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カンヌ受賞のエジプト人映画監督オマー・エル・ゾーヘアリー

オマー・エル・ゾーヘアリー監督は、初の長編映画 『Feathers』でカンヌ映画祭批評家週間のグランプリを受賞した。(Supplied)
オマー・エル・ゾーヘアリー監督は、初の長編映画 『Feathers』でカンヌ映画祭批評家週間のグランプリを受賞した。(Supplied)
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21 Aug 2021 11:08:03 GMT9
21 Aug 2021 11:08:03 GMT9
  • エル・ゾーヘアリー監督の長編デビュー作『Feathers』はカンヌ映画祭の批評家週間で大賞を受賞した。

ウィリアム・マリー

ドバイ:先月開かれたカンヌ国際映画祭で、オマー・エル・ゾーヘアリー(Omar El-Zohairy)監督が長編デビュー作『Feathers』で批評家週間大賞を受賞しステージに立った。エジプト映画の歴史上最も誇らしい瞬間のひとつであった。映画はエジプトで一番人気の芸術形式でありながら、これまでほとんど評価されてこなかった。今回、他に類を見ない作品で国際的な評価を得た。

「正直、とても驚きました」とエル・ゾーヘアリー監督はアラブニュースに語った。「エジプト映画がカンヌでこのような大きな賞を受賞することはありません。彼らはいつもエジプト映画を大事にしてくれていましたが、賞を与えることはありませんでした。本当にびっくりしました。何が起きているのか理解するのに時間がかかりました。夢のようです」

エル・ゾーヘアリー監督がこのような瞬間を迎えることができたのは、長年にわたって評価を得ようと努力してきたからではない。むしろ、その逆だった。彼がこの瞬間を迎えることができたのは、作った作品で自分の価値すべてを測ることをやめ、最終的に自分の直感を信じられるようになったからだった。

『Feathers 』はブラックコメディだ。(Supplied)

「これまでの私は、自分にプレッシャーをかけすぎていました。良い映画を作り、それを使って自分は有能な人間だと証明しようとしていたのです。今の私はその逆です。私にもプライベートがあり、映画は私の生活の一部に過ぎません。やっと自分を自由に表現できるようになりました」と語った。

エル・ゾーヘアリー監督が世界で最も権威あるカンヌ映画祭の目に留まったのは今回が初めてではない。2014年、彼の2作目の短編映画『「公衆トイレキロメートル375」完成の余波(The Aftermath of the Inauguration of the Public Toilet at Kilometre 375)』(彼は親しみを込めて「タイトルの長いやつ」と呼んでいる)が、エジプト映画として初めてシネフォンダシヨンのコンペティションに選出された。エル・ゾーヘアリー監督に才能があるのは明らかだったが、心の底では「自分にはまだ優れた長編作品を作る能力がない」と思っていた。前に進むためには、できる・できないを気にするのをやめて、これまでにない直感に頼るしかないと考えた。

「直感で良いと思えるアイデアが浮かんだらそれでいこうと、自分に言い聞かせました」とエル・ゾーヘアリー監督は話す。

『Feathers』には、エル・ゾーヘアリー監督の独創的なばかげたアイデアが反映されており、エジプトの農村地域の女性たちの非常に現実的な苦しみを描いている。(Supplied)

なぜこのアイデアに惹かれたのか、彼自身はっきりと分かっていなかったが、思いついたアイデアはシンプルなものだった。

「私の頭に浮かんだイメージは、夫がニワトリになってしまった女性です。彼女はたくさんの苦しみを味わい、夫が元に戻った時に殺してしまうのです」

これが『Feathers』の大枠だ。このブラックコメディには、エル・ゾーヘアリー監督の独創的なばかげたアイデアが反映されており、エジプトの農村地域の女性たちの非常に現実的な苦しみを描いている。

エル・ゾーヘアリー監督は、自分の心の声を聞く勇気を与えてくれるコミュニティと経済的支援システムを構築している、同世代のエジプト映画制作者グループの一人だ。(Supplied)

『Feathers』には独自のビジュアルセンス、偉大な新人スタイリストの出現を示すトーンと誠実さ、そしてアマチュアの俳優だけが表現できるシネマ・ヴェリテのドラマチックな精密さが組み合わさっている。

