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UAEの建築家、二酸化炭素排出量の少ない塩をベースとした代替セメントを開発

ワイル・アル・アワル氏(左)と山雄和真氏(右)は、リサーチとデザインを手がけるwaiwaiの主任建築家兼共同創立者。(提供写真)
ワイル・アル・アワル氏(左)と山雄和真氏(右)は、リサーチとデザインを手がけるwaiwaiの主任建築家兼共同創立者。(提供写真)
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16 Nov 2022 04:11:29 GMT9
16 Nov 2022 04:11:29 GMT9

カーラ・シャハルー

ドバイ:社会的価値を象徴する記念碑的な建造物から、都市や街の基盤を構成する建物や住居に至るまで、建築は良くも悪くも、人間が住む自然環境を形作る力を持っている。

世界の人口が拡大し、圧倒的な都市化にどんどん拍車がかかり、その結果、気候変動が加速している。そこで、持続可能な環境開発を達成するために、積極的な役割を果たす建築家の必要性も高まっている。

国連環境計画が発表した報告書によると、気候変動の多くの要因のひとつが建設業であり、毎年世界に排出される二酸化炭素の40%を占めているという。

セメントなどの従来の建材やその製造・輸送・施工の工程は、気候に大きな負荷を与えており、全世界の人為的な二酸化炭素年間排出量の約5〜8%が、この建築材料関連の工程に起因している可能性がある。しかし建材がなければ、建物、橋、工場などの建造物は建設できない。

建築家は、自らの仕事が温室効果ガス排出量にどの程度寄与しているかを考えることで、環境に与える害を最小限に抑え、自らの職業に起因する気候変動の原因に対処する方法を見直す機会は増えている。

レバノン人建築家で、リサーチ&デザイン事務所「waiwai」の共同創立者ワイル・アル・アワル氏は、新たに出現した建築家グループのひとり。従来のプロセスに挑戦し、問題が増え続ける地球のために果たすべき役割に焦点を当て、デザインの領域を押し広げながら建築する新たな方法を見つけようとしている。ドバイを拠点とするアル・アワル氏は、レバノンのベイルート・アメリカン大学で建築を学び卒業。卒業後は8年間東京で働いたのち、中東に戻り2009年にwaiwaiを創立した。

「私たちは、21世紀における建築家の役割、特に現在直面している気候危機に対応するための役割を再定義したり、問い直したりしようとしています」とアル・アワル氏は述べた。「お気づきの通り、私たちは、建築物を作り出す私たちのシステムと方法を真剣に考え直さねばなりません。多くの建築家はデザインに重点をおき、基本的には自身をただ純粋にデザイナーだとみなしています。私たちはそうではなく、現在の建築は、デザイナーに科学者も巻き込んだ共同作業のプロセスを経て生み出されると考えています」

このようなリサーチプロジェクトの展示において、アル・アワル氏は、建築環境の保全、改善、創造において建築家が果たすべき役割を説明し、建築家が環境の市民として、その実践に持続可能性を導入しなければならないと説明する。

「今日私たちが知っているセメントや従来のポルトランドセメントを使用した現代建築、つまり20世紀の建築は、現在、気候危機の原因の40%を占めていることが分かっています」とアル・アワル氏は述べた。

「おそらく多くの建築家は、これは自分たちの問題ではないと考え、他の人が解決すべき問題であると言います…しかし現在、私たち建築家は自分たちの問題ではないとは、もう言えません。もしあなたが建築家集団の積極的な参加者のひとりであれば、あなた自身の問題なのです。だから、私たちは建築に対して新しい全体的なアプローチをとろうとしています」と、アル・アワル氏は述べた。

11月3日から27日にかけて開催される「East-East: UAE meets Japan 5, Atami Blues」は、ソフィー・麻由子・アルニ氏のキュレーションによる5回目の企画展である。アラブ首長国連邦(UAE)と日本の国交50周年を記念し、芸術のコラボレーションや交流による、二国間の芸術的対話の促進を目的としている。waiwaiは、UAEで「塩原」を意味するアラビア語「サブカ」から着想を得た、環境に優しい塩がベースの代替セメントを使ったリサーチプロジェクト「ウェットランド(Wetland)」を発表し、賞を受賞した。

リサーチ&デザイン事務所「waiwai」の「ウェットランド」の一部として展示されたファラ・アル・カシミ氏の作品。(提供/画像提供:ナショナル・パビリオンUAE ヴェネチア・ビエンナーレ)

アル・アワル氏と東京を拠点とする建築家の寺本健一氏がキュレートした「ウェットランド」は、第17回ヴェネチア・ビエンナーレ国際建築展2021にて、国別参加部門の金獅子賞(最高賞)を受賞した。産業廃棄物のブライン(濃縮塩水)を再利用した環境に優しい塩ベースの代替セメントを用いた建築プロトタイプである。ブラインの使用により、建設業が環境に及ぼす悪影響を減らすことができる。

「ウェットランド」で強調されているのは、湾岸協力理事会諸国の建設における、代替建材の発見である。他の国々ではすでに、竹や木などの持続可能な材料や、建設による環境への影響を軽減できる補助セメント材を使用し、セメントへの依存度を下げる方法を見つけているという認識が根っこにある。

「今回のリサーチは、特に湾岸地域のための持続可能な代替建材を見つけることに重点を置いています。そこで私たちは、UAEの新たな未来のヴァナキュラー建築(その土地の気候や風土に合った土着的な建築のこと)となり、UAEの建設と建築の未来を形作るものを探し始めました」と、アル・アワル氏は述べた。

