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トルコとイラクが新たに模索する活発な二国間関係

バクダッドで、トルコのハカン・フィダン外相と写真撮影に応じるイラクのフアード・フセイン外相(右側)。(AFP)
バクダッドで、トルコのハカン・フィダン外相と写真撮影に応じるイラクのフアード・フセイン外相(右側)。(AFP)
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26 Aug 2023 10:08:24 GMT9
26 Aug 2023 10:08:24 GMT9

先週、トルコとイラク両政府の間で、閣僚訪問を含む、両国間の将来についての重要な含意を有したやりとりが活発に行われた。元諜報機関の長だった、トルコのハカン・フィダン外相が、就任以来初めてバクダッドとエルビルを訪問した。他方、イラクのハヤン・アブデル・ガニ石油相は、2日間の日程でアンカラを訪問し、2国間関係のありように関わるいくつかの課題について協議を行った。

トルコとイラクの関係は、歴史的に見ると、いくつかの未解決の課題により相応の浮き沈みを経て来ている。対イラク関係におけるトルコの姿勢は、クルディスタン地域政府(KRG)や、クルディスタン労働者党(PKK)、イランの及ぼす影響という3つの重要な要素に強い影響を受ける。また、対トルコ関係におけるイラクの姿勢では、両国間の国境にまたがる水問題や石油輸出関連の課題、自国の復興へのトルコ政府の経済支援というやはり3つの要素が重要事項となっている。何年もの間、こうした問題が組み合わさり、トルコとイラクの関係は大規模な混乱を来していた。

フィダン外相の訪問により、トルコの新たな対イラク政策が形成され、その結果、トルコ政府がイラクとの課題を細分化し、両国が利益を享受できるようになる可能性は開かれるのだろうか? その公算は大きい。しかし、それは、両国間関係において、政治よりも経済的アジェンダを駆動力とする新たなアプローチによるところが大きいように見受けられる。

フィダン外相のエルビル訪問は、KRG・イラク政府間のバランスの取れた政策を希求するトルコ政府の姿勢を示している。トルコ政府はイラク政府とKRGの間で繊細な均衡を保つことを目指している。しかし、2003年以降にイラクが内戦やテロリズム、政治的紛争に明け暮れるようになってしまった際、このトルコ政府の方針は厳しい試練にさらされた。イラクでは、米国の侵攻以来、政権を担当する首相が次々と入れ替わり政治的に不安定であったのに対して、トルコでは指導者が不変であったことも大きい。

トルコとイラクの関係は、歴史的に見ると、いくつかの未解決の課題により相応の浮き沈みを経て来ている。

シネム・センギス

トルコとイランの関係が不安定であったことから、トルコ政府はイラク政府とエルビルのKRGの対立に付け込み、KRGとの政治的、貿易関係を緊密化するといった政策を取るようになったのだった。しかし、2017年に行われたクルド独立に向けた住民投票が失敗して以来、トルコはイラク政府とKRG双方への対応において新たなアプローチを用いるようになった。それは、どちらか一方の優遇ではなく、より均等な対応を行うという取り組み方だった。

PKKの問題は、トルコ政府のKRGとイラク政府それぞれとの関係において難題化している。KRGについては、トルコ政府は、優勢なクルディスタン民主党(KDP)とそのライバルであるクルディスタン愛国同盟(PUK)の2つの主要政治団体との関係強化に努めている。トルコ政府と密接な政治的・経済的な繋がりを維持しているKDPは、イデオロギー的・政治的な相違からPKKと反目している。PUKは、トルコ政府とは同様の関係を持たず、その恩恵を享受することもなく、イランと緊密な関係を維持していることにより、PKKとの結びつきをトルコ政府から疑われるに至っている。トルコ政府は、現在、PUKへの接近を試みており、KDPの場合と同様の手法でPKK問題に対処しようとしている。

トルコのイラクでの軍事作戦やトルコがイラクに設置した軍事基地は、長い間、両国間政府の関係を試練にさらしてきた。しかし、近年では、イラク政府は、特に経済面での関係の維持のために、トルコ政府との軋轢を避けている。トルコのフィダン外相は、バクダッド訪問中に、PKKをテロ組織として指定するようイラクに対して要請した。

トルコ国家情報機構の元長官であるフィダン外相は、トルコの対イラク政策の主要な立案者の内の1人であり、イラク国内のクルド人社会で政治的影響力を持った有力者との交流もある。フィダン氏の外相就任は、外交的な取り組みが安全保障や経済関連の目的と統合され得るという点で、トルコの対イラク政策における著しいパラダイムシフトへと繋がるかもしれない。

トルコがイラクにおける自国の役割の拡大に躍起となる理由は他にもある。イラクは、地政学的に、トルコにとってだけでなくイランにとっても重要であり、地域的な影響力をめぐって競い合うトルコとイランのライバル関係の中心的存在となっている。このトルコとイランの対立は、イラクの政治情勢にも強い影響を与えており、トルコの政策立案においても重要な意味を持っているのである。

新たなアプローチでは、両国間関係において、政治ではなく経済的アジェンダが駆動力とされている。

シネム・センギス

イラクの観点では、貿易とエネルギーの要素が、対トルコのアプローチに強い影響を及ぼしている。ユーフラテス川とティグリス川の共有水をめぐる論争は長年継続しており、トルコとイラクの両政府間の関係を時折緊張させてきた。フィダン外相の訪問中に、トルコとイランの両政府は常設の合同委員会を設置し、水資源に関連した問題の解決を計ることに合意した。これは、水問題を争いの種子のままにしておくのではなく、協力のための領域に変化させる最善の方法である。

2つ目のポイントとして、石油問題がある。イラクの石油相は、5ヶ月間近く停止されているトルコのジェイハン港経由のKRGの石油輸出再開の可能性について協議するためにトルコを訪れた。しかし、トルコ、イラクの両者は石油輸出の再開についての合意には至らなかった。

もう1つのポイントは、イラク再建へのトルコの支援である。2018年初頭、トルコ政府はイラクの再建を支援するために50億ドルの借款を提供したがっていた。イラク政府は、大規模な開発道路建設(イラク南部の都市バスラからトルコまでの高速道路と鉄道線路の建設計画で、ドライ・カナル計画としても知られる)のための支援をトルコ政府から受けることを望んでいる。これは、トルコとイラクの重要な協力領域である。

トルコのフィダン外相のイラク訪問は、レジェップ・タイイップ・エルドアン大統領の訪問(日程は未定)の地ならしのためだったと考えられている。今回の外相訪問は、トルコが、他の地域諸国に対する取り組みと同様に、イラクに対しても経済関係を最優先する見込みが高いことを示している。そして、この姿勢は、時間が経過するに従って、他の分野での協力の基盤を構築することに繋がるだろう。PKKや水資源、石油といった論争を引き起こしそうな課題それぞれを異なる案件として扱うことは、また、トルコとイラクの関係が新たに活発さを獲得することにも繋がっていくはずである。

  • シネム・センギス氏はトルコと中東の関係性を専門とするトルコの政治アナリストである。 ツイッター: @SinemCngz
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