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中東紛争は金融機関の視線を世界経済の課題から遠ざける可能性がある

今年の成長率予測については3%を維持しながらも2024年には2.9%まで落ち込むとしたIMFの慎重な成長率予測を背景に、世界の原油価格は大きく乱高下した。(AP)
今年の成長率予測については3%を維持しながらも2024年には2.9%まで落ち込むとしたIMFの慎重な成長率予測を背景に、世界の原油価格は大きく乱高下した。(AP)
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21 Nov 2023 02:11:35 GMT9
21 Nov 2023 02:11:35 GMT9
  • 現在の紛争は世界経済を混乱させ、最悪のシナリオでは景気後退に追い込む可能性がある

ロバート・ボシアガ

チュニス:イスラエルとハマスの間の暴力の激化は、それが世界経済に与える潜在的な影響についての懸念を呼び起こしている。国際社会がこの悲劇的な紛争の展開を見守る中、次のような疑問が持ち上がる。これは、「グローバルサウス」が強力な地経学的力を持つ陣営として自らを主張する重要な瞬間になり得るだろうか。

10月26日の国連総会での採決は、国際社会の分断を明らかにした。イスラエルに同調して決議案に反対した米国は少数派となった。米国の確固たる同盟者と見られることが多いEUは、バラバラの立場を示した。一方、発展途上国の大半は停戦に賛成したが、インドは棄権してイスラエルの方に傾いた。

ライアン・オグラディ氏(KIアフリカCEO)

歴史が示唆するところでは、米国がその外交政策決定に対する批判に直面しても、必ずしも世界貿易や交渉に関与する同国の能力が妨げられるわけではない。2003年のジョージ・W・ブッシュ大統領(当時)によるイラク戦争の余波は米国に対する世界の評価を低下させたが、それでも同国が経済的に孤立することはなかった。

そのうえ、米国は地政学的な論争をよそに、主要な貿易協定を立ち上げ参加することでレジリエンスを示してきた。経済的に中国寄りの国々が含まれていた2008年の環太平洋パートナーシップ協定(TPP)や、今週行われているインド太平洋経済枠組み(IPEF)交渉は、米国の貿易関与へのコミットメントを明確に示している。

世界経済はまだパンデミックによる経済的ショックからの回復の途上にあり、その真の代償は今ようやく明らかになりつつある。

ライアン・オグラディ(KIアフリカCEO)

しかしながら、専門家らは、現在の紛争は世界経済を混乱させ、最悪のシナリオでは景気後退に追い込む可能性があると警告している。ハマスを支持しているレバノンやシリアの民兵組織とイスラエル軍が交戦すれば、この紛争は地域戦争に発展する可能性がある。

そのようなエスカレーションが起これば原油価格の高騰につながる恐れがあり、1バレル150ドルにまで高騰するとの予測もある。世界経済が相互に結びついているということは、中東での混乱が世界中に衝撃を与え、インフレや経済の安定、さらには地政学的関係にまで影響を及ぼす可能性があるということだ。

クリスタリナ・ゲオルギエバ氏(IMF専務理事)

ガザ紛争が続く中、国際社会は経済的未来の不透明性に直面している。事態が展開する中、地域と世界に安定と繁栄をもたらすことができる解決が切望されている。

先日マラケシュで開催された国際通貨基金(IMF)と世界銀行の年次総会は、ガザ地区におけるイスラエル・ハマス紛争の激化という深刻な背景のもとで行われた。総会はそもそもは開発金融における重要な課題に対処するために開催されたものだったが、中東で続く戦争は世界経済の情勢に不透明性という影を落としている。

IMFのクリスタリナ・ゲオルギエバ専務理事は、この戦争は既に弱体化している世界経済にとって「地平線を暗くする」ものだと警告した。特に国際エネルギー機関(IEA)が状況を注視している中で、石油供給の途絶の可能性とその世界経済への影響に対する懸念が提起された。

今年の成長率予測については3%を維持しながらも2024年には2.9%まで落ち込むとすることで世界経済の脆弱さを示したIMFの慎重な成長率予測を背景に、世界の原油価格は大きく乱高下した。

