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世界は核武装したイランへの対応を考えるべき

EUのエンリケ・モラ核協議調整官とイランのアリ・バゲリ・カーニ核交渉責任者、2022年6月28日、ドーハ。(AFP)
EUのエンリケ・モラ核協議調整官とイランのアリ・バゲリ・カーニ核交渉責任者、2022年6月28日、ドーハ。(AFP)
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30 Jun 2022 01:06:45 GMT9
30 Jun 2022 01:06:45 GMT9

ウィーンでのイラン核協議が合意に至ると信じている人はいるだろうか?そして共同包括行動計画2.0は本当に生まれると?

イランが核武装し世界で10番目の核保有国となることに対し、諸外国はいずれ対応を迫られることになる。核兵器を製造するのに十分な高濃縮ウランを手に入れたイランは、弾頭の製造と弾道ミサイルの能力強化に取り組もうとしている。もう時間がない。監視が意味を持っていた時期はもう終わったのだ。

欧米では、このことの意味を議論している人はほとんどいないようだ。政治的な議論や議会での審議はされないのだろうか。

EUはイランに代表団を派遣したが、その内容は、真夜中までの5分間で行われたぎりぎりの努力、ヨーロッパの最後の賭けであり、いわばゾンビ政策のようなものでさえあった。この努力の結果、米国とイランの協議が間もなく再開されると発表された。土壇場での合意は常に可能であるが、必然ではない。

イランのタカ派が恐れるのは、イラン指導部よりも米国とEUが今すぐ屈服する可能性が高いということだ。イランが核武装に近づくにつれ、イランは勢力を増していく。ロシアとウクライナの紛争で石油とガスの価格が高止まりすればするほど、イランの上層部は大胆になっていくだろう。

イランは中国やベネズエラと、制裁に対抗するための契約を結んでいる。世界の多くの国々が、イランの炭化水素が市場に出回ることを望んでいる。イランは、原油とガスの価格上昇の恩恵を受けている。5月には日量約46万1000バレルを輸出していたが、今月前半には日量96万1000バレルに増産し、そのほとんどが中国向けである。

合意の可能性は低そうだ。イランは、2015年の核合意に戻ることにほとんどメリットを感じていない。イランは、現米国政権の公約が、ほんの2、3年後にまた破棄されるかもしれないと警戒している。イランは、この協定を時間かせぎに使うだろう。

ウクライナのことで、ロシアと米国は関係が悪化しており、この状況が改善される可能性はほとんどない。米国は中間選挙とウクライナに気を取られている。米国とその同盟国がイランに対する行動をエスカレートさせれば、テヘランは核武装を加速させることでそれに応じる。

欧州の焦点は合意に達することであった。EUのジョゼップ・ボレル外務上級代表は次のように述べている。「JCPOAに関する合意は、核不拡散、世界の安全保障、地域の安定のためにこれまで以上に重要である」

しかし、EUや米国は、核武装したイランに対処するための戦略をほんのわずかでも持っているのだろうか。なぜ世界は、このような事態を想定した議論や準備をしないのだろうか。危機に際して、最悪のシナリオを想像しようとする人はほとんどいない。イランが核実験をしたらどうなるだろうか。

戦争は起こりそうにない。イランへの全面攻撃への賛同者はほとんどいない。イスラエルはそれをほのめかしているが、アメリカの関与がなくては無謀だろう。ロシアとウクライナの戦争は、大規模な生活費危機を拡大させ、エネルギー価格の高騰を確実にし、多くの国が飢饉のような状況に直面している。米国のガソリン価格は現在、小売価格で1ガロン当たり平均5ドル以上となっている。

世界の炭化水素産業の中心で大規模な戦争が起これば、エネルギー価格がどれほど上昇するかは想像に難くない。ホルムズ海峡を封鎖するという脅しでさえ、すでに動揺している市場を打ち砕くだろう。

