アラブニュース
リヤド:ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領によるウクライナ東部の領土の併合を正式に承認する住民投票と合意を、「人身御供に基づく血なまぐさいPR(芸当)」と呼んだ。
ゼレンスキー氏は『フランクリー・スピーキング』の司会者であるケイティ・ジェンセン氏による独占インタビューに応じ、キーウからZOOMビデオリンク経由で「彼らがどのような住民投票を行ったのか、私にはわかりません。ウクライナにはそのような住民投票はありませんし、そのための法律さえ一切ありません」と語った。
ルハンスク、ドネツク、ザポリージャ、ヘルソンの各州で行われた住民投票では、圧倒的多数がロシア連邦への加盟に投票したが、多くの国際監視団はこのプロセスに不正があったと考えている。
ゼレンスキー氏はまた、戦場での大勝利についてのプーチンの最近の主張に反論した。ウクライナ軍は先週、ロシアに併合された4つの地域の1つにある、戦略的に重要な東部の町ライマンを奪還したばかりであり、それを受けてロシア政府は軍の「撤退」を「より有利な路線」で行うと発表したのだ。
「彼らが宣言したことは、彼らができることとは明らかに異なります。彼らは我々の領土、我々の国家を占領すると言いました。しかし戦争が始まって8ヶ月間で、我々はさらに別の都市、ドネツク州のライマン市を取り戻したのです。そこはまさに、ロシアが数日前に完全占領したと宣言した都市です」とゼレンスキー氏は語った。
「我々はロシアと違って、ロシアの領土には関心がないことを、ロシアとロシア国民に保証できます。我々は、1991年の国際的な承認に基づく私たちの領土と国境に関心があるのです」
キーウからZOOMビデオリンク経由で、『フランクリー・スピーキング』の司会者であるケイティ・ジェンセン氏による独占インタビューに応じるゼレンスキー氏。(スクリーンショット/AN Photo)
ウクライナ戦争は、エネルギー貿易の変化、石油・ガスの価格上昇、サプライチェーンの再構築により、この地域と世界の地政学的・経済的秩序を揺るがしている。
600万人以上のウクライナ人が近隣諸国に逃れた。一方、各国がどちら側につくかの選択を迫られ、外交上の緊張が高まっている。また、世界の食料安全保障に対する懸念も高まっている。
ロシアがウクライナの4つの地域を併合したというニュースは、戦争に明確な終止符が打たれることはないように思われることから、世界の指導者たちを再び緊張させた。
ゼレンスキー氏は、ウクライナが最終的に成功するための要素が3つあると考えている。
「国民が団結し、ちょっとした争いや歴史的な食い違いを捨て去ることができたなら、世界中のどの国にとっても大きな勝利だと思います。これは非常に重要なことです」とゼレンスキー氏は述べた。
「もう1つの重要なステップは、我々が世界第2位の軍隊に対して前進していることであり、我々は真の強さは軍備ではなく団結力にあることを示すことができます」
「勝利への3つめのステップは、我々が欧州と全世界をひとつにまとめることができたことです。ご存じのように、以前は誰もが相手を支持したりはしませんでした。今、我々はこの統一を目の当たりにして、今後は国際的に対処することが多くなり、その数はさらに増えるとみています」
ゼレンスキー氏の楽観論とは裏腹に、ロシア政府は新たに併合した地域を手放さず、利用できる手段はすべて使って防衛すると宣言している。チェチェン共和国の指導者であるラムザン・カディロフ氏は、ウクライナにおける低級核兵器の使用を提言するまでになった。
ゼレンスキー氏はこれらの脅しを一蹴し、カディロフ氏を「国民に選ばれてもいないテロリスト」と呼んでいる。
「大丈夫、大したことではありません。現代社会で、核兵器で他人を脅すことができるだろうか。ええ、世界中にはテロリストが大勢います。殺し屋はいても、そのようなテロリストと話すようなことはできません」とゼレンスキー氏は述べた。
併合以来、ゼレンスキー氏はウクライナのNATO加盟プロセスの加速を求める要請書に署名している。しかし多くの懐疑論者は、特に米国政府からの回答が即座の行動を示唆するものではなかったことを考えると、これを不毛な要求だと見ている。
土曜日、米国の国家安全保障問題担当大統領補佐官であるジェイク・サリバン氏は、ウクライナのNATO加盟申請について米国は「別のタイミングで検討すべき」だと考えていると述べた。
サリバン氏は、「現時点では、我々がウクライナを支援する最善の方法は、ウクライナでの実践的な現場支援によるものであり、ブリュッセルでのプロセスは別の時期に行われるべきだと考えています」と述べた。
それにもかかわらずゼレンスキー氏は、各国が「言葉だけでなく、事実だけに注意を払う」べきだと述べた。
「NATO加盟国である10の同盟国から、ウクライナを全面的に支持するとの声明がありました」とゼレンスキー氏は述べた。ウクライナは「できるだけ早く」NATOに加盟すべきである。
「時間的な意味でいつなのかではなく、むしろ地理的な意味で言いたいのです。国境に立った時にそれが実現するかもしれないと私は考えています」
