ニューヨーク：カラフルでアニメーションのような音楽の世界「KPop Demon Hunters」は、誰もに人気だ。一般の人々は、お気に入りのアイドルを応援するTシャツを着て、ライトスティックを振りながらスタジアムステージを夢見心地で眺めている。彼らは叫び、泣き、応援し、グッズを購入する。

だから、ソニー・ピクチャーズ/ネットフリックスの映画自体が同様の盛り上がりを見せ、ストリーミングサービスのグローバルランキングで首位を獲得したことは、さほど驚くべきことではない。映画は架空のK-POPガールズグループHUNTR/Xが悪魔と戦う物語で、ファンたちはアート、カバー、コスプレ、振り付けなど、映画への情熱をインターネットに溢れさせている。

そして、ヒット作は映画だけではない。 「KPop Demon Hunters」のサウンドトラックはチャートを制覇し、ビルボードのサウンドトラックチャートで1位、全ジャンル対象のビルボード200で8位に初登場した。

「KPop Demon Hunters」が今年の驚きの成功物語となった経緯を解説する。

音楽の伝統とK-POPが称賛される

「KPop Demon Hunters」のサウンドトラックは、ジャンルを代表する最高のアーティストを起用している。その中には、YG、Blackpink、2NE1などとの仕事で知られるスーパープロデューサー、テディ・パークが共同設立したK-POPレーベル「The Black Label」とのコラボレーションも含まれる。このレーベルは、映画の主人公であるトリオHUNTR/Xのモデルとなったエンパワーメントを重視したガールズグループを輩出している。

これが、このミュージカル映画のサウンドトラックが独自性を確立している理由の一つだ。K-POP専門の音楽ジャーナリスト、ジェフ・ベンジャミンは「制作陣は本当に徹底したリサーチを行った」と語る。

実際、彼らは多くの調査を行った。監督の1人、マギー・カンは、チームが「ファンとアイドルを非常に具体的な形で表現すること」を最優先し、K-POPファンを失望させないよう努めたと述べた。

彼らは、至る所で聴かれている影響ある音楽からインスピレーションを得た。例えば、架空のライバルボーイズバンドSaja Boysのヒット曲「Soda Pop」は、90年代のK-POPグループH.O.T.を引用している。そして、それは成功した。「KPop Demon Hunters」は2025年の最高チャートを記録したサウンドトラックで、その8曲がビルボード・ホット100にランクインした。

全ジャンル対象のビルボード200で2位を記録した。参考までに、ロードの「Virgin」とジャスティン・ビーバーの「Swag」も同じ記録を達成している。

ある意味では、2022年にビルボード200で1位を獲得し、ヒット曲「We Don’t Talk About Bruno」を生んだディズニーの「Encanto」を想起させる。

同様に、「KPop Demon Hunters」は「失われた芸術形式であるオリジナル・サウンドトラック」を採り入れているとベンジャミンは付け加える。音楽ジャーナリストで「Notes on K-pop」ニュースレターの著者であるタマル・ハーマンは、この映画が成功した理由は、アニメーションミュージカル伝統と本物のK-pop音楽制作スタイルを同等に採り入れているからだと指摘する。

彼女は「Kpop Demon Hunters」を「K-popからインスパイアされた曲を持つミュージカル」と位置付け、ABBAの曲を「Mamma Mia」用に再解釈したジュークボックス・ミュージカルに例えている。

観客は新しいものを求めている

映画の斬新さも共感を呼んでいるようだ。多くのアニメーション映画が既存の知的財産を適応させるのに対し、「KPop Demon Hunters」はオリジナル作品だ。そして、独自の視点から生まれた作品だ。「完全に韓国のものでもなく、完全に西洋のものでもなく、その中間にあるような感じだ」とカンは語る。「どちらか一方に偏っていない。両方の要素が混ざり合っている。それがこの映画を少し違うものにしていると思う」

