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パレスチナの指導層に圧力をかける、トランプによる取り決め

パレスチナ自治政府の大統領マフムード・アッバースは、米国大統領ドナルド・トランプによる中東プランを「歴史のゴミ箱」に入れると誓った。(AFP)
パレスチナ自治政府の大統領マフムード・アッバースは、米国大統領ドナルド・トランプによる中東プランを「歴史のゴミ箱」に入れると誓った。(AFP)
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05 Feb 2020 03:02:38 GMT9
05 Feb 2020 03:02:38 GMT9

幾度かの延期を経て、米国大統領のドナルド・トランプは先週ついに、ワシントンで開かれた記者会見の場で、「世紀の取り決め」と呼ぶ中東プランの詳細を明らかにした。トランプの傍らで勝ち誇ったように立つイスラエル首相ベンジャミン・ネタニヤフは、1年間で3度目になるイスラエルの選挙のわずか数週間前というこの発表のタイミングは、この追い詰められたイスラエルの指導者の国内課題にとりわけ適合すべく合わせられたものだということを、きっと理解していたに違いない。

80ページから成り、そのうち50ページはすべて同プランの経済的要素に充てられているこの文書は、正義・平等・人権の最低限の基準を満たしていないとしてパレスチナ人らやアラブ諸国の政府によって拒否されてきた、過去のイスラエル側の提案の焼き直しであった。

かつてパレスチナ側の交渉者を務めたサエブ・エレカットは、同プランはアメリカによるものですらなく、イスラエルによるものだと、インタビューで主張した。「あなたがたが昨夜トランプから聞いたことは、2011〜2012年にかけて私がネタニヤフと彼の交渉チームから聞いたことだ」とエレカットは話した。「米国のチームはこのプログラムに1語も1コンマも加えなかったということを、私はあなたがたに保証することができる。私は議定書を持っているし、我々が提案を受けた内容についてあなたがたに明らかにすることを厭わない。これはネタニヤフと入植者評議会によるプランだ」。

したがって、トランプによるプランを「歴史のゴミ箱」に入れると誓ったパレスチナ自治政府(PA)の大統領マフムード・アッバースの反応を読むことは、驚くことではなかった。

予想通りトランプはネタニヤフに対して、ネタニヤフとイスラエルがこれまで望んできたことすべてを与えた。中東「平和」に向けたアメリカのビジョンは、ただひとつの違法なユダヤ人入植地の退去も要求せず、エルサレムをイスラエルの「分割されない」首都として認めている。それは、あいまいな期待に基づいてのみ獲得される、条件付きの醜いパレスチナ国家について言及している。それは、パレスチナ難民の帰還権を全面的に拒否している。そして、それは「占領」という言葉に一度も言及していない。

明らかにイスラエルだけが、この米国によるプランから恩恵を受けている。領土的獲得の最大化とパレスチナ人の存在の最小化に基づくシオニスト話法は、ついに勝利した。すべてのイスラエルによる要求が、最後のひとつに至るまで満たされた。一方パレスチナ人たちは、何らの領土的継続性も何らの真実の主権も無い、もうひとつのパレスチナ国家の蜃気楼を追いかける約束のほかには、何も受け取らなかった。

1990年代初頭から半ばにかけての「和平プロセス」の絶頂期においてすらパレスチナ人の権利が多年にわたって無視され続けてきたように、パレスチナ側の懸念は無視され続ける。その当時には、すべての根本的な諸問題が「最終状況協議」に追いやられ、そしてそれは決して実現しなかった。

トランプによる取り決めは、単に現状をイスラエルによって思い描かれ一方的に実行されたものとして、その正当性を確認するだけのものである。それは、紛争を解決することはないだろうと述べた。さらに悪いことには、それは現状をさらに悪化させることになるだろう。なぜならそれはイスラエルに対して、その植民地的冒険をスピードアップさせ、その軍事占領を確立させ、きっと抵抗し続けるであろうパレスチナ人をさらに抑圧させる、白紙委任を与えているからだ。

同プランの経済的要素については、軍事占領下ではいかなる経済的繁栄もありえないということを歴史が証明している。ネタニヤフ、そして彼以前の他の指導者らは、「経済的平和」のような疑わしい方法を試したが、すべてが無残に失敗した。

国連は、ワシントンのそれとは異なる政治的軌跡をたどるということ、エルサレム・違法な入植地・占領されたゴラン高地の地位に関するすべての米国の決定は無効であるということを、繰り返し明らかにしてきた。国際法だけが重要なのであり、近年のトランプによる行動のいずれも、パレスチナ人の諸権利に関するアラブと国際的なコンセンサスを大きく変えることには成功していない。

米国とイスラエルの企みが迫っていると知りながら、なぜアッバースはこんなにも長く、共通戦略を求めるべく待ち続けたのだろうか?

