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食料安全保障を強化するべく農業自給を追求するサウジアラビア

農場の航空写真。2014年9月11日、サウジアラビア北部。(AFP)
農場の航空写真。2014年9月11日、サウジアラビア北部。(AFP)
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05 Sep 2023 12:09:37 GMT9
05 Sep 2023 12:09:37 GMT9

ジェッダ:サウジアラビアの国土の約90%がほぼ砂漠であり農業に適さないという事実を考えれば、国内農産物生産量の向上と輸入食料依存度の低減を目的とした新たな農業ブームが同国で起こっているなどと思う人はほとんどいないかもしれない。

アラブ世界の大部分が食料不安やサプライチェーン混乱に苦しむ中、サウジの取り組み、投資、技術革新は、世界有数の乾燥地域において多くの食料品目で自給自足を達成することの意味を再定義している。

総合統計庁の農業統計報告書によると、サウジアラビアは現在、デーツ、生鮮乳製品、食卓卵の生産で自給率100%を達成している。

サウジアラビアはこれら3品目を国内需要以上に生産している(それぞれ国内需要の124%、118%、117%)という。輸出余力があるということだ。

サウジはジャガイモ生産においても進んでおり、国内需要の80%を自給している。その他の品目の国内自給率は、鶏肉が68%、トマトが67%、赤肉が60%、ニンジンが50%、魚が48%、タマネギが44%となっている。

サウジは食料自給率向上のために二つの障害を乗り越える必要がある。新記録の猛暑や土壌劣化をもたらしている気候変動と、降雨量が減少し天然淡水の備蓄が限られる中での水不足である。

紅海沿岸地域の農業開発を目的とするイニシアティブ「レッドシー・ファームズ・コーペラティブ」(タマラ)のCEO兼副会長であるジャマル・アル・サードゥーン氏はアラブニュースに対し、サウジは「計画を通して、そして長い時間をかけて」現在の食料自給水準に達したと指摘する。

食料自給に向けたサウジアラビアの取り組みは1980年代に始まった。同国はその10年で「農業計画を策定し、乳製品、デーツ、鶏肉、食卓卵などの重要な分野や製品に注力し始めた」とサードゥーン氏は言う。

それは投資家に支えられ、協議会に支援され、国産品の良好な国内市場に後押しされた。これらの食料品目の一部は近隣諸国にまで輸出され、石油国サウジも単なる食料輸入・消費国ではなく食料輸出国になれるということを示した。

砂岩の合間にあるデーツ農場。2018年3月31日、サウジアラビア北西部の町アル・ウラー近郊のフライバ遺跡。(AFP)

現在、サウジの農業関連企業や投資家は現代技術を導入して品質と生産量を向上させ、世界中の農業関係者との間でベストプラクティスに関する学習や意見交換を行っている。

「サウジ国内に多くのテック企業が存在し、農業省が国際展示会に定期的に参加していること」が、専門家と会って自身の分野の最新技術について知る機会を国内の農業部門関係者に与えていると、サードゥーン氏は指摘する。

何人ものエコノミストが、慢性的な食料不安の中、特に国内消費を輸入に大きく依存している国における食料自給の重要性を強調しようとしてきた。

世界の食料システムの相互連関性が増すにつれ、食料不安のリスクも高まっている。今世紀だけでも、2007~08年の世界食料価格危機の際に食料自給の重要性が自明のものとなった。

より最近には、コロナパンデミックやロシア・ウクライナ紛争などの世界情勢を不安定化する出来事によって、食料安全保障の重要性と、価格高騰や食料不足を回避するために多くの国が食料自給を追求する必要性が改めて浮き彫りとなった。

サウジ政府は、食料安全保障に沿って食料自給を達成する必要性に後押しされ、海水淡水化のための現代技術や灌漑のための先進技術に投資してきた。

そのような投資は、国内の貯水をより効果的に活用し、不必要な消耗を回避することを可能にする。これは特に、天然淡水資源、特に地下水が限られていることを考えると重要だ。