イランの指導者はそれを知っている。だからといって、核武装することにも苦痛は伴う。さらなる制裁が待っている。近隣諸国とのデリケートな関係もますます混乱するだろう。

イスラエルとイランは数カ月にわたって半ば対立状態にある。イスラエルは今月、ダマスカス空港を爆撃したが、これは2017年以来、シリアにおけるイランとその同盟国に対する400回を超える空爆のうちの1回である。イスラエルはまた、イランがトルコでイスラエル人観光客を攻撃する計画を立てたとして非難している。

イスラエルは、腕ではなく頭を狙うという「オクトパス・ドクトリン」の一環として、イランに対する行動については明らかにより大胆になってきている。イスラエルは、今まではイラン国外のイラン関連の標的を攻撃する傾向にあったが、イラン国内への攻撃も準備していることは明らかだ。

少なくとも地域外交は活発で、多くの国家間の壊れた関係が修復されつつある。カタールは孤立から脱した。サウジアラビアとトルコは関係を更新した。多くの国家がイランと対話をしている。このことはある程度の助けになるが、肝心なのは、それが危険な冷戦状態やそれを超える事態から脱却する機会を与えてくれることだ。地域の緊張が緩和されれば、会談の環境が改善され、核とは別の問題で成果を上げることができるかもしれない。これには、イエメンでの停戦協議を発展させることも含まれるだろう。

イランの核武装を阻止しようとする勢力は、そのチャンスを逃してしまったのかもしれない。彼らは長年にわたって多くのチャンスを逃し、貴重な時間と労力を浪費してきた。

どのような選択肢があるのだろうか。米欧の外交官は間違いなく、考えられる限りのあらゆる切り口を会談の席で繰り出すだろう。どうなるだろうか。奇跡を信じる人もいる。一方で、イランに対する最大限の圧力キャンペーンに戻ることを主張する向きもある。これは成功するかもしれないが、危険である。イランと協議するためのデリケートな関係性が消滅してしまうだろう。イランは今、中国の援助のおかげで状況を乗りきっている。また、トランプ大統領の最大限圧力をかける政策が失敗だったのだと主張する人もいる。

イランのタカ派にとって怖いのは、イラン指導部よりも米国とEUが今すぐ屈服する可能性が高いことだ。

クリス・ドイル

不快で憂慮すべき事態は、核武装したイランを地域と世界が受け入れ、共存しなければならなくなることである。中東に第2の核保有国が誕生することになり、それによって緊張が緩和されるとは到底思えない。核拡散がエスカレートし、米国は同盟国に「核の傘」を提供しなければならなくなるかもしれない。

もしかしたら、イランはこのタイミングではそのような兵器を作らず、分岐点に到達して、核武装が可能になったとただ宣言するかもしれない。イラン指導部は、2003年のイラク、そしてリビアが大量破壊兵器プログラムを放棄して2011年に攻撃を受けたことを引き合いに出し、核武装国は侵略されない傾向にあると結論づけている。米国からの敵対的なレトリックにもかかわらず、北朝鮮は核と弾道ミサイルを開発してきた。そしてロシアは、かつて核保有国であったウクライナの広大な土地を占領している。

核武装したイランは、他の国々に影響を与え、同じ道を歩ませる可能性がある。多くの人々が核兵器開発の安全性を懸念している。 イランが非国家主体に兵器を渡してしまうことを懸念するものもいるだろう。しかし、イランは完全なコントロールを望んでいるため、その可能性は非常に低い。

しかし、そろそろこれについて議論しなければならない時だ。いつまでも、おとぎ話の世界に暮らし、手を合わせて祈っているわけにもいかない。政治的合意は実現しないか、単なる時間稼ぎに終わるだろう。軍事的な選択肢は問題外だ。したがって、このままではイランはおそらく核兵器を手に入れるだろう。それにどう対応するのか。その問いに誰も向き合っていない。

  • クリス・ドイル氏は、ロンドンにあるCouncil for Arab-British Understandingのディレクターを務める。Twitter:@Doylech
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