セメントの代替品を見つけるという決断は、セメントが水の次に多く使用される建設資材であり、最も汚染を引き起こす材料のひとつであるという事実があったからだ。これは主に、非常にエネルギー集約的な、セメントの生産プロセスが原因である。セメントの生産では、石灰石を燃やしてクリンカを作る過程と、キルンを加熱するために化石燃料を燃やす過程で、直接二酸化炭素を放出する。


通常、石炭を燃料とする加熱と、それが引き起こす化学反応の両方により、大量の二酸化炭素を放出する。これが大気質を悪化させ、気候変動、そして地球温暖化に大きな影響を及ぼすのである。

UAEでは、広範なインフラの需要に応えるため、過去20年にわたりセメント産業が拡大してきた。


たとえば、こちらの調査によると、UAEのセメント生産量は、建設活動のピークと思われる2008年で、年間5〜6メガトンを超えていた。これは、同国ではセメントの需要量と生産量が非常に大きいことを示しており、代替建材使用の重要性を示している。

ポルトランドセメントの代わりになりそうな持続可能な代替建材を探していた彼らは、UAEでミネラル豊富なサブカに出会い、その硬いセメント質の表面に魅了された。しかし、このリサーチの目的は環境破壊ではなく、環境を助ける方法に関係していたため、自然界を利用することは逆効果になりそうだった。そこで、建築家たちは、サブカに含まれる塩とミネラルの化合物を実験室で再現する方法を調べ始めた。

「地理に目を向け始めると、アラビア語でサブカと呼ばれるUAEの塩原に出会い、これら塩原のセメント質の硬い表面に心底感銘を受けました。そして、北アフリカの多くのヴァナキュラー建築が、リビアとの国境にあるエジプトのシワ・オアシスのような塩原を利用して建てられていることがすぐにわかりました。しかし、塩原は自然環境や生態系の一部なので、実際に採掘して、それで建物を作ることはできません。とにかく、ヴァナキュラー建築からいろいろと学ぶことができました」とアル・アワル氏は語った。

このウェットランドプロジェクトの展示会の根拠でもある、ひとつの有望な解決策が、UAEの海水淡水化プラントで発生する廃水のブラインから酸化マグネシウム(MgO)を取り出すことである。MgOは水に溶けない結晶質で、強度や耐久性などで万能な特性を持つ。また、MgOは大量の二酸化炭素を取り込むことができるため、ライフサイクルを通して環境への影響を減らすことができる、実用的な特徴もある。このため、エネルギー消費量や温室効果ガス排出量を削減して、地球環境への影響を最小限に抑えるだけでなく、海水淡水化プラントから排出されるブラインを再利用することで、生態系に悪影響を与えることになる海洋環境への排出を防ぐことができるので、環境に配慮した建設に大きく寄与する。

「いろいろと学んだ結果、水に溶けない結晶質として機能する特定の塩、特に酸化マグネシウムだという結論に達しました。つまり、酸化マグネシウムをセメントの製造に使うことができれば、水に溶けないので、現在建設業界で普通に使用されているポルトランドセメントの代替品になる可能性があるのです。そこで問題になるのが、その酸化マグネシウムの調達方法です。塩の廃棄物について考え出してすぐに、湾岸地域では海水淡水化が盛んで、ブラインも大量にあるので、これらの材料がすぐに入手できるという結論に至りました。そこで、自然界にあるものを利用するのではなく、副産物を再利用することにしました」と、アル・アワル氏は語った。

East-East: UAE meets Japan Vol. 5, Atami Bluesの「ウェットランド」調査プロジェクトで展示されている自然のサブカのかけら。(提供写真)

この代替セメントは、アル・アワル、寺本、その他の学術協力者各氏によって製作されたブラインをベースにしたセメントのプレキャストブロックが展示される、リサーチプロジェクト「ウェットランド」で展示される予定で、ヴァナキュラー建築の未来を示す。

また、UAEの砂漠地帯と本展の海洋というテーマとの調和を、本展のリサーチの道のりを説明する動画や、ニューヨーク在住のUAE出身のアーティスト、ファラ・アル・カシミ氏が撮影したアル・ルワイスのサブカの風景写真を通じて強調する。カシミ氏の写真は、現代化と自然界との間の緊張関係を捉え、どのように都市化と生態系が結びついているのかを示している。インスタレーションを通じて、観客は新しい視点でこの国を見ることが可能となり、代替材料としての塩の利用を促進し強化する。

East-East: UAE meets Japan Vol. 5, Atami Bluesの「ウェットランド」リサーチプロジェクト。(提供写真)

大気中に排出される二酸化炭素濃度を低下させ、二酸化炭素排出量実質ゼロという政策目標の達成に寄与するためには、建築材料の生産に関連する直接的・間接的工程で発生するエネルギーを減少させることができる、妥当な代替材料の開発が重要である。「ウェットランド」リサーチプロジェクトで発表された塩をベースとしたセメントは、恒久的な構造物建設の根拠となるものだが、waiwaiでは、一時的な構造物に使用できる代替材料の研究も行っている。これは現在、東京・下北沢のSRR Project Spaceで開催されている「ウェットランド・ラボ」という別の展示会で見ることができる。

持続可能な建築とデザインの道を広げる「ウェットランド」は、気候変動の被害を軽減する彼らの実践の新しい可能性を明らかにするために、建築の技術的革新の統合と自然環境と共にある建設との間に存在する二元論を紹介することで、人間の健康、二酸化炭素排出量、生物多様性といった多様な問題を無視する専門領域で共有されている形而上的な価値体系を払拭して、建築の未来を再概念化する。

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