ラムジー・バロウド

東エルサレムの地位、およびそこでのパレスチナ人の権利について、いくつかの地区(カフル・アカブ、シュアファトの東部、アブ・ディス)をアル=クズ、あるいは東エルサレムと改名するというのは、過去に失敗したかつてのイスラエルの計画である。亡くなったパレスチナ人の指導者ヤーセル・アラファートは、それを拒否するに十分な政治的賢明さを持っていた。アッバースも、その他のいかなるパレスチナ高官も、この都市における歴史的・法的なパレスチナ人の権利について、妥協することはなかった。

しかしながらパレスチナ政府の指導層は、パレスチナの人々や包括的な国民戦略を作り上げることに紛れもなく失敗したことに対して、その責任を免除され得ない。トランプが自身のプランを発表した直後、アッバースはハマス運動の自身のライバルを含むすべてのパレスチナ人の党派に、団結して「世紀の取り決め」に対抗する共通戦略を作り上げるよう求めた。米国とイスラエルの企みが迫っていると知りながら、なぜアッバースはこんなにも長く、共通戦略を求めるべく待ち続けたのだろうか?

パレスチナ人たちの間の国民的団結は、国民の視点からして能力に欠けるアッバースの正当性を確認するための取引材料や恐怖戦術や最後の手段としては、決して用いられるべきではない。パレスチナ自治政府はいまや、実存的危機に直面している。1994年にパレスチナ自治政府が設立されたのは、より民主的に包括的なパレスチナ解放機構を傍流に追いやることを意図してのことであった。しかし、アメリカによる新しい独裁的決定によれば、パレスチナ自治政府は既にその有用性を失ってしまった。

イスラエルについては、パレスチナ自治政府はイスラエル陸軍と「安全保障協調」を維持するためにのみ必要とされており、これは本質的に、占領地区の違法かつ武装したユダヤ人入植者の安全を確かなものにするということを意味する。

パレスチナ党派間の団結が最も重要な差し迫った必要である一方で、アッバースのパレスチナ自治政府は、真実かつ永続的な国民的団結を期待しつつイスラエルとその同盟諸国によって彼に期待された役割を賢明に果たすという、その馬鹿馬鹿しい綱渡りの維持を期待することはできない。

米国のイスラエルに対する贔屓がトランプに数十年先立つものであるように、トランプの見せかけのプランがイスラエルおよびパレスチナにおける米国の外交政策を根本的に変えるものではない一方、それはパレスチナ人を「穏健派」陣営と「過激派」陣営に分断してきたいわゆる「和平プロセス」という茶番を確実に終わらせた。いまやすべてのパレスチナ人は、ワシントンの視点からすると「過激派」になってしまった。すべてが平等に忌避され、傍流に追いやられた。

アッバースがもし――妙な話だが、ワシントンで書かれた――古い政治的話法を救いうると考えているのならば、彼はひどく間違えている。

パレスチナの指導層に関する問題は、その頻繁な抗議や怒りの非難にも関わらず、依然として独立したイニシアチブをとったり、米国=イスラエルのパラダイムの外で動いたりしていないということだ。そして、これはパレスチナの指導層の最大の課題である。彼らは、パレスチナ中心主義的な戦略をもって進むのだろうか、それとも、古い言葉を繰り返し、古き良き日々について思い出話をしながら、同じ場所に存在するのだろうか?

  • ラムジー・バロウドは、ジャーナリスト・作家で、パレスチナ・クロニクルの編集者。彼の近著は、『最後の大地:あるパレスチナの物語』(Pluto Press, London)。バロウドは、エクセター大学でパレスチナ研究の博士号を取得している。Twitter: @RamzyBaroud

免責事項:本稿で著者が述べた見解は著者自身のものであり、Arab Newsの見解を必ずしも反映しているものではありません。

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