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『TOKYO VICE』 アメリカ人記者、犯罪渦巻く暗黒街をゆく

HBO Maxの『TOKYO VICE』では、アメリカ人記者が犯罪渦巻く東京の暗黒街を渡り歩く姿を描く。レビューはこちらから。
HBO Maxの『TOKYO VICE』では、アメリカ人記者が犯罪渦巻く東京の暗黒街を渡り歩く姿を描く。レビューはこちらから。
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05 May 2022 12:05:39 GMT9
05 May 2022 12:05:39 GMT9

ゴウタマン・バスカラン

「これぞまさしく日本」というものといえば、ヤクザだろう。ヤクザは強大で無慈悲だが、イタリアのマフィアに劣らぬ厳格な掟を持っている。ヤクザを題材にした映画は何も新しいものではなく、アメリカの西部劇からゴッドファーザーに至るまで描かれ続けている。

HBO Maxの『TOKYO VICE』は、J.T.ロジャース氏が手掛けた、全8話のドラマシリーズだ。目新しさや巧妙さはほとんどない。日本語を学び、東京に住み、大手新聞社で働き、同名の自筆本にすべてを記した実在のアメリカ人ジャーナリスト、ジェイク・アデルスタイン氏の「冒険」を描いた本作は、ネオンサインがきらめくダークで危険な旅へと私たちをいざなう。犯罪記者として、東京の裏社会や警察と関わったアデルスタイン氏の経験が、テレビシリーズ制作の大きなきっかけとなった。

しかしベストセラーとなったアデルスタイン氏の回顧録は、信憑性が疑問視されている。アデルスタイン氏の友人や彼が働いていた新聞社の同僚が、彼が記述した全ての内容の信憑性を疑っていることを、『ハリウッド・リポーター』の記事の中で明らかにしたのである。

しかし、ロジャース氏が手掛けた今作は、本の内容が事実であると主張するものではない。むしろ東京の裏社会における、ヤクザやバーのホステスと警官との愛憎入り混じる関係性をフィクションさながらに描いており、ありのままを厳密に描写しているわけではない。序盤のシーンでは、アンセル・エルゴート演じるジェイクに対し「日本に殺人事件は無い」と警官の一人が言う。その後、劇中では血と死体が描かれ、石田(菅田俊)と戸澤(谷田歩)という2人のヤクザの間で繰り広げられる激しい権力争いへと発展していく。

そこに、女子修道院から金を盗んで故郷を飛び出したバーテンダー、サマンサ・ポーター(レイチェル・ケラー)のサブストーリーが組み込まれていく(あまりうまくハマってはいないのだが)。ジェイクも同じように、病気の妹のいる家族を残してミズーリ州からやってきていた。そもそもなぜ彼が東京へと降り立ち、「外人」というレッテルを貼られながらも日本の新聞社で働くためにそんなに一生懸命になるのかは、ほとんど明らかにされない。犯罪を担当する記者が従うべき厳格なルールがある文化圏で、彼が一線を越える(警察の報道資料をコピーする)たびに、編集者である上司から「外人」と何度も怒鳴られるのだ。

こうした出来事は、東京で半年間研修生として過ごした私にとっては理解しがたいことであった。誰も私をそう呼ばなかったし、『TOKYO VICE』に出てくるような仕組みの新聞社も見たことがない。筋書きありきの御都合主義で、明らかに作中の誇張表現が多すぎる。特に、サマンサがジェイクから乗り換えてヤクザの佐藤(笠松将)に忠誠を誓う姿は、とても信じがたいものだ。

しかし、2つの人間関係に関してはうまく描かれている。ジェイクは犯罪捜査官の片桐ヒロト(日本映画界の大黒柱、名優渡辺謙)と固い絆を築き、ジェイクはまた新聞社の上司、丸山詠美(菊地凛子)と仕事仲間として素晴らしい関係を築く。これらの関係は、今作に欠けている温かさを添えてくれている。

また、かの有名なマイケル・マン(もうすぐ80歳)にパイロット版プロットの監督を依頼し、シリーズのトーンを変えようと試みたわけだが、これは残りの7話で裏目に出ることとなってしまった。この変化は明らかに目立ち過ぎており、アンセル・エルゴートを含む演技派俳優陣でさえ、『TOKYO VICE』をその悲惨な混沌から救い出すことはできない。

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