リアリズムに磨きをかけるため、エル・ゾーヘアリー監督は俳優たちに完全な台本を与えていない。意図的な選択でもあるが、必要に迫られてのことでもある。

「この映画に出演している演者の中には、文字を読めない人もいます。彼らは教育を受けていません。主演女優のデムヤナ・ナサールは、学校が無いような辺鄙な村の出身なので、読み書きができません。でも、それで良かったのです。彼女たちには役を演じて欲しかったのではなく、ありのままでいてほしいと思ったのですから」

『Feathers』には独自のビジュアルセンス、偉大な新人スタイリストの出現を示すトーンと誠実さ、そしてアマチュアの俳優だけが表現できるシネマ・ヴェリテのドラマチックな精密さが組み合わさっている。(supplied)

多くのローカル映画制作者と同様、エル・ゾーヘアリー監督は、13年前に亡くなった伝説的なエジプト人監督ユーセフ・シャヒーン氏の映画にまずインスパイアされた。しかし、彼の後を継いだ映画監督たちが同じ高みに到達することはほとんど無かった。それは、彼らが自分自身であろうとせずにシャヒーン氏になろうとし、想定する海外の視聴者を喜ばせようとしたからだと彼は考える。

「シャヒーン氏は自分のアイデンティティを持っていましたが、彼らはそこから学ぶのではなく、彼のアイデンティティをコピーしようとしたのです」と言う。「オリジナルではない作品で西洋の人たちを喜ばせようとしました。自分たちが何者なのか、何をしたいのかがはっきりしないまま、行き詰まってしまったのです。もはや映画ではありませんでした」

しかしそこには例外もある。彼は、2019年に58歳で亡くなった無名の型破りな映画監督であるウサマ・ファウジ氏など、彼が得た地位に到達し得たのではないかと感じる映画監督を何人か挙げている。しかし、今回は確実に何かが違う。

 

多くのローカル映画制作者と同様、エル・ゾーヘアリー監督は、13年前に亡くなった伝説的なエジプト人監督ユーセフ・シャヒーン(Youssef Chahine)氏の映画にまずインスパイアされた(Supplied)

エル・ゾーヘアリー監督は、同世代のエジプト映画制作者グループの一人だが、彼らを支えているのはカイロの制作会社Film Clinicのムハンマド・ヘフズィ氏などのプロデューサーや、カンヌ国際映画祭などのプラットフォームだ。彼らはコミュニティや経済的なサポートシステムを構築し、自分の声に耳を傾ける勇気を与えてくれている。そうした試みが、エジプトを映画制作の新たな黄金時代へと導いてくれるかもしれない。

しかし、彼らは過去に背を向けているわけではない。不安を捨て、直感に頼ることができた時、自分の心の奥底にある声、つまり自分の声だと思っていた声は実はエジプトの声であり、自分と同じような自由を得られなかったかもしれないエジプト人たちの力強い声によって形作られていることを、エル・ゾーヘアリー監督は痛感している。

「この賞を受賞したとき、観客の皆さんに『(私たちの映画を)観に行ってください』と言いました。なぜなら、エジプト映画は認知されるべきだからです。私はエジプト映画の産物であり、エジプト映画が好きです。観られる映画はすべて観てきました。映画学校で機材の使い方を学びました。エジプト文化を分かっていますし、私の映画にはエジプトの文化が詰まっています。骨の髄までエジプト的なのです。ただ、過去に敬意を払いながらも、今本当に素晴らしい何かが起こっているのです」。

エル・ゾーヘアリー監督は、『Feathers』で得た学びを現在計画中の次の長編作品に生かすと同時に、その学びを他の人たちに伝えることにも重点を置いている。彼が求めるのは、できるだけ多様で多彩な声を持ち、自分自身を信頼できる新しい世代のエジプトの映画制作者だ。

「技術的な面での手助けはしたくありません。YouTubeで学べてしまうからです。私が本当にしたいのは、直感に基づいて自分の映画を作れるよう、影響を与えることです。私は彼らに希望を与え、『みんな、ストレスを感じる必要はないよ』と言いたいのです。才能のある人はたくさんいますが、シャイだったり、自信がなかったりして、自分のアイデアを表現する準備ができていないのです」と彼は言う。「私がそうであったように、彼らがそれを克服する手助けをしたいのです」

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