイッター:@YMekelberg
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