Since 1975
日本語で読むアラビアのニュース
  • facebook
  • twitter

シリア東部をめぐる戦争は始まったばかり

シリア東部には、表向きはダーイシュとの戦いを目的として、米軍1,000人近くが駐留している。(AFP/ファイル)
シリア東部には、表向きはダーイシュとの戦いを目的として、米軍1,000人近くが駐留している。(AFP/ファイル)
Short Url:
05 Jun 2023 10:06:51 GMT9
05 Jun 2023 10:06:51 GMT9

ここ数年、イランとその同盟国がイスラエルや米国と対立し、新たな地域紛争が勃発することは避けられないと思われるようになった。レバノン南部、あるいはイラクが発火点となる可能性があると見られていた時期に続き、今度は、より広範な地域への影響力を持つシリア東部の支配権をめぐる争いに注目が集まっている。

最近、ワシントン・ポスト紙に掲載された米国の情報機関より漏洩した複数の文書によれば、イランがシリアの武装勢力に、米軍に対する新たな致命的攻撃の準備をさせていること、またロシアと協力して米国を地域から完全に追放するより広範な戦略に取り組んでいることが判明した。

これらの文書によると、シリア東部での支配を再び確立しようとするバッシャール・アサド大統領の企ての一環として、2022年11月、ロシア、イラン、シリアの間で軍事・情報当局によるハイレベル会談が交わされ、米国の資産に対する攻撃キャンペーンを目的とする「調整センター」を設立することで合意した。

この三者会談では、米軍に対する草の根の攻撃キャンペーンを動員するための戦略も取り上げられたと見られている。イランは、シリア東部に草の根的支援の拠点を定着させることを狙っており、そのために地元勢力へのリクルート、一部部族やエリート層の買収、イデオロギー面での影響力を行使するための宗教学校や施設の設置などを行ってきた。新戦略では、こうして立てた代行者を米国のプレゼンスに対する積極的な反乱勢力として動員しようとしている。

シリア東部には米軍1,000人近くが駐留しており、表向きはダーイシュとの戦いを目的としているが、より詳細に言えばイランの後ろ盾を持つ武装勢力の野望を阻止することが狙いだ。イラク、ヨルダン、シリアの国境地帯にあるアルタンフの主要な米軍基地は、ダマスカス、モスクワ、テヘランがシリア東部で支配権を掌握する目論見を阻止するにあたって重要な要素となっている。

ダマスカスとモスクワは、米国がシリアの石油を盗んでいると繰り返し非難している(もっとも、実際には、シリア東部の油田からの収益は、米国が支援するクルド人勢力への資金として提供されることがほとんどだが)。シリアは産油国としては世界上位には入らない。2011年までの生産量は1日あたり約40万バレルだったが、これは国家予算の約25パーセントに過ぎない。とはいえ、アサド大統領をはじめとするさまざまなプレーヤーが、これを手に入れようと躍起になっているのは驚くことではない。

西部で勢力を拡大したアサド大統領とその同盟者らが、東部で力を取り戻し、米国を足蹴にしようとする中、シリアにおける紛争が新局面に入りつつあることを示す兆候は余りある。

バリア・アラマディン

前述の文書には、また、イス

イスラム革命防衛隊のコッズ部隊が準軍事組織に、より強力な徹甲路肩爆弾の使用訓練を施していることが記されている。徹甲路肩爆弾は、米軍車両を標的とするために特別に設計され、2003年以降のイラクで非常に大きな威力を発揮した。2023年初頭にダマスカス近郊で行われたヒズボラとコッズ部隊による試験では、25メートル弱の距離で7.5センチ厚の戦車の装甲を貫通した。武装勢力に詳しい専門家マイケル・ナイツ氏は、「シリアで米国人を殺害する際の(各武装勢力の)リスク受容に大きな変化が起きている」と警告している。

3月に武装勢力による無人機攻撃が米国人の死傷者を出し、相次ぐ報復攻撃の引き金となったのは、シリア東部の米国資産や同盟国に対する何十件もの無人機やロケット攻撃のうちの一件に過ぎない。過激派は、西部でのイスラエルによる空爆に報復するために、東部で米国を苦しめようと動いている。

ウクライナ侵攻をめぐる地政学的緊張が高まる中、ロシアはシリアに駐留する米軍に圧力をかけるために、デコンフリクション協定の違反、米軍基地上空の飛行、米軍機に対する威嚇を積極的に行っている。テヘランは、ロシアへの主要な武器供給国として、モスクワの傘下に以前にも増して接近しているが、リークされた米国の情報文書には、テヘランのアーヤトッラーらがクレムリンの横暴に不満を露わにしていることが示されている。クレムリンは彼らをロシアが主導するトルコとの交渉で爪弾きにしており、そのうえ、イラン側に対するイスラエルからの攻撃を容認している。

イラクの武装組織アル・​ハシュド・アル・シャアビ (民衆動員部隊)は、過去数年間、シリア・イラク国境地帯の支配を強化してきた。そのために、アブ・カマルを中心とする巧緻な要塞築造や、ミサイル貯蔵のための数キロ長に及ぶ深い地下トンネルの掘削などの手を打ってきた。また、シリアを経由して地中海へと至る東西を結ぶ軍需品、麻薬、禁制品の輸送をコントロールすることも狙っている。これらの勢力は、名目上はアサド大統領に味方しているが、勢いを盛り返しているダマスカスによって行動の自由が制限されるのを快く思わないのは無理からぬことだ。

一方、ダーイシュはクルド人勢力などに対する定期的な攻撃を続けている。さらには、シリア国内での勢力を意識的に隠蔽していることも示唆されており、多数の戦闘員が広大なバディア砂漠地帯に潜伏している。

この春にバディア砂漠でトリュフ採集者が合わせて約250人殺された一連の事件は、大方がダーイシュの仕業とみなしていた。しかし、専門家らは、これらの事件のうち最悪のものは、イランの支援の下でこの広大な地域を独占しようと狙う民兵によるものだろうと考えている。2022年には、重要なルートや戦略上の拠点の独占的支配をめぐって、ロシアの支援を受けた民兵とイランが支援する民兵の間で激しい衝突が発生した。

デイルエゾール市は、ダマスカスと東部のクルド人勢力との間の支配の分水嶺に位置している。アサド大統領は複雑な和解プロセスを通じて地元部族の機嫌を取ろうとしているが、親テヘラン勢力はこの不安定な状況を利用して、このより広範な地域で土地と財産を大量に買い占めている。

西部で勢力を拡大したアサド大統領とその同盟者らが、東部で力を取り戻し、米国を足蹴にしようとする中、シリアにおける紛争が新局面に入りつつあることを示す兆候は余りある。

テヘラン、ワシントン、ロシア、ダーイシュ、イスラエル、トルコ、これらの当事者に共通しているのは、シリア領土でそれぞれの外交的意図を追求している点である。このグローバル化した大ゲームにおいて、いずれのプレーヤーも、シリアに平和と安定をもたらそうという真摯な志は持ち合わせていない。この泥沼の唯一の終着点は、シリア人がいつの日か、彼らの権利、自由、主権を尊重する指導者の下で独立を手に入れたときである。それまで私たちは、長い間待たされることになるかもしれない。

  • バリア・アラマディン氏は、中東と英国で受賞歴のあるジャーナリスト、放送作家。メディア・サービス・シンジケートで編集者を務める。数多くの国家元首にインタビューしてきた。
topics
特に人気
オススメ

return to top