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米国が水面下で準備を進めるインド太平洋のアルファベットスープ

インド太平洋経済枠組み(IPEF)に加盟する各国首脳とのビデオ通話に参加するジョー・バイデン米大統領。(AFP)
インド太平洋経済枠組み(IPEF)に加盟する各国首脳とのビデオ通話に参加するジョー・バイデン米大統領。(AFP)
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30 Jun 2022 11:06:39 GMT9
30 Jun 2022 11:06:39 GMT9

米国のジョー・バイデン大統領は先月、ドナルド・トランプ大統領の就任期間に生じた不確実性と疑念を払拭し、アジア太平洋地域に対するアメリカのコミットメントを再確認する目的で、韓国と日本を訪問した。東京でバイデン氏は、「繁栄のためのインド太平洋経済枠組み(IPEF)」を立ち上げ、日本、オーストラリア、インドを含む非公式な安全保障グループである「クアッド(QUAD)」のサミットに参加した。

クワッドは、自由で開かれた、繁栄した、包括的なインド太平洋地域を促進し確保することを目的としており、中国の地域的野心を牽制する手段として広く見なされている。しかし、IPEFがもたらす恩恵は、多くのアジア諸国にとってあまり明白ではない。

新しい枠組みの最初の署名国は、米国のほかに、日本、韓国、インド、オーストラリア、ニュージーランド、そして東南アジア諸国連合の7カ国――ブルネイ、インドネシア、マレーシア、フィリピン、シンガポール、タイ、ベトナム――である。この新グループは、デジタル経済に関する共通ルールの策定、強力な貿易関連の労働・環境基準の実施、半導体やその他の機密製品のサプライチェーンに関する情報の共有、クリーンエネルギー・インフラの構築の支援を意図していると思われる。

しかしこれらは、関税や非関税障壁を引き下げて市場を開放することを目的とした自由貿易協定ではない。米国市場へのアクセス拡大を期待するアジアの新興国・途上国はバイデン氏の新構想に比較的消極的であり、東南アジア全域から米国に貿易自由化の意欲を示すよう求めている。

IPEFに各国を参加させるのには苦労したと伝えられている。米国が実質的な経済的利益を見込みながらこのグループを維持できるかどうかは、このプロジェクトの大きな未知数であり、中国に対抗する地域経済圏を確立するための心もとない試みである。

もちろん、このような米国主導の構想は今回が初めてではない。バラク・オバマ大統領時代に交渉が行われた12カ国から成る環太平洋パートナーシップ(TPP)は、中国を抑え込む高水準の自由貿易協定という見方が一般的だった。しかし、トランプ氏は2017年の就任直後に米国をこの協定から離脱させた。

トランプ氏がこの地域の経済的主導権を中国に渡すという重大な戦略的ミスを犯していると感じた当時の安倍晋三首相は、後続条約の交渉に率先して乗り出した。その後、当初の協定に残った日本を含む11カ国は、「環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定(TPP11協定)」を締結した。

インド太平洋経済枠組み(IPEF)に各国を参加させるのには苦労したと伝えられている。

伊藤隆敏

日本は、アジア太平洋地域の自由貿易グループの結束を固めるためには、米国のこのブロックへの加盟が最良の選択肢になると強く考えている。問題は、2016年のトランプ氏の大統領選挙を皮切りに、米国の政治的ムードが自由貿易や多国間貿易協定に反旗を翻していることだ。

悲しいかな、トランプ氏の「アメリカ・ファースト」の考え方は、まだ残っている様子だ。バイデン政権下の米国がTPP11協定から距離を置き続ける一方で、中国と台湾は参加を申請している。中国を排除するはずの枠組みが、アメリカを排除することになり、アジア太平洋地域における中国の経済的リーダーシップが強まることになりそうである。

アジア諸国、特に日本は、かつて自由貿易協定への参加を求める米国の圧力を恐れていた。米国は比較優位の理論をそのまま適用し、例えば米国と日本が相互に関税を引き下げれば、両国に利益をもたらすと固く信じていたのだ。米国がアジア太平洋協定に背を向けたのは、皮肉なことであり、また時期尚早である。今日、日本や他のアジア諸国は、米国が自由貿易の枠組みに戻ることを切望している。

なんと言っても米国は、1989年に自由貿易の推進を主目的に設立されたアジア太平洋経済協力(APEC)の主要メンバーとして長く活動してきたのである。しかし、このグループのメンバー間における貿易自由化の機運は次第に失われつつあり、またロシアの加盟によって、このグループは麻痺を起こしているようだ。

そこで注目されているのが、今年1月に発効した東南アジア諸国連合(ASEAN)10カ国と日本、韓国、中国、オーストラリア、ニュージーランド(インドは交渉の最終段階で脱落)からなる大規模な自由貿易圏「地域的な包括的経済連携(RCEP)協定」である。今後、中国と日本の共同主導をめぐる競争が激化することが予想される。

「インド太平洋経済枠組み」と「地域的な包括的経済連携」のメンバーにはかなりの重複があり、11カ国がどちらにも加盟している。さらに、前者には米国とインドが、後者には中国、ミャンマー、ラオス、カンボジアが加盟している。この違いは、中国が地域経済の主導権を握って米国を取り込むか、あるいはその逆を行うかを決める要素になる。米国が関税や非関税障壁の引き下げによって東南アジア諸国からの輸入品に国内市場をさらに開放しない限り、多くのアジア経済はこの枠組みには魅力を感じないかもしれない。

インド太平洋地域は、すでに多くの経済・貿易協定の頭文字を煮込んだ“アルファベット・スープ”を誇っている。もしバイデン氏がIPEFに良質な材料を加えなければ、彼の新しい料理はそれらに比べて水っぽく、おいしくないものになる恐れがある。

・・伊藤隆敏(いとう たかとし):元大蔵省副財務官。現在はコロンビア大学国際公共政策大学院教授であり、東京の政策研究大学院大学特別教授を務める。

©Project Syndicate

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