東京:「ストリートファイター」のプレーヤー畠山駿也氏は筋ジストロフィー患者であり、顎を使って強烈なコンボを繰り出す。eスポーツでは障害が障害にならないことを証明しているのは畠山氏だけではない。
全盲の北村直也氏は音を頼りにゲーム「鉄拳7」を叩きのめす。10億ドル規模の産業で培った技術で、より寛容な社会の実現に寄与したいと考えている。
「動きを阻止すると、音でどんな動きだったのかが分かります」と北村氏は言った。
「それを聞いて反応をし、動きます」。北村氏はAFPに説明し、「鉄拳」のキャラクター、ラッキー・クロエに目まぐるしい攻撃をさせて見せた。
競技ゲームは世界中で活況を呈し、世界のeスポーツの収益は10億ドルを超えると試算されている。いつかオリンピック大会の種目になるだろうと考える人も多い。
日本のセクターの規模は、eスポーツに熱狂している中国や韓国には及ばないが、徐々に定着しつつある。
社会福祉に従事する加藤大樹氏は、障害を持つ日本のゲーマーがアクションに参加する機会を増やしたいと、2016年に株式会社eParaを設立した。
加藤氏の会社は畠山氏や北村氏(共に28歳)らプレーヤーを雇用し、企業ウェブサイトの制作やゲームイベントの企画などの業務と並行して勤務時間でゲームの練習ができるようにしている。
畠山氏は主に、障害の有無にかかわらず誰でも参加できる「ストリートファイターV」の大会に出場している。格闘ゲームが良いのは「ハンディキャップを乗り越え、さまざまな人と対戦できるところ」だ。
「大会でプレーするときは、自分の障害を意識したくありません」という。
「自分のプレーで人を感動させたいです」
畠山氏は生まれつき退行性筋ジストロフィーで、6歳頃から車椅子を利用している。
子どものときから格闘ゲームが大好きだったが、年を追うごとに筋肉が衰え、コントローラーを握れないほどになった。
悲観した畠山氏は6年間プレーを止めたが、昨年、友人と一緒に、顎で操作できるカスタムコントローラーの設計・製作に乗り出した。
指でコンピューターのキーボードのボタンを押すと、すぐに元の調子を取り戻したという。
現在は、障害を持つプレーヤーに複雑なコンボを教える、それぞれのキャラクターに特化したアドバイスするなどの指導も行っている。
「格闘ゲームをプレーしていなかったら、困難に遭遇するたびに何とか解決しようとは思わなかったでしょう」という。
eParaのゲーマーの多くはeスポーツ初心者であり、大会で競技した経験はほとんどない。
eParaの加藤代表は、障害を持つゲーマー向けの市場は拡大中で、メーカーも強い関心を示して注目するようになると考えている。
「ゲームで遊ぶ聴覚や視覚の障害者が増えれば、ゲームメーカーも対応し、障害者がプレーできるゲームが増えるはずです」
加藤氏は、障害を持つ人たちが才能を披露する場としてeスポーツを活用したいと考えている。日本の人の多くは障害者と「交流する機会が少ない」からだ。
小眼球症のため生まれつき全盲の北村氏は、eスポーツは障害者に対する認識を「補助が必要なだけ」に変える一助になるのではないかという。
「私はコンピューターが得意で、目が見える人よりもいろいろなことができたりします」と北村氏は言った。
「助けられるばかりではありません。場合によっては、私たちも人を助けることができます。それこそ協力です」
北村氏はeスポーツという用語そのものにも、「ただゲームをする人」ではなく、真剣な競技のイメージを醸成するメリットがあると考えている。
東南アジア競技大会ではeスポーツが正式なメダル種目になり、パンデミックで延期になった来年のアジア競技大会でも行われる。
オリンピックとパラリンピックも後に続くだろうという人は多いが、加藤氏は「eスポーツでは健常者と障害者を分ける必要はありません」という。
「eスポーツが面白いのはそこです」と加藤氏は続けた。
「車椅子に乗っていようといまいと、同じルール、同じ競技です」
AFP