人工知能(AI)による楽曲カバーがインターネットを席巻しているが、ウム・クルスームが『名探偵コナン』の主題歌をAIでカバーし、話題になった。
AIは、例えば、ある言語から別の言語への翻訳、スマートホームの利用、あるいは単にパーソナライズされた広告の入手など、生活を便利にするために大衆に利用されてきたが、インターネットでは、AIによる楽曲カバーの制作という、まったく別の目的で利用されている。
特に短編動画コンテンツ・アプリケーションのTikTokでは、ここ数カ月AIカバーがソーシャルメディアに溢れている。TikTokのFor You Page(FYP)は、アプリケーションをダウンロードした視聴者が最初に目にするもので、特定のアルゴリズムを使って、ユーザーの個人的な好みに基づいて動画をキュレーションする。ユーザーが特定のアーティストを好きな場合、FYPがそのアーティストのAIカバーを推薦する可能性は非常に高い。
ポップ・アーティストのテイラー・スウィフトがR&Bアーティストのザ・ウィークエンドの「スターボーイ」をカバーしたAIカバーは、極めて本人のように聞こえるとして、最近このアプリケーション上で話題になった。
https://www.tiktok.com/@dshanemidnights13/video/7249671435571039494?embed_source=121355059%2C121351166%2C121331973%2C120811592%2C120810756%3Bnull%3Bembed_blank&refer=embed&referer_url=www.arabnews.jp%2Fen%2Farts-culture%2Farticle_99753%2F&referer_video_id=7249671435571039494
これらのカヴァーはティックトックで生まれたものだが、他のソーシャルメディアでもシェアされている。ツイッターでは、ユーザー @Memesawyy は、AIを使ってエジプト人歌手の故ウム・クルスームがラシャ・リズクの歌っている「名探偵コナン」のアラビア語版主題歌をカバーした33秒クリップをシェアした。
たいていのカバーはオリジナル歌手の声を別の歌手に置き換えるだけだが、このカバーは主題歌全体のスタイルを歌手のスタイルに合わせて変えている。
このツイートのキャプションは、ウム・クルスームの敬称である “Kawkab al-Sharq” (直訳すると “東洋の星”)を”Kawkab al-anime” つまり “アニメの星”ともじったものだ。
كوكب الانمي pic.twitter.com/8kpfj5xz0I
— ميمزاوي باشا (@Memesawyy) July 9, 2023
ウム・クルスームは世界で最も人気のあるアラビア語歌手の一人とされている。60年以上のキャリアを持ち、愛や別れといった普遍的なテーマを扱った約300曲をレコーディングしている。彼女は“東洋の星”、“アラブの母”、“エジプト第4のピラミッド”として知られている。
彼女は、ボブ・ディランなど西洋の大物歌手たちに影響を与え、ボブ・ディランは常にこの故エジプト人アーティストを賞賛していた。ビヨンセやシャキーラは、ウム・クルスームの音楽に合わせてダンスを披露している。
彼女は本物のエジプトとアラブ文化の象徴となった。魅惑的なパフォーマンスとパワフルなヴォーカルで、ウム・クルスームの遺作は今も中東をはじめ世界中で強く残っている。彼女は現在でもエジプトのメディアに定期的に登場している。サウジアラビアでは、彼女はホログラムのように扱われている。
彼女の最も人気のある曲 “Enta Omry “は1時間近くあり、現在YouTubeで7300万回再生されている。
「名探偵コナン」1996年に放送されたアニメで、高校生探偵・工藤新一が化学薬品で体を少年に縮められ、その後、正体を隠すために江戸川コナンという偽名を名乗り、その知性と技術で事件を解決していく姿を描いている。このアニメはアラブ人に最も愛され、人気があるアニメの一つである。
このカバーは視聴者から様々な反応を得た。面白いと思う人がいる一方で、ウム・クルスームと彼女の象徴的な音楽に失礼だと思う人も多い。ウム・クルスームの音楽も『名探偵コナン』のアラビア語版主題歌も、アラブ人にとってはノスタルジックなものだが、ツイッターユーザーは極度の不安感を抱き、AIの応用範囲に疑問を抱き始めた。
