最近数週間、世界では長引く極端な熱波が怒涛のように発生している。これは、中東と北アフリカの一部の地域で昨年示されたように、気候変動の暴走の破壊的な影響の冷厳な警告と受け止めなければならない。中東地域が現在経験しているような熱波は、60年前よりも、激烈かつ長時間継続し、平均すると24時間長い。これは、科学者が「ターボのかかった気候変動」と呼んでいるものによって引き起こされている。そして、それは、かつてないほど致命的で不気味な結果に至り得るのである。
こうした猛暑の原因が地球温暖化だけではないことは事実ではあるものの、化石燃料を燃やすことへの依存がこのような極端な事象のリスクと頻度を高めている。国際社会が、排出量の抑制だけでなく文字通り燃える地球が抱える気候変動の暴走のリスクに先手を打つような抜本的かつ大胆な措置を即座に取らない限り、この気がかりな傾向は強まるばかりとなるはずだ。
アラブ地域にとってこの極端な熱波の持つ意味は、深く広いものではあるが、新しいものではない、いくつかのアラブ諸国は、水資源不足の深刻化から農業資源の枯渇、貧困の各段、厄介な政情不安の経緯といった多様な課題に既に苦しめられている。気候変動の継続と深刻化はこうした既存のリスクの悪化に繋がり、食料安全保障に脅威を与え、干ばつや野火、熱ストレス、砂漠化の加速を原因とする数百万の人々の退避にすら結果し得るのである。さらには、気温が容赦なく高いままで熱波が続くと、疾病や死亡が増加する潜在的危険性が飛躍的に高まる。
既に世界で最も乾燥した地域であるアラブ世界は、新常態となってしまった記録的な猛暑により、危機に瀕している。中東と北アフリカに広がる息苦しく高い気温は、例外的な異常現象ではなく、非常に厳しい未来を示す、鳥肌の立つような兆しなのである。今年、エルニーニョ現象によって強まったカロン高気圧とケルベロス高気圧が温室効果ガス排出量の増加と組み合わさって、北半球の一部、特にヨーロッパと東地中海において、生死に関わるような高い気温をもたらしたのだ。
しかし、アラブ世界ではその危険が一層顕著で、乾燥により暑熱の厳しさが増大化している。この熱波は少なくとも後一週間は継続すると予測されている。これは、気候学者が政策立案者に通常であれば警告を発する転換点(換言すれば気候変動の影響が予測の段階ではなく現在進行形で目の当りにされるような転換点)をアラブ地域がはるか昔に通り過ぎてしまっていることを意味している。一層悪いことに、こうした熱波は、アラブ地域の気候記録上の一過性の些事ではなく、その影響は気温計が下がった後も長く留まり、ドミノ効果を引き起こし、既存の課題を一層手に負えないものにし、さらに新たな課題を生み出すのである。
長引く熱波、とりわけシーズン初期に発生する熱波は、人間の生命と健康にとって最大の脅威となる。地球の気候が互いに関連していることの認識と、そして、さらに重要なことだが、人為的要因によって引き起こされた問題を軽減するための対策を講じることの2つが絶対に必要である。結局、1950年以降に観測された温暖化は、ほぼ完全に、人間の活動とそれにより排出されたガスに因るものである。1つの地域での混乱は、直接的にも間接的にも、全世界に波及し拡大し得る。例えば、干ばつや天候の不純は、その多くがアラブ地域の食料輸入元である、気候変動に脆弱な国々における凶作や食料の供給停止へと繋がる可能性があるのだ。
こうした需給のバランスの悪さは、食料価格の高騰に結果する。そして、それは、最終的には、新型コロナ禍後の不均衡な回復や、ウクライナ戦争、グローバルサウスの債務危機によって依然として抜き差しならない状態に追い込まれたままの世界経済に影響を与えることになるのである。アラブ世界は、気候変動の暴走が土地や人々、食料、水、安全保障、エネルギーに与えている影響を減少させるために、より思い切った対策を早急に講じる必要がある。また、国際社会は、このアラブ地域を支援し、破滅的な結果が世界の他の地域に拡大することを防ぐために協力して対処する必要に迫られるだろう。