「核心となる物語が人々を引き付けている」とカンは続ける。

サンフランシスコ在住のコスプレイヤー兼コンテンツクリエイター、ナンシー・アルカンタール（オンライン名：ナニー・リー）も同意見だ。「これは単なるK-POPグループではなく、彼らが強力な戦士へと変貌する旅の物語を紡いでいる」とアルカンタールはスペイン語で語った。彼女にとって、これはK-POPを超えた物語だ。

カン監督の本物の文化的アプローチも、映画のクロスオーバー人気に寄与したかもしれない。HUNTR/Xが伝統医学クリニックを訪れるシーンや、K-popのライトスティック文化を西洋の観客向けに説明したり翻訳したりする代わりに、彼女は完全な没入感を重視した。「ただ、皆に『韓国にいる』と受け入れてほしかった」とカン監督は述べた。

監督は、この「文化の深みに投げ込む」手法が、過剰な説明よりも壁を崩す効果があると述べた。「私たちはただ、すべてを自然なままに感じさせたいと思ったんです」と彼女は説明した。「光を当てなければ、それはより自然に受け入れられるようになる」

独創的なアニメーションが結ぶ

サンディエゴ在住のK-POPファンでフリーランスのイラストレーター、ザブリナ・サンティアゴ（オンライン名：ItmeZ）は、映画のアニメーションスタイルに感銘を受け、ファンアートを急いで制作した。彼女は、映画がNetflixで公開された2週間後の7月にロサンゼルスで開催されたアニメエキスポのブースで、HUNTR/XとSaja Boysのイラスト入りファンカードを販売した。

彼女だけではない。インスタグラムで#kpopdemonhuntersを検索すると、HUNTR/XとSaja Boysのファンイラストが数千点もヒットする。

日本在住のユーチューバー、エミリー・シム（オンライン名：エミリチュ）は、キャラクターデザインとオリジナルストーリーに惹かれて映画を観たと言う。YouTubeで350万人以上のチャンネル登録者を擁するシムは、映画に関する35分間の動画を投稿。1週間半でほぼ45万回の再生回数を記録した。

「ファンアートを見るのが大好きで、この映画が人々を創造的に刺激している様子が素晴らしい」とシムは語っている。

カンは、「KPop Demon Hunters」について、チームは悪魔と韓国神話に登場する死神「Jeoseung Saja」を組み合わせ、伝統的でありながら現代的な作品を作りたかったと説明している。これはK-ドラマでは一般的だが、アニメーションでは珍しいと彼女は指摘している。

ハーマンは、この映画をソニーの別のアニメーション『スパイダーマン：スパイダーバース』と比較した。同作も創造的なアニメーションで幅広い観客層を惹きつけた。「そして、これは楽しいアニメーションミュージカルで、久々にでてきた作品です」と彼女は述べた。「キャンプで、魅力的で、普遍的な作品です」

そしてK-POPファンは自分たちを見出している

サンティアゴは当初、『KPop Demon Hunters』というタイトルに懐疑的だった。

「大企業はK-POPを餌に使う傾向があるように感じます。K-POPファンの真剣さを利用しようとするんです」とサンティアゴは述べた。「でもこの作品は、K-POPファンへの愛のメッセージのようなものだと感じました」

確かに——もしこの映画がK-popファンの体験に忠実でなかったり、彼らを嘲笑していたら、これほど人気にはならなかっただろうとベンジャミンは言う。代わりに、熱心なK-popリスナー向けのイースターエッグが散りばめられている。

ハーマンも同意し、この映画にはK-popファン向けのインサイドジョークがあり、親向けに笑いを仕込んだ子供映画に似ていると述べた。

「K-popの魅力を音楽ファンに響く形で捉えることが、この映画にとって本当に重要だった」とハーマンは述べた。

カンにとって、それは常にプロジェクトの核心にあった。「ファンダムは、映画の最後に世界が救われることに大きな役割を果たしている」と彼女は語った。「だから、私たちはそれが適切に表現されていると確信していました」

AP