また、ツイッターユーザーの @Memesawyyは、故エジプト人歌手シャーバン・アブデル・ラヒームがAIによって『HUNTER×HUNTER』の主題歌を歌うカバーをツイートした。このカバーは現在ツイッターで50万回以上再生されている。
ميصحش كده pic.twitter.com/pAGri361Ij
— ميمزاوي باشا (@Memesawyy) July 11, 2023
『HUNTER×HUNTER』は、同名の漫画をアニメ化したもので、主人公のゴン・フリークスが、幼い頃に自分を捨てた父親のように、ハンター試験を受け、狩猟から戦闘まで様々なスキルを持つハンターになるまでの道のりを描いている。
シャーバン・アブデル・ラヒームは、”シャアビ “または “フェスティバル “と呼ばれるジャンルで最も人気のあるエジプト人歌手の一人である。このジャンルは、カイロの労働者階級から生まれたエジプトの音楽ジャンルで、電子音の大音量、オートチューン、独特の歌詞が特徴である。このジャンルはエジプトで最もポピュラーな音楽ジャンルであり、ストリートから結婚式まで、あらゆる場所で見かけることができる。
シャアビ歌手は、物議を醸すような歌、独特の歌い方、カジュアルな歌詞で人気を博した。ウム・クルスームのカバーと同様、このAIも歌手のスタイルにマッチしており、オリジナルのテーマ曲とは異なる雰囲気とスタイルを醸し出している。このカバーにも様々な反応があった。
AIカバーは、生成AIと呼ばれるAIのカテゴリーに属し、テキスト、画像、音声、そして現在では音楽カバーなどのコンテンツを生成できる人工技術の一種である。
1960年代にチャットボットとともに導入された生成AIは、機械学習アルゴリズムを用いて、パターンやデータを分析してコンテンツを生成する。このAIは、アーティストにさまざまな楽曲をカバーさせるだけでなく、ジャンルを問わずオリジナルの音楽を生み出すこともできる。
このAIは、アーティストがカバーする曲と同じ言語を話せなくても効果的だ。また、架空のキャラクターを使っても効果的だ。アニメ『NARUTO-ナルト-』の主人公、うずまきナルトがトルコの曲をカバーしたAIは、現在TikTokで300万回以上再生されている。
@heroxeditsz Naruto Uzumaki – Džanum Ai Cover. #fyp #fypシ #fypage #naruto #natutoedit #narutouzumaki #narutouzumakiedit #teyadora #aicover
♬ orijinal ses – H3R0!
予算が限られているアーティストは、リソースを活用し、より質の高い音楽を制作することで、このテクノロジーの恩恵を受けることができる。Amper MusicやJukedeckのようなプラットフォームを使えば、オリジナルの楽曲を作ることができる。
その一方で、この技術は倫理的かつ合法的かどうかについて、ネット上で議論が始まっている。多くの人は、アーティストとその音楽に対する侵害だと考えている。AIによるカバーの場合、アーティストの声が本人の同意なしに使用されるため、法的な問題に発展する可能性がある。
大手レコードレーベルはすでに、自分たちの手で問題を解決し始めている、ユニバーサル・ミュージック・グループは、スポティファイやアップルミュージックなどのストリーミングサービスに対し、AI企業がAIモデルを訓練するために自社のカタログにアクセスするのをブロックするよう要請し始めたからだ。R&B歌手のドレイクはこの件について、「これは最後の藁だ(我慢の限界だ)」とコメントしている。
音楽におけるAIの台頭に関するもうひとつのネガティブな懸念は雇用だ。 特に映画のBGM制作の分野では、将来的にAIがミュージシャンに取って代わるかもしれないという見方もある。この交代は、制作の質を低下させ、多くのミュージシャンを失業させる可能性がある。
結局のところ、このテクノロジーは諸刃の剣なのだ。ウム・クルスームやシャーバン・アブデル・ラヒームによるAIアニメのカバーが流行する中、これらのAIが問題なのか、それともただ面白いだけなのか、正解も不正解もない議論は続くだろう。