アラブ諸国が経験している未曾有の熱波や干ばつは、気候変動による偶発的な災厄ではない。それは、大胆で包括的な対策で即座に応えるべき警鐘なのである。手遅れとなってしまう前に、再生可能エネルギーへの全面的移行、気候変動に耐性のあるインフラへの投資、そしてこの危機に対応するための国家間の協力を優先すべき時が来ている。
中東の中心に位置する都市であるドバイで間もなく開催されるCOP28気候サミットは、世界の指導者たちが真摯な取り組みを示し大胆で固い決心に基づく行動を取るための最善の場におそらくなるだろう。ただ単に危機を認識するだけでは十分ではない。この惑星にすむ私たちの取り組みの焦点は巧言や美辞麗句から結果へと移行しなければならない。「プラネットB」は存在しないからだ。
世界気象機関 (WMO)は、今後5年以内に、世界の平均表面温度が産業革命以前よりも摂氏1.5度高くなり重大な閾値を突破すると予測している。この上限を越えると氷床の崩壊や永久凍土の突然の融解、驚異的な海面上昇、さらに長期に及ぶ極端な熱波といった一連の潜在的に不可逆な気象現象が引き起こされると多くの科学者が推測している。
これは、摂氏1.5度の上昇が、単なる目安の数字ではなく、破滅的な気候変動に対する防衛線であり、その防禦を強化しなければならないのだということを私たちに訴えかける。パリ協定は(世界の気温上昇を摂氏2度以下に抑制しそれを摂氏1.5度以下とする努力を追及するという)素晴らしい大志を有していたが、今回のCOP28サミットの世界的な実績評価では想定から危険なほど逸脱してしまっている実情が示されている。しかし、境界線の美点は、それが変革的な行動への道を開くことにある。この場合は、世界をより安全な針路に戻す機会となるのだ。
それでは、大胆で固い決心に基づく行動を示すという観点から、世界はCOP28に何を期待できるのだろうか?
第1に、COP28では、2025年までに世界の排出量を減少に転じさせるという排出削減目標の強化が必要である。パリ協定は開始点だったが、COP28は誓約と熱意を倍増させて、排出削減を達成するために各国が片務的に実行可能なことを拡張する場となる。もちろん、そのためには、化石燃料の消費の段階的廃止を速やかに実行し、グリーンエネルギーへの積極的な取り組みにターボをかけることが必要となる。
アラブ世界ではその危険が一層顕著で、乾燥により暑熱の厳しさが増大化している。
ハフェド・アル・グウェル
第2に、発展途上国の低炭素経済への移行を支援するために、官民両部門による資金の拡大を行う方策の確立に取り組まなければならない。目標とするのは、数十億米ドルどころではない。私たちは、数兆米ドル規模の資金確保に向かって大きく躍進する必要がある。COP28においては、緩和策に留まらず、最も脆弱な各国の気候の回復と適応のための、一層実質的な投資計画を構築しなければならない。結局、摂氏1.5度目標の維持のためには、世界は今後7年間で35兆米ドルという驚くべきコストをかけて、再生可能エネルギーの容量を増大させる必要があるのだ。補足すると、全世界の国内総生産の推定値は、112.6兆米ドルに過ぎない。
最後に、COP28は、計画の立案や進捗状況の評価を越えて、その先まで進む必要がある。このサミットは、実際の行動の出発点となるべきなのだ。石油と天然ガスの主要生産国であるUAEの主催によりドバイで開催されるCOP28は、化石燃料依存の経済がクリーンエネルギーによる未来に向けて大きく飛躍しなければならない事を明確に訴えかけている。この会議は単なる会議であってはならない。それは、絶体絶命の断崖から脱出しようとする世界全体の意思の証しとなるべきである。COP28の成功は、ただ単に危機を認識するというだけではなく、私たちの行動する能力、つまり、重層的な困難に適応しさらには繁栄さえする私たち固有の創意工夫の能力を示すことになるだろう。
もし、これが渡るべきルビコン川であるのならば、私たちは勇気と決意を持って進むべきである。