アブデラヒム・クシリ氏(モロッコの政策専門家)

原油価格は当初、紛争に反応して高騰し、地政学的緊張がもたらす不透明性の高まりを反映した。しかし、その後の安定化は安心感をもたらし、石油供給の混乱が限定的だったことで懸念が緩和された。

モロッコを拠点とする研究者で「気候と開発のためのIMALイニシアティブ」に所属するサイード・スクンティ氏は、経済情勢にニュアンスを加えつつ、IMF総会の余波についての洞察を語った。当初は年間を通しての国際金融の変革に対する楽観や期待感があったにもかかわらず、この総会は重要な課題に確実に取り組むことなく終了したというのが同氏の見方だ。

スクンティ氏のこの視点は、国際金融討議の領域における期待と結果のギャップを理解するための重要なレンズを提供する。

我々は、人々にも環境にも僅かな影響しか与えないプロジェクトに資金を配分することから焦点を外すべきである。

アブデラヒム・クシリ(モロッコの政策専門家)

同氏はアラブニュースに対し、「IMF加盟国は、拠出金を増額し、アフリカに理事会の3つ目の議席を与えることに合意した。この動きはより良いガバナンスに向けた一歩と見なされた。しかし、議決権を決定する割当の配分は変わらず、公平な代表権を実現するうえでの根強い課題が浮き彫りになった」と語る。また、締結されたザンビアの債務再編合意を別にすると、「NGOやアフリカの指導者らによって提唱された、より大規模な債務帳消しを求める声は、限定的な注意しか引かなかった」という。

中東やアフリカのように、様々な部門にわたって豊富な投資機会が手招きしている地域においては、世界的な不透明性の中でビジネスを成功させるためには強靭なパートナーシップの構築が不可欠となる。しかし、そうした課題を背景に、マラケシュで開催されたIMF・世界銀行総会が意図した目的は開発金融における重大な課題に取り組むことだった。

ガザ紛争はそうした経済論議に暗い影を落としている。世界が中東で続く暴力を目の当たりにする中、世界経済は依然として不安定で、将来に対する不透明性に包まれている。ビジネスへの影響、地域全体の紛争の迫り来る可能性、経済全体への影響、それら全てが微妙なバランスの中にある。

投資会社KIアフリカのCEOであるライアン・オグラディ氏はアラブニュースに対し、「世界経済はまだパンデミックによる経済的ショックからの回復の途上にあり、その真の代償は今ようやく明らかになりつつある。それと同時に、複数の戦争が行われており、食料や燃料の価格など重要な面に影響を及ぼしている」と指摘する。同氏は、サプライチェーンの安定を支援し、長期的で手ごろな価格の融資を確保し、地域統合に関する協力を促進することに力を入れるよう主張する中で、強靭な世界経済環境を育むためにこれらの課題に対処する必要性を強調する。

そのような複雑な状況の中で、IMFと世界銀行は民間部門との協力の強化を積極的に探っている。また、アフリカ市場への投資に伴うリスクを軽減するための投資保証やメカニズムを提供している。このような積極的なアプローチは、資本コストを低減させ、諸プロジェクトが経済の安定を追求するうえでの競争力と費用対効果を高めると期待されている。

一方、気候変動の被害を受けている国々に対する富裕国の支援意欲に原油価格が影響を及ぼし、炭化水素生産からの脱却を遅らせる可能性があるとの懸念も高まっている。同時に、今も続くガザ危機は、水インフラに壊滅的な影響を与え、大量の避難民を発生させ、気候変動に対するパレスチナ人の脆弱性を高めている。それによって、特に環境への影響という観点から、世界中の脆弱なコミュニティーを保護する必要性を強調する声を増幅させる手段を提供している。

モロッコの政策専門家であるアブデラヒム・クシリ氏はアラブニュースに対し、「我々は、人々にも環境にも僅かな影響しか与えないプロジェクトに資金を配分することから焦点を外すべきである」と語る。

「気候変動がもたらす課題に対処し、持続可能な未来を確保するためには、様々な産業にわたる開発プロジェクトの資金調達において、気候変動に関連する要素を包括的に考慮することが不可欠だ」

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