一方、俳優から戦時下のリーダーになったウクライナの大統領も、プーチンからの交渉の申し出を拒否し、大統領が交代しない限り交渉に応じないという主張を固持した。
「我々は警告した。このようなインチキな国民投票を行うならば、今後ロシア連邦大統領との交渉には応じない。ロシアの大統領が法律や国際法、憲法を尊重できず、我が国の憲法だけでなく、自国の憲法も尊重できないということになるからだ。国民投票の結果がどうであろうと、我が国の領土を侵害することは許されない」とゼレンスキー氏は述べた。
「彼と交渉すべきだろうか? 彼は大統領ではない」
しかし、囚人の交換や、黒海の閉鎖を解除して、ウクライナ南部の港からの穀物を通過させることなど、さまざまな緊急課題の解決に向けた仲介やイニシアティブの余地はあるようだ。
サウジアラビアは先月、ロシアとウクライナの囚人交換を仲介し、紛争国間において重要な外交的役割を果たしたばかりだ。
「サウジアラビアの尽力に感謝したい」とゼレンスキー大統領は述べた。「皇太子とロシアの関係を考えれば、うまくいく可能性は高かったと思うし、この目覚ましい成果をとてもうれしく思う」
この取引により、10人の外国人を含む300人近くが祖国に帰り、戦争が始まって以来得られた非常に少ない成果のうち最初のものとなった。
サウジアラビア外務省は当時、このイニシアティブは、ムハンマド・ビン・サルマン皇太子の支持に基づき、ロシア・ウクライナ危機に対する、人道的イニシアティブの実現に向けた皇太子の継続的な努力の一環であると述べている。
「達成すべき目標や、そのような取り組みの結果についてであれば、どんな提案でも受け入れる」とゼレンスキー大統領は述べた。
ゼレンスキー大統領はインタビューの中で、プーチンが最近主張した戦闘における大勝利を否定した。(写真/スクリーンショットAN)
サウジアラビアが仲介を試みる一方で、イランはウクライナ高官を欺き、ロシアにドローンを売ったとして非難されている。
民間人を狙っていた、ロシアに売られたイラン製ドローン神風機をウクライナ軍が撃墜、ゼレンスキー大統領はイランの駐ウクライナ大使の承認を取り消した。
「ロシア連邦政府と同様にイラン政府も嘘をついていると考えなければならないのは悲しいことだ。イランの指導者とトップレベルで交渉していたからだ。大使館に問い合わせて、外務省が大使から聞いたところでは、何もロシアに売っていない、イランのドローンではない、そのようなことは一切ないと断言された」と述べた。
「イランのドローンを何機も撃墜したが、それらは国民を殺すためにロシアに売られたもので、あなたの言うとおり、民間インフラや民間人、平和な市民を攻撃するために使用されている。だから、イランの外交官を国外に追放した。彼らとは何も話すことは何もない」
戦争が続くなか、ゼレンスキー大統領は未来にも目を向け、アラブ諸国にはウクライナの再建に投資する大きなチャンスがあると力説する。
「アラブの企業にぜひ進出してもらい、アラブ諸国に我が国で働いてもらいたい。ビジネスや財政などの面でよい条件を提示する準備がある。そして、復興を考えてウクライナに来ようとするすべての国のために、野心的な目標が1つある」
「民間企業やアラブ諸国にも可能性はある。これは国、国家全体の再建、復興に関わることだからだ」
しかし、5月に行われたアラブニュース/YouGovの最近の調査では、アラブ人の過半数(66%)がロシアとウクライナの紛争に無関心であることがわかった。また、過半数のアラブ諸国回答者は、戦争の責任はロシアではなく、ジョー・バイデン米国大統領と、数年前にウクライナを加盟させなかったNATOにあると考えており、ゼレンスキー大統領はこの見解に異議を唱えた。
「間違いなくこの戦争はロシアが始めたもので、責任はロシアだけにある。それを避けるために、結束した西側諸国に他に何ができた? 他にできることがあったかもしれないが、米国のせいにして、戦争の責任を米国に負わせるのは正当ではないし、真実でもない。責任はロシアだけにある」と述べた。
湾岸アラブ諸国協力理事会(GCC)諸国、地中海の東側沿岸国、北アフリカの国々では、紛争の責任はNATOにあると考えられることが多いが、責任の所在に対する考えはもっと均衡している。湾岸諸国では、例えば、ロシア(19%)ではなくNATO(23%)に責任があると考える人は僅かに多いだけだ。
昨年3月、ロシアの侵攻を非難する国連決議が採択されたにもかかわらず、サウジアラビア、エジプト、UAEなどの主要アラブ諸国は大方中立を保ち、ロシアとウクライナの仲介をしたいとの意向を表明した。
*この紛争が始まって以来、アラブニュースは様々なロシア政府関係者に何度も連絡を取り、コメントを求めてきたことは留意していただきたい。最近では、外務省のマリア・ザハロワ報道官に「フランクリー・スピーキング」への出演を依頼した。
現在まで、アラブニュースの取材依頼はすべて拒否されている。しかし、アラブニュースは職業上の義務に基づいて、ザハロワ報道官の「フランクリー・スピーキング」への出演依頼が今も有効であることを改めて表明し、報道官が承諾するなら、番組に出演していただきたいと考えている。