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英新首相の「トップチーム」は余りに経験に乏しい

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12 Sep 2022 01:09:55 GMT9
12 Sep 2022 01:09:55 GMT9

リズ・トラス氏は新首相としての最初の数日、スピード感をもって仕事をこなそうとしていた。しかし、月曜日からの1週間が、これほど波乱に富んだものになるとは予測できなかったろう。

木曜日のエリザベス女王の死去という悲しい知らせは、イギリス史における重要な出来事だった。トラス氏はチャールズ新国王とともに、国民に向けて語りかけなければならなくなった。

王室の代替わりを別にしても、トラス新首相の前には政治的難題が山積している。国際的には、ウクライナでの戦争がある。トラス氏はEUとの関係を修復すると同時に、世界にEU離脱は首尾一貫した目的をもつものだったと示さなければならない。さらに、どうにかしてアメリカとの関係を築く必要があるが、アメリカ大統領とイギリスの指導者との絆は、第二次世界大戦終了以来もっとも弱まっているのが現状である。

だが、トラス氏は1945年以来最大の政治的難題に直面しているにもかかわらず、彼女が任命した内閣は、イギリス近代史を通じてもっとも経験に乏しいメンバーから成っている。待ち構えている課題の大きさからすると、これは奇妙な事態である。トラス政権は経済、金融、社会政策において途方もなく厳しい諸問題にこれから対処しなければならないのだ。

トラス氏は月曜日に、予想されたよりも僅差で保守党の党首に選ばれたが、自分に票を投じなかった人々を閣僚に迎えることに消極的であった。この結果、リシ・スナック前財務相は閣外にとどまることになり、前政権とはこの点で断絶することになった。彼女はボリス・ジョンソン前首相が2019年に犯したのと同じ過ち、つまり自分の同調者を多く取り立てて、保守党のすべての重要派閥からバランスよく人選しなかったという過ちを繰り返していると言える。

実際、党首選でスナック氏を支持すると公式に表明した議員のうち、閣僚に再任、あるいはトラス陣営に上手く鞍替えできたのはロバート・バックランド・ウェールズ担当相とマイケル・エリス司法長官の2人のみである。

トラス氏は自身を好んでマーガレット・サッチャー元首相になぞらえるが、サッチャー氏もまた、1979年の首相就任時、多くの困難に見舞われていた。しかし、サッチャー氏の人選はトラス氏のそれとは大きく異なっていた。新たにに任命されたクワシ・クワーテン財務大臣、ジェームズ・クレバリー外務大臣、スエラ・ブレイバーマン内務大臣は、ジェフリー・ハウ氏、ピーター・キャリントン氏、ウィリー・ホワイトロー氏といった1970年代末のサッチャー政権の顔ぶれに比べると、はるかに政治的経験に乏しい。実際、現内閣で閣僚経験が6年以上あるのも、2016年の第2次キャメロン内閣で閣僚を務めたのも、トラス氏ただ一人である。

もっとも、トラス内閣はジェンダーや民族的背景に関して多様な顔ぶれとなっている。連合王国の歴史上、4つの主要閣僚(首相、財務相、外相、内務相)がすべて白人男性以外で占められるのは初めてである。

不可解なことに、トラス氏が選んだトップチームは待ち構える難題に対処するためのより「目的にかなった」人選とは言えない

アンドリュー・ハモンド

また、トラス内閣には保守党党首選を争った他候補が5人も含まれている。ペニー・モーダント、ナディム・ザハウィ、スエラ・ブレイバーマン、ケミ・ベイドノック、トマス・タジェンダットの各氏である。よって、トラス首相はこの内閣が党を一つに結束させるものだと主張している。

もっとも議論を呼んだ閣僚人事の一つは、ジェイコブ・リース・モグ新ビジネス相の任命である。ブレイバーマン氏その他と同様、リース・モグ氏はネットゼロ政策に懐疑的であり、フラッキング法の支持を公言し、「気候変動の過大視」への懸念を表明している。また、イギリスの北海油田から石油資源を「一滴残らず」採掘して利用すべきだと考えている。

リース・モグ氏の任命は環境保護団体の批判を浴びたが、イギリスの気候政策に大きな変化があるにせよ、それを相殺する要素もある。まず、クワーテン新財務相は2050年までにネットゼロを実現するためのジョンソン政権の「10ポイント計画」の主な立案者である。次に、ネットゼロ推進派の議員グレアム・スチュアート氏がリース・モグ氏の下で環境相となり、閣議に参加する。さらに、ジョンソン前首相はトラス氏に自らの気候変動政策を守るつもりだと警告しており、彼女もジョンソン氏がいまだに党の草の根レベルで非常に高い人気を誇ることを知っている。

トラス首相が直面する主要な問題のうち、もっとも急を要するものは、火曜日に首相が概略を示した、エネルギー市場への介入である。このために向こう18か月間で1千億ポンド(1,160億ドル)から1,500億ポンドが必要になる。これほど巨額の支出が予定されているのに加えて、大幅な減税も相俟って、火曜日にイギリスの標準借入コストは最近11年以上の間で最高水準に達した。市場では新首相の生活費高騰対策によって、国の借金が大幅に増えるのではないかという懸念が生じている。

トラス氏にとっての頭痛の種はまだある。火曜日に発表された世論調査の結果では、野党労働党が前週に比べて支持率を7%伸ばし、保守党を15%リードしている。

新首相はこのように、政治・経済の両面で大きな試練を経験するだろう。したがって、今回の組閣は不可解である。トラス氏が選んだトップチームは待ち構える難題に対処するためのより「目的にかなった」人選とは言えない。

  • アンドリュー・ハモンド氏はロンドン・スクール・オブ・エコノミクス、LSE IDEASの研究員である。
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