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気候変動への対応が必要とする、党利党略上の点数稼ぎではない真のリーダーシップ

ジョージア州ジュリエットのシェーラー石炭火力発電所の遠景。2017年6月3日。(AP)
ジョージア州ジュリエットのシェーラー石炭火力発電所の遠景。2017年6月3日。(AP)
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06 Aug 2023 11:08:44 GMT9
06 Aug 2023 11:08:44 GMT9

この7月が記録上最も暑い月、さらには、過去12万年間で最も暑い月であった可能性すらあるというニュースをほとんどの人々が我関せずと他人事のように受け止めたことは、このニュースが伝えている事実と同程度に憂慮すべきことである。

より高い緊迫感を持って、状況に対応するために戦略的計画の優先順位を上げるどころか、まるでそれが別の惑星の話で私たちの唯一の惑星である地球に直接影響を与える事ではないかのようにほとんどの人々がこのニュースを扱っていた。これは、自らの行動や習慣を変化させることを頑なに拒み、否定する自殺行為であり、人類と地球そのものに破局をもたらす恐れがある。

世界が、英国人の言う古の「電撃精神」を彷彿とさせるものと、気候変動問題に最前線で対応するリーダーシップを必要としている現在、一般的な態度はポンペイの最後の日々のそれによく似ている。

理不尽な事は、私たちが、気候変動によってどのような脅威に直面することになるのかを現在では正確に知っているという事実だ。誰が、何が、気候変動を引き起こしているのか、それに対して何が為される必要があるのか、もう長い間私たちには明らかなことだった。そして、地球温暖化対策として必要な措置を取らなければどのような結果が待ち受けているのかについても私たちは知悉している。

さらには、この夏、南ヨーロッパの気温が摂氏45度に達し、ギリシャやイタリア、スペインで激しい山火事が発生したのに留まらず、米国やカナダでも同様の山火事が発生している。

こうした山火事は、また、人命や資産、生計の手段の損失や多数の人々の避難を引き起こした。しかし、各国政府が気候変動に焦点を置くことは依然として滅多に無い。そして、もし気候変動への取り組みを行ったとしても、それは、大抵の場合、建設的な展開にはならないのである。

この進捗のスピードでは、世界の平均気温は、部分的にエルニーニョ現象の影響であるにせよ、一時的には、産業革命以前よりも摂氏1.5度の上昇という目安を恐ろしいことに越えてしまうのではないかと懸念されている。

気候変動は私たち全員に影響を与える。そして、言うまでもなく、社会で最も脆弱な人口層である老人や子供、病人や障害のある人々、貧しい人々が最も甚大な被害を受ける。しかし、地球温暖化を巡る政治的、社会的、経済的な議論は、論争の余地の無い証拠の山を無視したまま行われている。

温室効果ガスの排出量の多大な部分について責任を負う欧米諸国においては、これは依然として議論の余地の大きい党利党略的な問題であり、得票のために冷笑的に利用されたり、イデオロギー的または宗教的な意図によって乗っ取られた状態であったりしている。

当選した議員の一部は、不安感を与える全体像を有権者に見せたり、この問題に真っ向から取り組むことで得られる真正のチャンスについて一貫した説得力のある展望を示したりする勇気を欠いている。

最近の2度の英国での補欠選挙では、気候変動は選挙運動中重要な争点ではなく、保守党は完全な敗北を喫していずれの議席も失ってしまった。一方、アウター・ロンドン選挙区での補欠選挙戦では、保守党は、低排出ガス基準を満たさない車の運転手に罰則を課す政策を実施した労働党に属するロンドンのサディク・カーン市長への攻撃に全力を注いだ。その結果、保守党は何とか議席を確保出来たのだった。

この対比は、英国で来年行われる総選挙において気候変動が主戦場となる見込みであることを意味している。保守党は、おそらく、自動車の運転者に対して敵対的であるとして労働党を非難することだろう。保守党のボリス・ジョンソン前党首がロンドン市長時代に導入した超低排出ゾーンが空気の質を改善し、毎年数千人の命が救われていることを保守党自身がよく知っているにも関わらずである。

