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W杯が教えてくれるアラブ世界の勝利戦略

フランスのランダル・コロ・ムアニからクリアするヤシン・ブヌ。2022年12月14日、カタールのアル・ホールのアル・バイト・スタジアム。(ロイター)
フランスのランダル・コロ・ムアニからクリアするヤシン・ブヌ。2022年12月14日、カタールのアル・ホールのアル・バイト・スタジアム。(ロイター)
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16 Dec 2022 11:12:11 GMT9
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アラブ世界は数十年にわたって結束できない状態にある。地理・言語・文化によってつながっているものの、この地域の結束の欠如は地域外の大国による資源の略奪を長い間許してきた。植民地支配の分割統治戦術の遺産が未だに浸透しており、地方根性のせいでアラブ諸国は豊富な石油資源と比較的教育水準の高い人口を活用できずにいる。しかし、FIFAワールドカップは我々に別の道を示している。

アラブ諸国が立て続けに予想外の勝利を収めたことで、サッカーはアラブ世界を大いに結束させるものとなっている。11月には、サウジアラビアがアルゼンチンに、チュニジアがフランスに、モロッコがベルギーに勝利した。その後の決勝トーナメントでは、モロッコはスペインとポルトガルを破りアラブの国として初めて準決勝進出を決めて歴史を作った。

モロッコの一連の勝利は、ワリド・レグラギ監督が考案した計画を完璧に実行した結果だ。この計画ではチームの戦略の中心にゴールキーパーのヤシン・ブヌが置かれていた。ブヌはスペインの得点を何度も阻み、モロッコはPK戦の末にスペインを敗退させた。ポルトガルのアタッカーたちもブヌを突破する術を見いだせず、モロッコが1対0で見事勝利を収めた。ある評論家はBBCに、「ワールドカップでかつてこれほどの衝撃があっただろうかと思い出そうとしているところだ」と語った。ブヌは「つねってくれ。夢を見ているんだろう」と言った。

前回優勝国のフランスに惜敗してモロッコの快進撃は最終的に終わりを迎えたが、チームの成功は夢ではなかった。モロッコは最初から自分たちの勝ち目が薄いことを分かっていた。計画にはスターゴールキーパーのブヌの強さを活かしたディフェンス重視の4-1-4-1のフォーメーションが含まれていた。しかし全てのポジションが重要であり、1つのゴールのための最大限の献身が要求された。

モロッコの選手たちはそのような献身を示し、アラブ地域全体の人々を勇気づけた。モロッコ代表が勝つとアラブの子どもたちは路上で踊り、カタールにいたファンや選手たちはパレスチナの旗を振ってアラブの連帯を表明した。アラブ諸国のどのチームも、勝った後には必ず集合写真や公式声明の中でパレスチナへの連帯を行動や言葉で示した。

おそらく驚くべきことではないが、スペインのラ・リーガのセビージャでプレーしているブヌはアラブの若者たちにとって一種のロールモデルとなっている。背が高く機敏な彼の自信、謙虚さ、コミュニティ意識がサッカー界の中で際立つのは、この世界のスターたちは威張った態度や傲慢さの誇示で知られることが多いからだ。

同じような欠点が、より広い意味でアラブ世界の足かせになっている。結束をチームの戦略の基礎にするのは当たり前だと思うかもしれないが、アラブ諸国はスポーツでもそれ以外でも通常はこれをなかなか実行できない。確かに、アルジェリアのタウフィク・マフルーフィは2012年ロンドンオリンピックの1500メートル走で、モロッコのヒシャム・エルゲルージ2004年アテネオリンピックの1500メートル走と5000メートル走で、シリアのガーダ・シュアーは1996年アトランタオリンピックの七種競技で、それぞれ金メダルを取っている。しかしこれらは全て個人競技での金メダルだ。アラブ諸国はチームスポーツとなると悲惨な結果に終わることが多いのだ。

同様の欠点がアラブ地域のビジネスや貿易にも反映されている。例えば、アラブ連盟はアラブ世界の結束を高めるために設立された。しかし、アラブ地域内の貿易は依然としてアラブ諸国の輸出入の10%以下を占めるに過ぎない。家族経営の小さな会社は上手くいくかもしれないが、アラブの企業が世界的なビジネスで成功することはほとんどない。この体質はすぐには変わりそうにない。世界経済フォーラムの推定では、アラブ世界で成功した企業の75%は家族経営だという。

結束をチームの戦略の基礎にするのは当たり前だと思うかもしれないが、アラブ諸国は通常はこれをなかなか実行できない。

ダオウド・クタブ

また、結束の欠如は深刻な政治的帰結をもたらす。地域の穀倉地帯と見なされることの多いスーダンにおける飢饉に対処するための統一的な戦略の欠如が状況をさらに悪化させていることは確かだ。同様に、パレスチナの内部で領土の支配をめぐる分断が存在することは、彼らが切実に必要としている尊厳と自由を実現できない一因となっている。先日のイスラエルのクネセト(国会)選挙でも、アラブ系諸政党は統一候補のリストについて合意に至ることができず、結果として数十万票を無駄にした。富裕なアラブ諸国の国民でさえも飢餓や識字の問題に直面している。

アラブ諸国がよく考えられた現実的な戦略に基づいて結束することができれば、地域の状況を大きく改善することができるだろう。モロッコのワールドカップでの活躍が教えてくれるのはその点だ。モロッコ代表の成功の中心にあった無私無欲とチームワークの精神をより広く応用することだけが、モロッコが歴史を作るのをテレビにかじりついて見ていたアラブの若者たちや将来の政治家たちが、自分たちが共有した熱狂を現実の結束に変えることができる方法なのだ。

  • ダオウド・クタブ氏は受賞歴のあるパレスチナ人ジャーナリストで、プリンストン大学の元ジャーナリズム教授であり、ラマッラーのアル・クッズ大学の現代メディア研究所の創設者・元所長である。
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