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アブラハム合意拡大には、パレスチナ問題解決が必須

ユダヤ人入植地反対デモで、パレスチナ国旗を掲げてイスラエル治安部隊と対峙するパレスチナ人たち。(AFP)
ユダヤ人入植地反対デモで、パレスチナ国旗を掲げてイスラエル治安部隊と対峙するパレスチナ人たち。(AFP)
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12 Jan 2023 09:01:43 GMT9

イスラエル新政権はアブラハム合意の行方に対する懸念に拍車をかけている。これまで強硬な民族主義的見解を表明し、態度を軟化させる兆しをほとんど見せない、複数の人物を閣僚に起用したからだ。しかし、望みがすべて絶たれたわけではない。国交正常化を目指す機運を再燃させるための時間は十分にある。パレスチナ人を犠牲にした中東諸国との和解など無理だと、イスラエル政府が理解すればの話だが。

初動ミスが相次いでいる。イスラエル新政権発足の数日後、イタマル・ベングビール国家安全保障大臣がエルサレムのアル・アクサモスク複合施設に出向いた。このため、ただでさえ脆弱なエルサレム市内の宗教的聖地の現状に、変更が加えられるとの懸念が一気に高まった。

ガザ地区からイスラエルへのロケット弾攻撃は、不当だが予測可能だった。その一方で、懸念の声が国際社会に広がっているのも事実だ。国連安保理は緊急会合を開催し、米国までもが状況の深刻化に対し懸念を表明した。イスラエル新政権にとり最大の懸念とは恐らく、就任後初の外遊となるはずだったベンヤミン・ネタニヤフ首相のUAE(アラブ首長国連邦)訪問が延期になったことだろう。

危機の最中にこそチャンスがあるとはよく言われるが、今回がそのチャンスとなる可能性もある。米国をはじめとした主要同盟国やイスラエルが国交正常化を願う各国の気配りにより、何らかの重要な政策転換を発表するよう圧力がかかっている。

ネタニヤフ首相はアル・アクサモスク複合施設の現状を維持すると繰り返し表明している。ヨルダンのワクフ管理局(イスラム教宗教協議会)は、聖地「アル・ハラム・アル・シャリフ」の運営をイスラム教徒に、「神殿の丘」の運営はユダヤ人側に割り当てている。

他にも重要な声明が出されている。ネタニヤフ首相は、サウジアラビア政府が関与を強めることでイスラエル・パレスチナ紛争の永続的な解決に向けた動きが進めばとの希望を表明した。さらには米サウジ同盟の強化により、中東全域に好ましい影響が及ぶことを願うとも述べている。

昨年はイスラエル国民同士で暴力沙汰が発生するなど、ここ10年ほどでイスラエル対パレスチナの緊張が最も高まった。しかし何らかの安心材料はある。先月ネタニヤフ首相がドバイのテレビ局「アル・アラビーヤ」のインタビューに応じ、社交辞令を述べた。首相は「男女を問わずイスラエルで暮らすあらゆるアラブ人の若者たちが、ユダヤ人と同じチャンスを得られる」ようになることを望むと語ったのだ。

これは重大発言だ。発言と行動は別物だ。しかし第一歩ではある。中東全域(さらには国交正常化の可能性がある各国)が、この発言を基にイスラエル政府の取り組み(または怠慢)を評価できる。停滞中のパレスチナ人との和平交渉に新たな息吹を吹き込む姿勢があるか否か判断できるのだ。紛争を公平かつ公正に解決できる道があることをパレスチナ人に証明するには、今までに増して多くを約束・実行することが不可欠だ。

UAE訪問が先日延期された。さらにサウジアラビアをはじめとしたアブラハム合意未参加のアラブ諸国では、パレスチナ人の同意を得ない国交正常化交渉は許さないとの世論が強い。ここから分かる通り、イスラエル政府がパレスチナ問題を避けて通るのは不可能だ。

イスラエル政府は、近隣アラブ諸国との和平交渉とパレスチナ人との和平交渉を、同時並行で進めるよう努力すべきだ。

ラビ・マーク・シュナイアー

残念ながら、一部のイスラエル人との間には見解の相違があるようだ。彼らはアラブ諸国との外交を前に進めることで、パレスチナ人を孤立させられると考えている。さらにパレスチナ人を犠牲にすることで、新たな外交的成果を得られる可能性すらあると考えている。

そんな甘い話は通用しない。

UAE・バーレーン・モロッコと交わしたアブラハム合意が示した現実とは、対イスラエル関係を改善するのにやぶさかでないアラブ人は多いということだ。しかし、合意参加国はまさしくイスラエルにパレスチナ人との和平交渉を加速するよう圧力をかけた。

さらにネタニヤフ首相が最優先で国交正常化をもくろむ相手国サウジアラビアは、イスラエル・パレスチナ間の合意が正常化の必須条件だと述べた。UAEやバーレーンの外交努力がパレスチナ人の状況改善に役立たず、和平のチャンスが後退しているとすら評価すれば、サウジアラビアは合意に参加する動機をまず抱かないだろう。

経験からはっきり分かるはずだ。イスラエル政府は、近隣アラブ諸国との和平交渉とパレスチナ人との和平交渉を同時並行で進めるよう努力すべきだ。両者と同時に交渉すれば、当然ながらスムーズに物事が進む。パレスチナ人に対しより柔軟な姿勢を取るならば、和平を実現するうえでイスラエルが誠実な仲間となり得ることが明らかとなるだろう。現在進行中の紛争に加え、より広範な中東地域における紛争解決においてもだ。

より広範なアラブ諸国との関係を優先するネタニヤフ首相の姿勢は正しい。というのは安全保障・経済・技術・投資面での協力、国交正常化の見通しをベースに、イスラエルとの新たな関係を築こうとの動きが強まっているのは、間違いないからだ。

しかしネタニヤフ首相の構想が実を結ぶのは、イスラエルとパレスチナの関係が同時に変化し、紛争・暴力・低迷から脱皮した場合に限られるだろう。

アラビア湾岸地域では、あらゆるものに代償が伴うとよく言われる。その代償とは、パレスチナ国家の樹立だ。パレスチナ独立に至るまでの交渉が大変な困難を極めることになることを考慮すれば、一夜にして実現可能なものではないのかもしれない。しかし和平実現のチャンスを生むには、対話の窓をこじ開けねばならない。

対話の窓を開けるには、イスラエルは何歩でも前に踏み出す必要に迫られそうだ。この紛争を終わらせるよう呼びかけるのは、常に困難だ。しかし今ほど大きな希望が明確に見えたことはない。パレスチナとの紛争終結に向けた取り組みを開始することで、イスラム世界との新たな関係を築き、アブラハム合意の全面実施に向けた道が開けてくる。

•ラビ・マーク・シュナイアーは、ニューヨークに拠点を置くNPO「民族理解財団(Foundation for Ethnic Understanding)」理事長。多くの湾岸諸国の政府顧問を務めていることで広く知られる。イスラム世界で最も影響力の強いユダヤ人の1人と認識されている。

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