とはいえ、労働党にとっては、現在の生活費危機の状況下では、懲罰的な気候関連政策の導入だけではなく、手の届く価格の代替物や補助金の導入も重要なポイントとなる。

気候変動は私たち全員に影響を与える。そして、言うまでもなく、社会で最も脆弱な人口層である老人や子供、病人や障害のある人々、貧しい人々が最も甚大な被害を受ける。

ヨシ・メケルバーグ

二酸化炭素排出実質ゼロに向けたEUの主要な取り組みの1つである、ガスボイラーのヒートポンプへの置き換えは、計画も実行も劣悪だったことが明らかとなり、その結果、政治的反発が招かれ、意見が分裂してしまった。

一方、米国では、建国以来最悪の敵対的政治の時期に、ホワイトハウス入りを目指す共和党のロン・デサンティス氏が「天候の政治化」の拒否を言明し、大統領選挙運動を開始した。

そうすることで、デサンティス氏は気候変動が地元のフロリダ州に既に与えている影響を都合よく看過した。フロリダ州知事としてデサンティス氏は、州内の都市が自然エネルギーへの100%転換を目標とすることを禁止する法案を提出している。

より進歩主義的な考えを持っているカナダにおいてさえ、ジャスティン・トルドー首相は、ネットゼロ達成のための長期計画の遂行に苦闘している。

気候変動を食い止める望みが薄れるにつれ、漸進的な調整や、さらには、凝り固まった考えの政治家たちの間で合意形成を試みるような余裕は無いことが増々明白になっている。むしろその代わりに、党派政治的相違を捨て去ることの出来る、誠実さと責任感を持った政治家全員を動員することが急務となっているのだ。こうした政治家動員のモデルは、新型コロナ禍やウクライナ戦争への対応の態勢に似たものになるはずである。

平時の民主主義国家では、どれほど緊急あるいは重要な問題であっても、おそらくパンデミックを例外とすれば、重要な問題では、コンセンサスに至ることはほぼ不可能であることを歴史は示している。

苦痛に満ちた犠牲を払い社会全体を結集して深刻な脅威や他の危機を克服するにあたっては、破局が目前に迫らないよう、戦時体制のような地歩を固めることが必要となる。

人類は持続可能な開発を1世代以上にわたって軽視してきたので、現在の状況は戦時下のようになっており、それを前提として対応しなければならない。政権側と野党側は、共通の基盤を見出して同じ方向へ向かって総力をあげる必要がある。

不幸にも、現在は、その全く反対のことが起きている。そして、それが、できるだけ多くの人々にとって費用対効果が高い、手の届く範囲の解決策を見出して実行することを非常に難しくしている。環境は、地球を救うことよりも選挙に勝つことに関心のある人々の間で、安っぽい政治的な点数稼ぎをするための道具になってしまったのだ。

気候変動への対処は、人々に課税したり、不安感を煽ったりするだけではなく、地球規模で持続可能な新たな計画を立案することでもあるべきだ。

世界規模の大災害を防ぐことが、もちろん、本来の目的である。しかし、それと並行して、賃金のより高い雇用が創出され、大気や陸地、そして海洋がよりクリーンになる、環境に配慮した全く新しい経済と社会についての刺激的な構想を私たちは提示しなければならない。そして、生活の質と平均余命が改善するように、また、人々が火事や洪水で自宅を放棄せざるをえなくなることがないように、生物多様性が保全されるようにする。こうしたことが望ましいだけではなく可能でもあることを示す実例は豊富にある。

政治家は2つの種類に分類できると、英国労働党の政治家であった故トニー・ベン氏が語ったことがある。「道しるべ」と「風見鶏」の2つのタイプである。「道しるべ」は自身の価値観や原則、世界観を堅持し続ける。「風見鶏」は、「世論調査の結果を精査し、フォーカスグループと会談し、政治活動顧問と相談するまでは意見を持たない」というタイプである。

気候変動のような深刻な危機においては、断固たる態度で目的を掲げて先頭に立つリーダーを私たちは必要としている。しかし、残念ながら、吹きつける風に振り回される「風見鶏」が多すぎるのが現状なのだ。つまり、あらゆる「道しるべ」タイプの政治家が姿を現し、可能な限りの声を張り上げて意見を述べ、私たちに道筋を示すことが何よりも重要なのである。

  • ヨシ・メケルバーグ氏は国際関係学教授で、王立国際問題研究所の中東・北アフリカプログラムのアソシエートフェローである。メケルバーグ氏は国際的な媒体や電子メディアに定期的に寄稿している。
    Twitter: @YMekelberg
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