アラビア半島の大部分では降雨は希少であるうえ、その希少な雨水の多くは砂漠の砂の中に消えるか即座に蒸発するかである。

100万平方マイル以上あるこの半島には恒常河川や小川がほとんどない。また、サウジアラビアの南部地域は世界最大級の砂漠で覆われている。

アラビア半島の約80%を占めるサウジアラビアは、半島内で最も乾燥した国だ。水資源は乏しく、気候条件は厳しい。それらの条件が引き起こす地下水の塩水化は、同国の農業部門に影響を与える一般的な問題となっている。

サウジアラビアは海水淡水化技術への投資の一環として、海水淡水化プラントを海岸沿いに建設してきた。その淡水は灌漑用水などの農業用水として使用される。

サウジ政府は海水淡水化のための現代技術や灌漑のための先進技術に投資してきた。(Shutterstock)

このプロセスにより、淡水備蓄の使用量削減に加え、水に乏しい乾燥地域で作物の栽培が可能になり、農地として耕作可能な土地が増える可能性がサウジにもたらされた。

また、サウジは帯水層の搾取を防ぐために、地下水採取に対して厳しい規制を課している。こういった先を見越した措置を取ることで、この必要不可欠な資源の維持・保存に取り組んでいるのだ。

サウジは様々な作物、特に現代技術を必要とする作物において注目に値する自給率を達成している。それは主に、統合された水管理システムのおかげである。このアプローチにより、農業用に消費される水の割合が86%から70%へと顕著に減少した。

サウジ当局は、局所的垂直栽培技術や水耕栽培(土を使用せず、限られた量の水だけで植物を栽培する技術)という選択肢も模索している。

サウジアラビアは海水淡水化技術への投資の一環として、海水淡水化プラントを海岸沿いに建設してきた。その淡水は灌漑用水などの農業用水として使用される。(サウジ海水淡水化公社)

これらの技術革新は、小麦、大麦、デーツなどの必要不可欠な作物の国内栽培を後押しすると同時に、これらの作物の国外依存度を低減させている。

そういった成功にもかかわらず、サウジアラビアは依然として国民が消費する食料の大半を輸入に大きく依存している。しかし、国際市場に依存したままでは食料自給率100%を達成できないことを当局は認識している。

その結果、サウジ農業開発基金はこの夏、温室での野菜生産、魚やエビの養殖、養鶏などを営む小規模業者への融資を承認した。この政策のもと、多くの人が「地産地消」商品と呼ぶものを支援するために、業者に合計4億ドルの融資が提供された。

タマラのアル・サードゥーン氏は、農業協同組合に対する支援や、現代技術、持続可能な灌漑システム、有機農法の導入を視野に農業・畜産を発展させる取り組みが政府によってなされていることを強調する。

そういった取り組みには、紅海沿岸地域における農業・畜産の発展も含まれる。この沿岸地域では近年、農業開発のための拠点が複数作られており、地域の小規模な農家がより先進的な農法を導入して生産量を高めている。

サウジの企業・団体は、農家が現代的で持続可能な農法に移行するのを支援している。(Shutterstock)

これらの農家が現代的で持続可能な農法に移行するのを支援うえで、タマラのような企業・団体が重要な役割を果たしている。これらの企業・組織は、必要不可欠な資源を節約しつつ高品質な農産物の開発を促進することを目指している。

サウジアラビアは国内生産を強化しているものの、国外からの輸入に背を向けているわけではなく、将来の世界的ショックに備えて食料調達先の多角化を進めている。

実際、学術誌「フード・ポリシー」に掲載された2017年の論文「食料自給率:その意味と、それが意味をなす時を理解する」の著者は次のように主張している。「この問題に関する政策選択は、国産食料のみに依存する政策と完全に開かれた食料貿易政策という両極端の間の単純な二者択一とは程遠い」

サウジアラビアの経験は、予測不可能で不確実な世界において食料自給の達成という目標を精力的に追求し、食料不安に取り組んでいる国の顕著な例となっている。

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