

アラブニュース 日本版
2018年、日本のパフォーマンスアーティストであり、インスタレーションアーティストでもある塩田千春は、ジャミール・アートセンターの開館に向けて特別に作品制作の依頼を受けた。ジャミール・アートセンターは、アラブ首長国連邦(UAE)初となる現代美術館の一つだ。
彼女のインスタレーション(場所や空間全体を作品として体験させる芸術)『Departure(旅立ち)』は、UAEが「交易と合流の場」であることに影響を受けている。UAEで水域を越えて人を運ぶために使われる、伝統的な木製ボートであるアブラや、文化遺産であるドバイ・クリークを表現するための大量の糸などが使われていた。
「『Departure』は最も人気のあるインスタレーションの一つでした。需要が高かったため、展示期間を延長することにしました」とジャミール・アートセンターの関係者は語る。
「没入型のインスタレーションだったので、お客さんがまず反応していたのが、展示空間の中で何千もの赤い糸に囲まれているということでした」
本作は、ジャミール・アートセンターにて開催中の企画「Artist’s Rooms(アーティストの部屋)」の一環として制作された。「Artist’s Rooms」は、南アジア・中東・アフリカのアーティストによる長期的な個展を開催するプロジェクトだ。塩田の個展は2018年11月から2019年8月まで開催された。
塩田千春は、生と死、人とのつながりといった人間にとって重要なテーマについての彼女の関心を反映したインスタレーション作品を専門とするアーティストだ。彼女の作品は、血のような赤や、白と黒などの色の複雑な毛糸と、ありふれた日常的な事物を使って制作されている。
塩田氏にとって、日常的な事物には意味がこめられている。「私たちの存在は、私たちを取り巻く事物のなかに蓄積されていくものだと思っています」と、同氏はWallpaper誌のインタビューで語っている。
「私の作品はすべて、私の人生や、個人的な感情からインスピレーションを得ています。その感情を普遍的なものへと広げることで、他の人とつながりたいのです」と塩田氏は語る。
塩田氏の作品は、2008年に芸術選奨文部科学大臣賞を受賞している。
これは彼女が受賞した数ある賞のうちのひとつに過ぎない。世界各地から集められた5万個の金属製の鍵を2つの木製ボートの上に吊るした、赤い網状の強烈な作品である「The Key in the Hand」は、2015年のヴェネチア・ビエンナーレにおいて、日本を代表して出品された。 また、2019年には森美術館、およびベルリンのグロピウス・バウでも、個展を開催した。さらに、より有名な作品として、2018年にイギリスのヨークシャー彫刻公園で展示された作品などがある。
1972年に大阪で生まれた作家でありながら、現在はベルリンを拠点に活動している。
「日本に住んでいた頃は、自分の文化的アイデンティティについて考えていませんでした。しかし、ドイツに移ってからは、様々な国の人々と出会い、自分の文化的な背景について考えるようになりました。」と彼女はいう。
文化の影響もさることながら、塩田氏は世界の現状にも影響を受けつつ、作品を制作していることを認めている。
「私は絵を描くとき、自分の生活からインスピレーションを受けています。今の状況は、私の創造力をとても刺激してくれています。私は展覧会を設置するためにいつも旅をしていますが、今の状況ではそれができず、今後ますます難しくなるでしょう。そこで、自分の作品を考え直さなければなりません」と塩田は語る。
塩田がUAEにまた戻ってくるかどうかは定かではないが、その扉は完全に閉ざされているわけではない。
「千春さんと彼女のチームと、一緒に仕事をすることができて本当に楽しかったです。今のところ彼女と仕事をする予定はありませんが、将来的にはまた一緒に仕事がしたいです。彼女は私たちが非常に憧がれ、尊敬しているアーティストです」とアートセンター関係者は語る。
塩田氏の作品についての最新の情報は、彼女の最新の作品が掲載されているInstagramアカウントで確認できる。
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